もうコロナ前には戻らない
緊急事態宣言が解除されてはや2カ月。オフィスや街にも徐々に人が戻りつつある。
久しぶりに見る街並み、久しぶりに会う同僚、久しぶりの外食。しかし、数カ月前とは明らかに何かが違っていることを、多くの人は感じていることだろう。
街には以前と同じくらい多くの人がいるけれど、その大半はマスクを着用している。
意識的に人との距離を取ってしまい、久しぶりに友人に会えた喜びを表現しづらい。
おなじみだった飲食店の店内は様相が変わり、座席の間隔が取られ、店主との談笑も透明のパーテーション越し……。
そう、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、私たちは今もなお、そしてこれからも“コロナウイルス”という目に見えない相手と共存していかなければならないのだ。
新型コロナウイルスは、私たちの生活を大きく変えた。
それに伴って、これまで当たり前だったことが当たり前ではなかったこと、そしてその当たり前だと思っていたことが実はとても貴重で大切なものだったことに改めて気づくきっかけにもなった。一方で、今まで気が付かなかったことや見逃していたことに気づいた、という人も多いだろう。
ACRの調査によると、全国の12~69歳において85%以上の人が新型コロナウイルスの発生よって「生活が変わった」と回答。その変化として最も「増えた」のが「在宅している時間」、そして最も「減った」のが「飲食店に行くこと」で、いずれも75%を超える結果だった。コロナ禍での最も大きな食生活の変化は、外食ができなくなり、家での食事機会・時間が増えたことだといえるだろう。
コロナによって見えた利他の精神
全国の4人に3人以上が飲食店に行く回数が減った、行かなくなったとなれば、大きな打撃を受けたのは言うまでもなく外食産業だ。同時に、そういった飲食店を中心に食材を卸していた生産者、卸売業者や商社、メーカー企業にも大きな影響が出ていることは皆さんもご存じの通りだろう。
電通「食生活ラボ」では、「新型コロナウイルス感染拡大による食への影響と変化・事例」というレポートを作成し定期的に更新、発行しているが、そこに集まっている200を超える飲食事例のうち最も多いのが「食を通して困っている人を支援」するもの。困っている飲食店、生産者への支援をはじめ、医療従事者への支援など、全国でなんとかして困っている人たちを助けようとする取り組みが多いことが見て取れる。
実際、困っている生産者や事業者を支援する輪が広がっている様子は、SNS上でも垣間見られる。コロナによって抱えることになった大量の在庫の食品に支援を求める投稿があると、全国からそれを購入したいという声が集まり、あっという間に完売している様子も見ていると、困っている人を助けたいという利他の精神が全国で起きていることを実感せずにいられない。
社会的な危機に直面すると、人は利己的な行動に走る傾向があるが、今回のトイレットペーパーや食料の買い占めにもそれが表れていたといえるだろう。にもかかわらず、そのような状況下でも、私たちは利他の気持ちを持ち、アクションに移すこともができたのだ。
このような動きは、85%以上の人がコロナによる生活の変化を実感したことで、これらの社会課題が自分ゴト化されたことが大きいのではないかと筆者は考えている。自分もコロナ禍の生活で困っていることがある。でも、自分よりもっともっと困っている人がいるならば、同じ社会の共同体として助けたい、という思いによるものではないだろうか。
SDGs(国連で採択された持続可能な開発目標)は、地球、そして地球上の困っている人たちを救うことを目的として策定されたが、新型コロナウイルスによって表出した社会課題に対して、私たちがそれを自分ゴト化し、力を合わせて立ち向かうことができたこの経験は、今後SDGsの達成に向けて生きてくるだろう。
社会課題のソリューションとして顕在化したインターネット
前述のACR調査で、コロナウイルス発生によって「減った」ことの1位「飲食店に行くこと」に続き、2位は「友人・知人との時間、遊ぶ時間」、3位が「デパートやスーパー、店舗に買い物に行く時間」という結果だった。
外食できない、友人にも会えない、買い物にも出かけづらい、というステイホーム生活に救いの手を差し伸べたのがインターネットだ。
ECサイトのおかげで、私たちは家にいながら必要なものを無理なく購入することができ、おなかがすけば飲食店のデリバリーサービスで出来たての料理を家まで運んでもらうこともできる。このコロナ禍で、初めてこういったサービスを利用するようになったという人も少なくないだろう。
食に限らず、働き方においても同様で、これまでもテレビ会議システムなどリモートワークをサポートするシステムはあったものの、コロナ禍の在宅によって一気にその活用度が上がったことは自明だ。以前からも、働き方の多様化に向けたリモートワークの導入は求められてきたが、図らずもこれを機に一気に加速したカタチとなったわけだ。
またオンラインでのコミュニケーションは、仕事だけでなくプライベートにおいても広がりを見せた。電通「食生活ラボ」の調査によると、緊急事態宣言後、1割以上の人がオンラインでの食事や飲み会が以前より増えたと回答している。
この調査の回答者は40代と50代が大半であることから、決してデジタルネイティブな世代ではないが、ステイホーム生活を余儀なくされたことによって、幅広い層でリモートシステムが活用できるようになったといえるだろう。
これまであまりEC化が進んでこなかった食品においてそれが進んだことは、近くにスーパーがない地域に住んでいる人や、脚が不自由な高齢者の方にとって買い物がしやすくなったということだ。
食品はできれば目で見て手に取って匂いをかいで買いたいという潜在意識に応えるべく、ECサイトでは細かい情報開示が求められるが、これはダイバーシティの観点においても重要なポイントである。
これまではハードルが高いと思われていたオンラインシステムの利用はこれからも継続され、拡大することだろう。そしてそれは、多くの社会課題のソリューションにつながるのではないか。
これからの私たちの生活は、コロナウイルス発生前と同じ状態に戻ることはないだろう。しかし、コロナ禍の生活を通して私たちは、社会課題を自分ゴトとして捉え、オンラインによって困っている人を助けることができたり、目の前の課題を解決できることを知った。
私たちは、これからも健康に気を配り、安全に暮らせることを第一優先としながら、コロナウイルスによって引き起こされた問題に向き合っていくことになるだろう。電通「食生活ラボ」は、そういった私たち生活者の気持ちに寄り添いながら、その先にある社会課題の解決に向けてさらなる一歩を踏み出した提案を続けていきたいと考えている。
(対象:男女個人12~69歳12,342s/70~74歳643s エリア:東京50㎞圏/関西地区/名古屋地区/九州北部地区/札幌地区/仙台地区)
<プロフィール>
日本の食生活の「今」を知り「これから」を共創していく、食に特化したオープン型ラボです。 1983年に始動した「食マップ」プロジェクトを発展させて2010年に発足。以来、知見の集積とアップデートを重ねています。
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