世界的なPCメーカー、デル株式会社 広域営業統括本部プレゼンツの同社上席執行役員の清水博さんによるブログが連載中です。第9弾は、デル社内やセミナーでしか公開していない、デルおすすめの書籍200冊の紹介です。
「なにかお勧めの本ありますか?」
本好きを公言しているため、今まで何度も尋ねられた質問です。そのほとんどの方が、普段あまり本を読んでいないので、なにか良い1冊(1冊でさまざまなことが一気に勉強できる本、という意味で)はありますか?と質問をされるのですが、なかなか期待に沿うことはできません。
少し虫が良すぎる話ではないかな、と感じます。同じようなカテゴリーの本を読んでいる人同士で会話した際に、まだ読んでいない本1冊を提示されてとても有効なことはありますが、たった数冊の本だけを推薦して最大の効果を出すことはなかなか難しいと思います。
現在、私の担当しているDELL広域営業統括本部(従業員が100名から1000名未満の企業様を担当する部署)では、今年度も多くの中途入社の仲間が加わりました。幅広いDELL Technologiesの製品を販売するインサイドセールスです。DELLのインサイドセールスの仕事については、「DELLのインサイドセールスは、"ポイントガード"として最高のパフォーマンスを追究する」をご覧ください。
しかし、社員の半数以上が、IT業界の経験者ではないため、約3カ月間にわたる長期のトレーニングカリキュラムを提供しています。勉強熱心な社員が多く、「どんな本を読んだら良いのですか?」との質問を多く受けます。
お客様とこの話をしたところ、お客様の社内でも、IT経験が少ないIT担当者が多いということで、選書プロジェクトを始めました。
結果、200冊以内には絞れない
そこで、本部内の本好きなメンバーが集まって喧々諤々、推薦図書をまとめました。メンバーの多くは、MBAを取得しているので、体系的に大量の本を読まされた経験があります。また、書籍関係の仕事を経験し、さまざまな本を幅広く読んでいるメンバーばかりです。
最初は、30冊か50冊程度に絞って、部門内に推奨図書として案内しようと思っていましたが、どうしても絞っていく事ができません。同じカテゴリーで似たような本であっても、読み方によっては全く異なる印象になるものも多く、平行線の議論が続きました。
また、メンバーの年齢によっても、推薦図書の傾向が少し異なりました。20代から50代までのメンバーがいましたが、多感な20代のころに読んだ本に特に影響を受けやすいようで、その当時の書籍をメンバーそれぞれが推薦してきました。その中には、バブル、ホリエモン登場、ロスジェネ世代、76世代、ゆとり世代など、その当時の空気感を表す本もありましたが、景気は循環し、歴史は繰り返されるものなので、それらも今後の参考になると感じました。
そして、苦労してなんとか200冊までに絞ったのです。
17のカテゴリーを鳥瞰する
200冊は、次のカテゴリーに分類されました。①コミュニケーション、②ビジネス・スキル、③ロジカルシンキング、④IT、⑤業界研究、⑥ビジネスマナー、⑦マーケティング、⑧リーダーシップ、⑨マネジメント、⑩ファイナンス、⑪統計学、⑫アントプレナーシップ、⑬オペレーション、⑭自己啓発、⑮心理学、⑯哲学、⑰DELLになりました。全体を見渡すと私たちのビジネスがカバーされています。
これらの本は、複数テーマに関連することもあり、カテゴリーを明確に決めることが難しいものも多くあります。マーケティングなのか、マネジメントなのかと、読む人の受け止め方により異なりますので、その点はご了承ください。
「オアシス」か、「藁にもすがる」場所なのか?
