3年半、FabCafe(ロフトワーク)で働き、独立をした相樂園香さん。グラフィックからWeb、空間まで「デザイン」と名のつく仕事は何でもこなしてきた。ある時には、フランスFabCafeチームの立て直しも。どう彼女は「デザイナー」という職種の枠を超えてきたのか。
葛藤してもいい。冒険をしよう。
相樂園香(さがらそのか)さんは、なんとも肩書きを紹介するのがむずかしいクリエイターだ。彼女がユニークなのは、デザインや企画と名のつく仕事なら、何でもこなすということ。
たとえば、イベントのフライヤー制作からWebサイトのデザイン、3Dデザイン&レンダリング、カフェ空間の設計・デザイン、さらにはワークショップの企画・運営まで。
ある時には「フランスに飛んでほしい」というオファーに「行きます」と即答。FabCafeのフランス拠点に滞在し、海外視察・チームビルディングを担った経験もある。
今でこそフリーとして独立し、マルチに活躍している相樂さん。そんな彼女も新人時代には、葛藤していたという。
「入社1、2年目の頃には、私の強みってなんだろうと悩んでいましたね。何でも屋になってしまうんじゃないか。"これだ"という武器を探したい、と」
こういった悩みを抱えながらも、自分の歩む道を見つけ、活躍のフィールドを広げてきた。
彼女はどのようにしてデザイナーという職種の枠を超えてきたのか。そのウラ側は「どんなことにも好奇心をもって挑戦しつづける」というマインドがあった。
< プロフィール >
相樂園香 Sonoka Sagara
大阪芸術大学出身。2013年春から3年半、FabCafe(ロフトワーク)で働く。FabCafeではカフェ運営やイベントの企画、デザインを担当。2017年、フリーランスとなる。2ヶ月のフランスFabCafe拠点での滞在を経て、現在はFAB施設の立ち上げからワークショップなどの企画、3Dデザイン・レンダリングのクライアントワークもこなす。クリエイティブユニット「slogan」としても活躍中 http://weareslogan.com/
新しい冒険にこそ「イエス」を。
ー相樂さんはWebも、紙も、空間も、もっといえばコミュニティのデザイン、ワークショップの企画・運営までされていますよね。どのようにして、それらのスキルを習得していったのでしょうか?
やりながら、というのが大きいですね。もともとそうなりたかったというよりも、成り行きの部分もあって(笑)。
じつは、全く種類の違う2つの仕事を頂いてどちらを選ぼうか迷っていた時に、友達がくれたプレゼントに「Say Yes To New Adventures(新しい冒険にイエスって言おう)」というコトバが書いてあって。すごく自分にぴったりだと思ったんですよね。だから「とりあえずイエスって言おう」と。人生のテーマですね。
だから、少し難しそうなことや、できるかわからないことでもチャレンジしてみようと心がけています。不安に思っていたことも、プロジェクトが終わることには不思議とできてしまっているんですよね。その間は必死に勉強するのですが(笑)。
ーフランス行きも、そのチャレンジの1つ?
そうですね。「相樂さん、フランスで働かない?」と突然メッセージをもらって、「もちろん働きたいです!」と即答しました。正直、そのときにはできるかどうかなんて分からないんですよね。でも、やり方は後から考えればいいかなとおもって。
フランス滞在で学んだ「現場を知ること」の大切さ
ー実際フランスではどのようなことにチャレンジされたんですか?
フランスに滞在した経験ですが、ちょっと複雑なので、まずは前提からお話させてください。フランスのトゥールーズという街に、「Artilect(アーティレクト)というFabCafeとfablabが同じ施設内に共存する施設があり、2ヶ月ほど滞在をしました。
そこでは普段からコンピュータ基板やロボットなどを作っている人が多くいて。なかには飛行機の金属部品を加工する「ガチ」な人もいる。ものづくりをやったことのないお客さんにとっては少し敷居の高い場所でした。
そこで、ギークな人たちばかりが集まるものづくりスペースを、より一般に開かれたものにする。それが大きなミッションとしてありました。
もちろんそういったプロフェッショナルの方々の存在が場所の強みでもあるのですが、ものづくりをしたことがある人もそうでない人も、より多くのお客さんがもっとFabを楽しみ、親しんでもらいと考えていたんです。
また、2018年には『FAB14』というFabの大きなイベントの開催がトゥールーズで予定されており、世界中のfablabから人が集まります。それまでに、より多くのお客さんを迎えられるような、魅力的な場にしたいと考えています。
ー...2ヶ月で実現するのは難易度の高いミッションのようにも感じます。
もちろん2ヶ月ですぐそういった「場」にすることはむずかしいです。ただ、土台はつくれるはず。そこで近所の方々も含めて参加できるワークショップやミートアップイベントを定期的に開催することにしたんです。たとえ私がフランスを離れたあとも、継続できる取り組みとして。
ーどのような内容のワークショップだったのでしょう?
