先日、一部の保育園で、使用済みのおむつを保護者に持ち帰らせる対応を見直す動きがあると報じられた。
全国の一部自治体で、保護者が使用済みおむつを自宅に持ち帰って処分する対応を見直す動きが広がってきている。
~中略~
おむつを持ち帰りとしている理由は、自宅で排せつ物を確認して健康管理に役立ててもらう、園に使用済みおむつを置くスペースがない、処理費用がかかる-等があるとされる。
使用済みおむつ「保育園で処分」 全国の一部自治体、保護者持ち帰り見直しの動き 佐賀新聞 2018/08/20
記事によれば、あるこども園の園長は「子どもと接する時間が少ないので、せめて体調の変化に触れてもらいたいと思っていた」と話したという。
■保育園でまとめて廃棄したほうが皆ハッピーになる。
筆者も2人の子どもを保育園に預けて働いているが、子どもと接する時間が少ないことは否定できない。仕事が立て込めば、夜にこどもの寝顔をみるだけという経験も、保育園を利用する保護者なら「あるある話」ではないかと思う。
そもそも論となるが、このように子どもと接する時間が少ない中で保育園に子どもを預けている親に、使用済みのおむつを一枚一枚確認する時間的余裕は果たしてあるのだろうか。
健康管理(例えばおなかがゆるいなど)であれば、日々保護者と保育園がやりとりしている交換日誌への記入や、送迎時のちょっとした会話でもフォローが可能なはずだ。むしろそうしたやりとりをきっかけに、子育てについてのコミュニケーションが図られるのではないか。
厚労省「21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児):第7回」によれば、「子どもを育てていて負担に思うことや悩み」として、「自分の自由な時間が持てない(31.7%)」「子育てによる心身の疲れが大きい(26.6%)」「気持ちに余裕をもって子どもに接することができない(25.0%)」等の回答が寄せられている。
たかが「使用済みおむつの処理」と思われるかもしれないが、日々持ち帰りさせられる使用済みおむつの確認で子どもと接する時間はさらに短くなるのではないか。
また、記事中におむつの処理費用の話があるが、一般に紙おむつは燃やせるごみとして処理可能だ。例えば毎月保護者数で案分してごみ袋代を徴収するなどすれば、保護者としてはわずかな出費となる。保育園側としても使用済みおむつを各人ごとに返却していた作業が、まとめてごみ袋に廃棄するだけとなるのだから、むしろ業務の効率化が図れるのではないか。
■これまでの慣習を無批判で踏襲していただけではないか。
本件は単にこれまでの慣習を見直す努力を怠っていただけの話に思える。繰り返すが、ちょっとしたコミュニケーションによってこどもの健康状態を把握することは十分可能で、一人当たりわずかなごみ処理代を徴収すれば事足りる。
話は変わるが、保育園で使用するグッズは多岐にわたり、例えば着替え袋や絵本袋を手作りで持参するよう指示されることが多い。これも、元をたどれば「昔は100円ショップなどもなく、適当なサイズのものを自作せざるを得なかった」という事情と「仕事で子どもと接する時間が少ないのだからせめて親の愛情がこもった手作りの品を持たせるのが好ましい」というマインドが重なったものと思われる。
手作りを否定するつもりは全くないが、実際上はサイズが同じであれば既製品でも全く問題はない。多くの家庭では、昔々の手作りマニュアルが配布されるので、それに従って頑張って作成しているのが実態だろう。そうであるとすれば、グッズの手作りを行うこと自体がもはや意味をなしていないとも言える。
■ルールは守るだけでなく、つくるもの。
本件の本質は「制度の運用について、その本来の趣旨に想像が及んでいない」という、ビジネス等でも陥りやすいトラップが隠れているとは言えないか。
会社の制度について「どうしてこのようなルールなの?」と聞かれて、とっさに答えられなかった経験はないだろうか。恥ずかしながら筆者も若かりし頃「とにかくルールですので」と押し切った経験が何度かある。自戒を込めて言えば、単なる思考停止状態であった。
働くうえで、ルール通りに事を進めることは得意でも、そもそもなぜそのような運用がなされているかについては、なかなか思い至らないものだ。その結果、いつのまにかその運用が時代遅れになったり会社の実態にそぐわなくなったりしている、というのもよくある話だ。
「学校で熱中症が発生する理由。」でも言及したが、人は何かと理屈をつけて現状を変えるのに抵抗したがる生き物だ。仕事をするうえで「現状維持バイアス」に注意が必要なのだ。ルールに沿って確実に仕事を進めるということももちろん大事だが、ルールについて批判的に検証し、必要に応じてメンテナンスを加え、新たなルールをつくっていくという姿勢が求められるのではないだろうか。
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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント
【プロフィール】 人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。