執務フロアの片隅にある本棚には、200冊の本が詰まっています。時折、インサイドセールスが、本棚の前で本のタイトルを目で追ったり、手に取ったりしています。なにか小さい壁にぶつかり、解決策が見いだせず、問題を解くためのヒントを探しているのかもしれません。あるいは、仕事がひと段落ついて、気分転換に来ているのかもしれません。理由はなんでも良いでしょう。
私もそうでしたが、そんな時に手にする本は運命的な出会いだったり、悩んでいた気になるフレーズが目に飛び込んできたりします。その後、一生付き合う本になることも。私の場合は、大前研一氏の『企業参謀』です。その本に出会った時、雷鳴が轟き、体内で稲妻が走ったような感覚になりました。そして自身のビジネスキャリアにも大きく影響を与えてくれました。インサイドセールスのメンバーにも、この200冊を手に取ってもらい、刺激を受けてくれると嬉しいです。全部読むには、時間がかかるでしょうが、全てをしっかり読まなくても、まずはチラチラ見ることを勧めています。
また、全国のセミナーに、この本棚は出没します。「こんな本を読んでいるのですね」など、写真を撮っていかれる方もいます。最近、大阪で開催されたセミナーでも、多くのお客様に、本を手に取って頂きました。
①コミュニケーション
現代の仕事は、何事もコミュニケーションが大事とされています。企業内で問題が起きても、「コミュニケーションの問題」に収斂されることも多いのではないかと思います。特に、IT業界ではその重要性が増し、お客様との打ち合わせ内容、説明内容などがとても重要となります。また社内では、様々なファンクションの仲間と正確にコミュニケーションする必要があります。
②ビジネス・スキル
コミュニケーションの一部かもしれませんが、図説することやライティングの技術は、ビジネスではとても重要です。従って、メモを正確かつ効率的にとる方法や、文章を伝えるための目標や成果などを学ぶことが不可欠となります。とても奥が深いですが、少しずつ勉強していくことを勧めています。
③ロジカルシンキング
コミュニケーションが上手くいかない状態は、相手が何を伝えようとしているのか、その背景にある状況や考えなどをうまく類推できない時に発生します。また、こちらが伝えたい内容を明確に伝えられないという悩みも多く聞きます。このような問題は、論理的な思考と論理的に表現する能力を鍛錬することで、解決できるでしょう。実際の対話を繰り返して習熟する部分も大きいですが、まずはフレームワークを理解すると上達も早いです。
④ IT
このカテゴリーは、議論百出でした。ITインフラ企業としては、妥協できない分野です。IT関係の本は、読む人によっては、とても難しく感じるでしょう。しかし、根気よく読むうちに少しずつわかってくるのもIT関係の本の特徴と言えます。
IT関連の知識の量はセールススキルにつながります。知識が豊富なセールスは信用度が高いためです。私が営業経験数年のころの話になりますが、同僚がスキーで複雑骨折をしました。上司からはとても怒られていましたが、コンピュータのマニュアルなどIT関連の本を病室に持ち込み、入院中に読み進めていきました。その結果、その同僚は本で得た知識を元に圧倒的なセールスの実績を上げ、その後SEになったほどでした。IT業界で働くのであれば、ITを勉強すればするほどスキルが上がります。
⑤業界研究
IT業界は未経験者にはとても難解です。なので、産業構造の仕組みを勉強することは必須と言えます。またお客様の産業を知ることが、その後のコミュニケーションにとても役立ちます。私たちの部門では、全ての産業がお客様です。新しい出会いは、とてもワクワクしますので、業界研究も楽しみの一つです。
⑥ビジネスマナー
いつものビジネスシーンで、ちょっとした気配りや、相手を思いやる気持ちがあると、仕事が円滑になることがあります。中途入社社員向けにビジネスマナー講座を開催したのですが、とても有意義だったので、このカテゴリーも追加しました。
⑦マーケティング
最近のセールス活動は、マーケティング活動と表裏一体です。そのため、基本的なマーケティングの仕組みと用語はおさえておいた方がいいでしょう。また、毎日のセールス活動は、販売することのみならず、お客様と接する最前線での情報収集の意味もあります。私もセールス出身で、マーケティングにキャリアチェンジしましたが、マーケティング知識があればセールス実績にもプラスになり、加えて社内のさまざまな部門とのコミュニケーションがしやすくなるという利点もあります。
⑧ リーダーシップ
現在は、さまざまなキャリアパスが奨励されているので、マネージャーになることが必ずしも次のキャリアの指定席となる訳ではありません。しかしながら、一人一人の仕事の権限委譲としてのエンパワーメントが増加していく中、誰にとってもリーダーシップを発揮すべき局面が増えてきています。特にIT業界では、インサイドセールスが社内のさまざまなリソースにアクセスしてお客様に向けての体制構築をしていく必要があります。この時、チームや個人として利害関係を調整する、方向性を示す、などのリーダーシップスキルが求められます。
⑨ マネジメント
最近はいろいろな会社で、幹部社員の候補が少ないと嘆く声をよく聞きます。その理由の一つには、現在の会社員はマネージャーになりたい人ばかりでは無い、ということがあると感じています。マネジメント側から見ると、現代のマネジメントに合う人材とは?という疑問に正確に答えきれないこともあります。というのも、マネージャーになった時にはじめて、その人の新たなポテンシャルに気がつくことも多いからです。