開催したワークショップの1つとして、「革」をつかって、日常生活でもつかえるような「小銭入れ」をつくろうというものがあります。
私としては「初めてでも簡単につくれて、親しみが持てるもの。身近なもの」という発想だったのですが、FabCafeのフランス人スタッフたちにすごく驚かれたんですよね。
というのも、彼らは日頃から仕事でレーザーカッターを使用していますが「レーザーカッターで革製品のような日常的なアイテムをつくる」という発想がなかったみたいで。スタッフにも凄く楽しんでもらうことができました。
ー「やる側」が楽しむことが大事に?
そうなんですよね。私が大切にしているのが「自分たちが提供しようと思っているよろこびを、まず自分たちが知る」というもの。
もともと現地のオーナーも、より多くの人にモノづくりを楽しんでもらうために何ができるかを日々考えていましたが、自身がモノづくりがバックグラウンドではないので、「自分はクリエイティブな人間ではないから」と少し距離をおいている部分がありました。
彼女にもモノづくりの喜びを知ってもらいたかった。そこで「店内に飾る大きなランプシェード」を一緒に作ったんです。はじめは「私はクリエイティブじゃないから、恥ずかしい」と言っていたのですが、段々と楽しんでくれるようになっていきました。
Illustratorやレーザーカッターの使い方もイチから一緒に習得していって。最終的には、3Dデータを作り、紙や厚紙を切って型にし、糸を巻いてすごくかわいいランプシェードができたんですよ。「ランプー」っていう名前もつけたりして、すごく楽しんでくれて、私もうれしかったですね。
「場」は行動や気持ちにも大きく影響を与えていく
ー相樂さんのお話を伺っていると「場をつくる」ということを、とても楽しんでいるように感じます。
そうですね。ここ最近はとくに「場づくり」がおもしろいなと思います。
「場」って人の行動や気持ちにも大きく影響を与えていくものなんだと思います。大げさに言えば人生、生活スタイルなど、どのような「場」に自分を置くかによって決まる部分があって。自分がどこに属するか。どういう生活を送るか。
私自身、ちょうどフランスにいたとき、マックブックの充電器がこわれたことがあったんですよね。東京にいたら絶対に「新しいやつを買おう」ってなったはず。でも、フランス滞在中には「あ、自分で直してみよう」って思ったんですよね。なぜなら「はんだごて」や「ドリル」など充電器を直せる道具がそこにあったから。
あとは物理的にも買える店が近くになくて、ネットで買っても届くまでに時間がかかってしまいます。実際、1時間くらい作業したら買わなくても修理ができて。「場」や「環境」って人の思考回路や価値観まで変える。そう思うとすごくおもしろいですよね。
「わかりやすい武器」がほしかった新人時代
ー最後に伺わせてください。現在、マルチに活躍されている相樂さんですが、新人の頃から今のような道を歩むと想像されていましたか?
いえいえ、ぜんぜんそんなことはないです。じつは新人時代、たしか社会人2年目くらいのとき「制作会社で修行してこよう」と思ったこともあったんです。
デザインも、ワークショップも、カフェ運営も幅広くやっていたから「いったい自分は何者になれるんだろう」という不安がありました。
いま思うと「わかりやすい武器」がほしかったんですよね。私、スーパーマンとかすごい好きで。「空が飛べる」とか「超力持ち」とか、わかりやすいですよね。そういうの観ると、もっとわかりやすく強くなりたいと思っちゃう(笑)
ロフトワーク代表の林さんに相談したら「もういちど考えてみない?」と話をしてもらって。というのも「みんなの気持ちを分かって、それぞれの役割を丁寧に繋げていく。それもすばらしいひとつの武器だし、今後そういった人が必要になってくる」という話をしてもらったんです。わかりやすい武器を持っている人は、他にもたくさんいるけど、そこが出来る人は多くない、と。
それで悩んでいたことが吹き飛んだんですよね。いろんなことに好奇心を持つ。まずは飛び込んでみて、目の前のことを全力でやってみる。そんなふうにして「自分だけの武器」って自然と身についていくものなのかもしれませんね。
ー強みがわからず、悩んでしまう人も多いかと思います。ただ、葛藤しながらもまずは飛び込んで見る。そこから強みが見つかることもある。相樂さんの姿に勇気をいただくことができました。本日はありがとうございました!
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