脱炭素の生活で、インセンティブがもらえる?環境省が目指す新しい脱炭素ライフとは【デコ活】

環境省が推進する「デコ活」の一環として実施しているプロジェクト「The POSITIVE ACTION Initiative」では、生活の中で脱炭素につながるアクションをするだけで、生活者本人がインセンティブを受けられる仕組みを目指す。その仕組みや詳細な内容は?

2030年に年限を迎えるSDGsや、持続可能なサーキュラー(循環型)構造の実現に向けた取り組みが各領域で進む現代。

政府は、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの実質的な排出量がゼロの状態)を実現することを目標に掲げ、その歩みを加速させている。

そうした中、環境省が推進している取り組みの1つが「デコ活」だ。

2月下旬、環境省は「デコ活」の一環として実施しているプロジェクト「The POSITIVE ACTION Initiative」の現在地について、参加企業と共に発表会を実施。取り組みの成果や今後の展望を聞いた。

脱炭素アクション効果を数値化し、インセンティブを提供

「デコ活」とは、環境省が推進する「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称。2022年に発足し、2023年7月に現在の愛称で制定された。

衣食住や職場、移動、買い物など、日常生活全般にわたる脱炭素型の新しい暮らしを提案し、国民の行動変容やライフスタイルの転換の促進を目指している。

環境省地球環境局デコ活応援隊 隊長(脱炭素ライフスタイル推進室 室長)の島田智寛さんは、本プロジェクトの目標について「全ての生活領域で意識・無意識に関わらず行動に踏み出せる環境を作ることを目指します」と話した。

デコ活
デコ活
環境省

「デコ活」の一環として実施しているプロジェクト「he POSITIVE ACTION Inititaive」(以下、PAI)は、生活のさまざまな場面で行った脱炭素につながるアクションの効果(CO₂排出削減効果)を「デコ活データベース」によって見える化し、効果に応じてインセンティブを提供するというもの。有志企業や団体(2025年3月時点で18団体)と連携しており、それぞれの団体が異なるタッチポイントに着手している。

本プロジェクトの目標は「脱炭素に資するアクションの効果の可視化について、参加企業・団体が利用可能な共通ルール・具体数値が整備されること」「可視化と連携して提供されるインセンティブの共通ルールが整備されること」の2つ。目標達成に向けた3ステップ「CO₂可視化に係るデータベース(ルール・標準)の策定」「データベースを活用した社会実装」「インセンティブに係るルール・標準の設計」から構成されている。

今回の会見では、第1ステップの「CO₂可視化に係るデータベース(ルール・標準)の策定」の成果が発表された。環境省と参画企業によって作成されたデータベースは全96個の脱炭素アクションからなり、それぞれのアクションによる削減効果が算出されている。例えば、エアコンの使用時間を1時間減らすと、約0.092kgのCO₂削減、リユース品の書籍をオンライン(EC、フリマアプリ等)で購入すると、1冊あたり3.0kgのCO₂削減につながるという。

デコ活データベースの一部
デコ活データベースの一部
環境省

データベースによる「可視化」と並んで、PAIを構成するもう1つ重要要素が、インセンティブによる「価値化」だ。

島田さんは「『これくらい脱炭素につながっているよ』と知るだけではパッとせず、行動変容の動機になりにくいという方も多いと思います」と説明した。PAIのインセンティブの内容は、エコ生活アワードでの個人表彰の実施や美術館等の無料チケットをはじめ、さまざまな形を提案していくという。

デコ活データベースと「推し活」で脱炭素を加速?

発表会には、参加企業から、Earth hacks、富士通、NTTコミュニケーションズの代表者が登壇し、各社における本データベースの活用方法を紹介した。

Earth hacks 代表取締役社長の関根澄人さんが登壇。同社では「欲望刺激型」の脱炭素アクションの促進に尽力しているという。

同社は、250社(800アイテム以上)及び10の自治体と連携し、対象商品やサービスが排出する二酸化炭素の量を従来のものと比較。その削減率を「デコ活データベース」と連携して「デカボスコア」として数値化している。

デカボスコア
デカボスコア
Earth hacks

また、同社の公式ウェブサイトからのアクセスが可能な「デカボmyスコア」では、12の質問に答えることで、年間のCO₂排出量を算出し、具体的なアクション案を提案している。「デカボmyスコア」の診断は、スウェーデンのDoconomy社が開発した「Lifestyle Calculator」を活用しており、国連も公認しているという。

さらに、J-WAVEが配信するポッドキャスト『offの日、どっちっち?』では、多忙なゲストのオフの日の過ごし方を2択の質問を通じて紐解き、デカボ視点でのトークも展開。「推し」の私生活を知れるというメリットを通じて新たなリスナー層を獲得し、デカボスコアの裾を広げているという。同番組のナビゲーターは、女優でモデルの箭内夢菜さんと関根さんが務めている。

デコ活データベースを活かした、地域での実証実験も

続いて、富士通ソリューショントランスフォーメーション部の池田圭佑さんが登壇。持続可能な未来都市の実現に向けた川崎市との連携や、環境アプリ「Green Carb0n Club」、まちづくりゲーム「Green Carb0n Farm」を紹介した。

同社が実証実験を行っている川崎市では、「Green Carb0n Club」に加え、「ANA Pocket」(ANA X)と「スマートレシート」(東芝データ)を通じて生活者のライフスタイルに関するデータを取得。取得したデータを「デコ活データベース」を元に数値化・分析した後、同社が今年2月にリリースしたWebアプリ「Eco Potential」でユーザーにフィードバック等を生成・共有しているという。

同社では、PAIとの連携を通じて、社会性と経済性の両立が測れる持続可能なSXモデルの創造に注力していくという。

Green Carbon Club
Green Carbon Club
富士通ソリューション

最後に、NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部の宮田吉朗さんが登壇。

同社では「ONE TEAM CHALLENGE」を通じて、企業に属する個人の行動変容に着手し、そこから家庭や購買行動へと範囲を広げていくことを目指している。現在(2025年3月時点)7つの企業が取組に賛同しており、参加企業の授業員は「デコ活データベース」を用いた「Green Program」を通じて、環境への意識や行動を変えるきっかけを得られるという。

「ONE TEAM CHALLENGE」では脱炭素促進における取り組みや課題について、他社と議論する場も設けており、身につけた知見を個人のアクションにつなげやすい環境を整えている。その一環として、6月頃からデコ活連携実践プロジェクト「ONE TEAM CHALLENGE 2025夏」の開催を予定している。

ONE TEAM CHALLENGE
ONE TEAM CHALLENGE
NTTコミュニケーションズ

環境省では今後、デコ活データベースの活用を通じて、さまざまな生活領域における脱炭素に資する社会実装を続けていくという。

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