しかしその一方で、マネジメント職を志してその仕事を目指す方もいらっしゃいます。その方は大量にマネジメントの知識を吸収し、後輩の若手社員をサポートし、実践していく中で身につけていたりします。マネジメント職を目指さなくても、本を読んでみると、会社の中で動きやすくなるヒントが見つかるのではないでしょうか。
⑩ファイナンス
セールス職といえども数字に強い人材となるに越したことはありません。また会社は、さまざまなファイナンスの数字によりビジネスの健全性を把握しています。その意味や仕組みを理解していると、本社の業績発表の内容等を理解することができる上、自身の仕事の会社への貢献度などにも親しみを感じられます。慌てなくても、少しずつ知識を吸収していくと良いでしょう。
⑪統計学
統計学の概念があると、自分の担当するお客様やテリトリーなどのビジネスの傾向と対策を、過去のデータにより導き出すことができます。簡単な学問ではありませんが、やはり知識があると、自身の仕事の幅が広がるでしょう。以前、この分野は、難解な本が多かったのですが、最近ではとてもわかりやすいものも多くなっています。本をパラパラめくってみるときっと読みたくなると思います。
⑫アントプレナーシップ
DELLは「世界で一番大きなベンチャー企業」と言われることがあります。そのため社内のあちらこちらに、今でもさまざまなベンチャースピリットを感じることができ、将来を見つめて成長している姿が常に見られます。それが理由なのか、ベンチャー精神を語るようなアントプレナーシップ関連の本が各メンバーより予想以上に数多く推薦されました。この分野こそ、メンバーの時代的背景により推薦されてくる本が多く、良本ばかりです。読みやすい本が多いので、これらの本を持ってローカル線で旅などしてみたいものです。
⑬オペレーション
IT業界には、サプライチェーンマネジメントに関するプロジェクトが多いです。企業活動のバックボーンを支える分野なのでとても重要です。また、Dellのビジネスモデル自体も、創業以来、サプライチェーンを重要視しています。この理解があれば、工場からお客様までのモノの流れが手に取ってわかるようになります。サーバーやストレージの販売においては、お客様ビジネスのサプライチェーンマネジメントがその対象になることも多いので、この知識を持っていると、お客様とさらに深い会話ができると確信しています。
⑭自己啓発
このカテゴリーは、かなりの部分を私の推薦する本が占めています。もしかしたら、年の功からきている価値観なのかもしれませんが、もちろんメンバーからの同意は頂いているので、普遍的な価値を持った本だと言えると思います。このカテゴリーの本を手にするときは、何か新しいきっかけが欲しい時や、少し先が見えにくくなっている時かもしれません。そんな時こそ、これらの本をパラパラ見てみると、「もう少ししっかり読みたい」と感じる本も出てくると思います。最初の出会いではピンとこなくても、時間が経つにつれ新しい発見があるかもしれません。
⑮心理学
ビジネスのさまざまな場面において、心理学で語られることが多くなっています。「心理学の入門書はありますか?」との質問を受けることもあります。まず、この数冊を読んで心理学に触れると、社内のコミュニケーションやチームワークなどで参考になることが多いかと思います。
⑯哲学
哲学はとても広範囲な分野です。今回の推薦では、海外から見た日本の価値観という観点の本が多くなりました。これは外資系で働くすべての人に共通することですが、日本の事情を海外に理解してもらう、他国の人たちとうまくコミュニケーションするということは永遠の課題です。そのヒントの多くがここにあります。
⑰DELL
最後は、私たちDELL自身についての本です。まず必須読本としては、私たちの創業者であるマイケル・デルが書いた本です。30年近く経ちますが、色褪せない私たちの企業カルチャーの源泉が書かれています。今でも多くのビジネススクールで事例研究されています。
また、最後の200冊目は、私が書いた本です。メンバーが気を遣ってくれて推薦してくれたのかと思いますが、自部門の推薦図書の中に入っていることはとても嬉しい気持ちがしました。
私たちの部門は、ラーニングオーガニゼーションを標榜していますので、この200冊の本も今後追加されたり、変わっていくこともあるでしょう。DELLの広域営業統括本部では、今年47都道府県でセミナーを行いました。ときどき、この本棚も出没しますので是非、見に来てください。
また、現在、インサイドセールスを積極採用中ですので、ご興味がありましたら職場も見に来てください。
デル株式会社 上席執行役員 広域営業統括本部長 清水 博
横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手がけた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。現在、従業員100名以上1000名未満までの大企業、中堅企業をターゲットにしたビジネス活動を統括している。自部門がグローバルナンバーワン部門として表彰され、アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動とし、近畿大学と共同のCIO養成講座を主宰する。著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)。AmazonのIT・情報社会のカテゴリーでベストセラー。早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。