多様性を活かすマーケティングに必要な「3つのポイント」とは?

SDGsに、社会貢献ではなくビジネスとして取り組むにはどうすればいいのか。

今回は、SDGsの中でも“ダイバーシティ&インクルージョン”という分野に注目し、さらにはそこから見えてくるビジネスやマーケティングの在り方について考えていく。

■“SDGs”と“ダイバーシティ”

皆さんは「SDGs」と聞いてどのようなことを思い浮かべるだろうか。

「サステナブル」というワードや、「持続可能な開発目標」と訳されることから、「地球環境」「資源」「エコ」といったイメージを持たれる方も多いだろう。もちろんそれは非常に重要な要素であり、取り組むべき大きな課題だ。

しかし一方で、SDGsで掲げられる17の目標を見てみると、「人」についてのテーマが半数以上を占めていることにも気づくはずだ。

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また、この2030アジェンダでは、「誰一人取り残さない――No one will be left behind」という理念が設定されているということも忘れてはならない。

実際に各目標の中身を見ると、「inclusive」「for all」「equality」といったワードがほぼ全ての目標の中に重要な意味を持ってうたわれている。ここで語られているサステナビリティには、人と地球との間の問題のみならず、より大きな課題として人間同士の問題を解決しなければ私たちの未来はない、という強いメッセージがある。

■“ダイバーシティ”と“インクルージョン”

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“Diversity & Inclusion”は本来、常にセットだ。“D&I”と表されることもある。

「ダイバーシティ」(=多様性)というワードについてはようやく日本でもさまざまなところで語られるようになった。一方で「インクルージョン」や「インクルーシブ」というワードについては、まだまだ市民権を得ているとはいえない。そもそも日本語で「包摂(ほうせつ)」と訳されたりするが、この日本語自体に市民権がない。

「ダイバーシティ」とは、人間は一人一人多様だという事実を示しているにすぎないので、「で、どうすればいいの?」という課題は「インクルージョン」の方に託されている。その課題とは、一人一人多様な人々を社会でいかに包摂していけるか。つまりは、いかに誰も「エクスクルージョン」(=除外、排除)することなく一つの世界をつくっていけるか、ということだ。

まさしくSDGsの理念の部分であり、世界を挙げて臨まないと実現できない難問だ。そしてその難問を解決するためのソリューションを生み出す存在として、企業の持つ力をこれまで以上に生かしていくことが求められている。

■“インクルージョン”と“ビジネス”

インクルージョンという課題に向かうことと、ビジネスはどうつながっていくのか?

実際に企業の中では、そうした悩みが少なくないと思う。

確かに日本企業の中でも「ダイバーシティ」というワードが語られ、専門セクターやプロジェクトも動き始めている。しかし、そうした取り組みをされている企業の方とお話をする中でも、「人事の仕事だと思われている」「それでいくらもうかるのかと言われる」「外部からは評価されても、内部からは理解されない」「本業とは別の社会貢献の話と考えられている」といった声が少なくない。

それは、なぜだろうか。

日本のビジネスセクターにおいては、「ダイバーシティ=女性活躍推進」という図式が強い。もちろん非常に重要なテーマであるし、ジェンダーギャップにおいて世界的にも非難を浴びている日本においては最重要課題と認識すべきだろう。そこを核としながら、障がい者や高齢者、外国人、非正規の雇用をはじめ、人々の多様な働き方を含めた議論にまで拡大してきた背景もあり、雇用を中心に置いた「ダイバーシティ・マネジメント」論が日本企業におけるダイバーシティ&インクルージョンの中核となっている。

それゆえ、主に人事部門に紐づく「インナー課題」という位置づけや、ビジネスとは一線を画した「社会貢献活動」という見方が強いのだろう。しかし、企業が雇用のみでインクルージョンに貢献することには限界がある。

では、どうすればよいのか。

“ビジネス”をすればいい。

企業が本領を発揮するビジネスを通じてソリューションが提供されれば、その貢献度はさらに高まり、その価値は社会により強く広がっていくはずだ。またインクルーシブな雇用の成果もビジネスにおいて発揮されることで大きくなる。より大きな効果を持続的に拡大させていくためには、その企業ならではのドメインを最大限に活用したビジネスを通じて、社会のあらゆる人々に余すことなく価値を届けていくというインクルージョン施策を進めるべきだ。

