Facebookで目にしたフォーブスの記事『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』と東洋経済の記事『世界のエリートが「美意識」を鍛える根本理由』を読んで、「ああ、私がMBAまで取ったのに、6年前クリエイティブ業界に舵を切ったのと同じだだ」と思ったので、今日はそのことを。 上記2つの記事は『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』という本の書評です。
この本は、
いわゆる伝統的なビジネススクールへの出願数が減少傾向にある一方で、アートスクールや美術系大学によるエグゼクティブトレーニングに、多くのグローバル企業が幹部を送り込み始めている実態(*1)
を捉え、
(「論理的・理性的な情報処理スキルの限界」が顕在化している世界において)質の高い意思決定を継続的にするためには、明文化されたルールや法律だけを拠り所にするのではなく、自分なりの「真・善・美」の感覚、つまり「美意識」に照らして判断する態度が必要になってくる
(『イノベーションのジレンマ』で有名なハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が同校卒業生へのアドバイスとして)「人生を評価する自分なりのモノサシを持ちなさい」と述べている(*2)
今、エリートに求められるものは「真・善・美」の感覚、つまり「美意識」であり、「人生を評価する自分なりのモノサシ」だという本。
*1・・・参照 Financial Times: "The art school MBA that promotes creative innovation", "MBA-toting evangelist for 'art thinking' at work"
*2・・・この授業について以前『人生をどうやって測るのか?』で書いており、私の人生の指針にもなっています。
私は2004年にフランスのINSEADというMBAを卒業しています。 INSEADは私がいた頃は世界MBAランキングの10位圏内だった記憶がありますが、2016年、2017年と連続でFTのMBAランキングでトップになったので、日本でも俄かに注目されているそうです(*3)。
*3・・・基本的に私はランキングや統計でキャリアを決めてはいけないと思っています。 判断基準は自分に合っているかどうか、あくまで軸は自分です。 参照:『統計を参考に個人のキャリアを決めてはいけない』
詳しくは『私がいたソニー』という記事に書きましたが、MBAの前職はソニーの海外事業の部署にいました。 その時に悔しかった経験を基にビジネスをもっと理解したいと思ったのがMBA留学の動機です。 いや、むしろ学生時代から「人が人間らしく生きられる」 ヨーロッパ(*4)が好きで日本企業だと一時的に物理的にヨーロッパには住めても精神的に日本企業社会から逃れることはできなかったので、「ヨーロッパとの人的コネクションをつくる」のが大目的でビジネスはツールとして使っただけかもしれません。
*4・・・参照:『人が自然に生きられる社会』
いずれにせよ、私が、
もはやMBAの世界ではない
と悟ってしまったのは、世界最高峰のビジネスの授業を受けている留学中でした。 同じくソニーからのMBA同期が見せてくれた手の中で怪しく美しく光るiPodがそれです。 デザインの美しさもさることながらiTunesを核とするハードとソフトのシームレスな連携が衝撃でした。 その頃、他のミュージックプレーヤーはMP3プレーヤーのようなハードのメモリに頼っていたような記憶があります。 2004年当時はまだ今のように優秀な学生がこぞってベンチャーに行くような時代ではなく(*5)、日本では理系も文系も優秀な人材がこぞって集っていたソニーがつくれなかった世界観をつくったのは、紛れもなくMBAでは得られないビジョン・世界観を持った人たちでした。
*5・・・もちろんDeNA創業者 Quipper創業者の渡辺さん(大学の先輩です)のような10歩先くらいの未来が読める人はベンチャーに行ってましたが、私のような普通の学生は大企業に就職していました。
気づいたのは留学時だったのですが、行動を起こすのにはもう少し時間がかかります。
INSEAD卒業から7年後の2011年、私は「結婚相手を見つけて結婚する」、「子どもを産む」、「ヨーロッパに住む」などプライベートでの重要かつ差し迫った案件を次々にこなしてロンドンにいました。 諸般の事情で、妊娠8ヵ月で無職でロンドンに来た私は長男を生後7ヵ月で保育園に預けてから就職活動をしていました。
日本で最後にやっていた仕事が総合商社でテクノロジーベンチャー(アーリーステージではなく上場前のステージ)への投資だったので、その線で仕事を探すことにします。 業界的にはプライベート・エクイティや企業のM&A部門になるのですが、ビジネス系サラリーマンの若手キャリアでは給料も入りにくさもトップレベルに位置するこの業界にはハーバード・オックスフォード・INSEADなど巷にごろごろしています。
また能力(ability)に加えて長時間コミットすること(availability)も要求されるので激務です。 ロンドンで就職活動をすると、「ハーバードの学部を出てカーライル(PE)で3年働いてINSEADでMBA取ってヘッジファンドで働いている英仏伊蘭4ヵ国語を操るイタリア人とオランダ人のハーフ27歳」(*6)が「24時間働けます」的な勢いで同等エリートとしのぎを削っているのですが、日本的に商社の中で偶然投資担当になっただけでPEやファンドにいた経験もなければM&A専任だったわけでもない、ヨーロッパでのコネクションも業界経験もない、乳飲み子抱えて出張もできないアジア人女性である私など全くお呼びでないわけです。
*6・・・実在人物です。 本当にこんな人がごろごろいる世界でした。
私の方でも第一子を産んだ時にすでに34歳で、2人はもちろん3人でも4人でも欲しいと思っていたので(*7)、長く続くわけがないキャリアを追うのを止めることにしました。 その時、瞼の裏に浮かんできたのが7年前のあの日見たiPodでした。 「私、賢いんです」競争が「私、24時間働けます」競争と切っても切り離せないことを痛感し、「私、賢いけど安いんです」というインドなど発展途上国の労働者との競争や「私、賢い上に24時間働けます」というロボットとの競争がすでに始まっていました。 子どもが産まれたのを機に「孫どころかひ孫の顔も見たい」と思うようになったので、
どうせ男性より10年長く生きるんだから10年くらいキャリアが遅れてもいいじゃない
というどこかで読んだ言葉を励みに、簡単に機械などに代替されない(されにくい)直感やセンスを磨くことにし、思い切って大転換をしました。 もっと詳しくは『クリエイターになりたい。』、『要注意なお仕事リスト』などに書いています。
*7・・・参照:『35歳までに産みたい30歳前後のキャリア女性に』
ビジネス系のキャリアのまま美意識を鍛えるのではなく、軸そのものを移した私ですが、スティーブ・ジョブスの言うように、ビジネスとクリエイティブの点(ドット)はそのうちどこかでつながるものだろうと楽観視しています(*8)。クリエイティブなアウトプットの表現方法として「空間」を選びましたが(*9)、それがどう昔の自分の経験とつながってくるのか自分でも楽しみです。
*8・・・『まずは器をつくって入ってみる。』
*9・・・『記憶に残るのはどんな感情を抱いたか』
直感と言えば、『直感と信念の人』で書いた友人の慎泰俊さん(著作)を思い出します。 彼は生来備わっているものと思われがちな「直感」を意識して鍛えているのですが、現代アーティストの村上隆さんも「戦略とマーケティングで(言い換えると"努力"で)世界最高峰レベルの芸術家になれる」と『芸術起業論』で説いています。 美的センス・審美眼があることを英語ではそのまま"have an eye"(眼を持っている)という言い方をしますが、それは意識して鍛えることができるものとされています。 意識して鍛え始めてから6年目の私はまだまだヒヨッコです。 9月中旬には『ロンドン・デザイン・フェスティバル2017』という審美眼を鍛える素晴らしい機会があるので、興味のある方はご連絡ください。