そもそもインクルージョンとは、「より多くの人々に」という思想なのだから、ビジネスにつながらないはずはなく、それがうまく動いていないということは何かおかしなことが起きているということであり、そのビジネスのサステナビリティを疑ってみる必要さえあるかもしれない。

■“サステナブルなビジネス”と“インクルーシブなマーケティング”

ビジネスによってインクルージョンに貢献していく。言うのは簡単だが、何をどうしてよいのか分からない。そうした悩みがあるのも事実だ。なかなか難しいのは、そのビジネスを設計していく際のセオリーがこれまでと異なるからかもしれない。

2017年に電通ダイバーシティ・ラボは、これからの社会において求められる新たなマーケティング概念として、「インクルーシブ・マーケティング」を発表した。

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定義は次のようになっている。

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【インクルーシブ・マーケティング】

ターゲットの共通性を重視し、違いを軽視しがちな

効率型のマス・マーケティングを見直し、

また一方で自社にとって有益な顧客にのみフォーカスを

していく過度なターゲティングの弊害も正しく捉え、

むしろ、多様性を価値として積極的に捉えていくことで、

あらゆる企業活動において新たな課題とチャンスを発見し、

持続的な成長モデルを再構築していくマーケティング概念

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ちなみに、ここでいう「マーケティング」とはリサーチやプロモーション活動のみを指す狭義のものではなく、企業が社会に価値を提供していくための、あらゆる企業活動を指す広義のマーケティングである。

大きくそのステップは以下となる。

1)ビジネスの前提条件を変える

ダイバーシティ&インクルージョンは、事業戦略上すべての企業が見誤ってはならない市場の急速な変化に根差した前提条件であり、これに対応できなければビジネスは今後成立しなくなるものと捉える。

2)マーケティングプロセスの検証

これを前提に、企業のあらゆるマーケティングプロセスを一つ一つ検証していく。自社の理念、雇用の仕組みや職場の環境、制度、事業開発や製造プロセス、コミュニケーションやプロモーション、販売チャネルやロジスティクス、さらにはユーザーとのつながりに至るまで。自社の活動は社会の多様性に見合っているか。誰かを市場から排除してはいないか。

3)インクルーシブなマーケティングの実践

プロセスは循環するので、スタート地点はどこであってもいい。そうした検証を通じて、できることから始める。できていることを探すことから始める。またこのプロセスは企業内を循環していくとともに、商品やサービスの提供を通じて社会にも循環を拡大する。この好循環が社会全体を動かしていく。

インクルーシブな企業がエンジンとなって、インクルーシブな社会を動かしていくのだ。

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■知り合って、付き合い、巻き込んで、つながり続ける

ここでポイントとなるのは、ユーザーや社会のあらゆる人々を積極的にマーケティングプロセスに巻き込んでいき、それを循環させること。雇用と事業と社会の循環もこれによって説明できる。

企業がダイバーシティと向き合い、インクルージョンを実践するならば、その入り口は、雇用、価値提供、パートナーシップ、リサーチなどを通じ多様な人々に目を向け、知り合い、付き合うこと。そして巻き込んで、つながり続けること。それは必ずしも社会的弱者やマイノリティーの話ではなく、一人一人の違い、立場の違い、意見の違いなど、あらゆる多様性に着目したインクルージョンだ。

超高齢化と少子化が進み、地域格差は拡大し、人口減少期に入り市場は縮小、外国からの労働力にも期待をしなければならない日本。あるいは国や文化を超えてグローバルなビジネスが加速していく世界。その中で、例えばSDGsが設定している2030年にはどのような市場になっているか、少し具体的に想像してみていただきたい。

そこには、どんなみんながいるのか?

そこでは、あなたのビジネスは、サステナブルだろうか?

そして、その条件となってくる、そのマーケティングはインクルーシブだろうか?

<プロフィール>

電通ダイバーシティ・ラボ

2011年の創設以来、ダイバーシティ&インクルージョン課題のソリューション&ネットワーク開発専門タスクフォースとして100人以上のメンバーで活動。Diversity(多様性)の価値創造起点として、クライアント課題や社会課題に対し、社内知見や社外組織との連携で向き合い(Connect)、ソリューションを開発・提供している(Development)。

インクルーシブ・マーケティング

#電通TeamSDGs

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