「管理職罰ゲーム問題」が女性の活躍を阻む。ジェンダー格差を生む「日本特有の平等主義」とは?

女性の活躍を阻む「管理職の罰ゲーム問題」とは? 女性活躍を次のステップに進めるための考え方について、『罰ゲーム化する管理職』著者・小林祐児さんに話を聞いた。

昨今、職場におけるDEI推進の機運が加速。特に女性活躍推進のため、大手企業はこぞって仕事と家庭の両立支援策を充実させてきた。「働き方改革」の法整備もあり、子育てなどを抱える女性にとって、制度面での「働きやすい」環境が、多くの企業で整いつつあると言える。

一方で、企業文化を根本的に変える、女性管理職の増加は遅いままだ。

政府は2030年までに東証プライム企業の女性役員比率を30%まで引き上げる目標を設けるが、2023年時点ではわずか13.4%。TOPIX500構成銘柄の企業においても、30%を達成しているのは3%ほどに過ぎない(332社を対象。パーソル総合研究所の調査より)。

なぜなのか。 

罰ゲーム化する管理職』著者・パーソル総合研究所の小林祐児さんは、この問題を企業の組織づくりの観点からこう指摘する。

「管理職が罰ゲーム化しているために、昇進したくない女性が多いんです」

女性の活躍を阻む「管理職の罰ゲーム問題」とは? 女性活躍を次のステップに進めるための考え方について話を聞いた。

上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)など多数
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)など多数

女性の本音は昇進したくない? 背景にある「管理職罰ゲーム問題」

「管理職の罰ゲーム化」とは「管理職の負荷が極めて大きくなっている現状」を指す言葉だという。

管理職ポストの後継者不足やイノベーション不足、部下育成不足などによる「罰ゲーム化」は、管理職本人のメンタルヘルスにも大きく影響を及ぼし、経営・組織の課題の域を超えた社会課題になりつつある。

また、小林さんは「ここ10年ほどで現れたハラスメント防止法、働き方改革、テレワークの普及など、新しいトレンドの多くが、管理職の負荷を増やし続けている」と社会に警鐘を鳴らす。

「すべてのゲームには『作り手』がいます。会社という世界の中で言えば、働く環境やルールを決める側、経営や人事といった人たちです。(中略)社長と人事の間、部長と課長の間、事業部門と管理部門の間には、まるで半透明のベールがかかっているように、課題への認識も切実さも噛み合うことなく、すれ違い続けているのです(『罰ゲーム化する管理職』より抜粋)」

このゲームの「バグ」をひもとくことは、確かに管理職を目指す女性が増えることにも繋がりそうだ。

現在の日本の女性管理職比率の全国平均は13.2%であり、諸外国の平均と比較すると顕著に伸び悩んでいることが分かる。

小林さんは、女性管理職の割合に基づいて各企業の人事・経営層を1〜4のフェーズに分類して、次のように説明した(以下、パーソル総合研究所の調査を抜粋)。

パーソル総合研究所資料「なぜ日本企業の女性活躍は行き詰まるのか」より抜粋
パーソル総合研究所資料「なぜ日本企業の女性活躍は行き詰まるのか」より抜粋

表を見てみると、女性管理職比率が20%未満の企業が全体の8割以上を占めており、女性管理職が0%の企業も全体の4分の1を占めている。

パーソル総合研究所資料「なぜ日本企業の女性活躍は行き詰まるのか」より抜粋
パーソル総合研究所資料「なぜ日本企業の女性活躍は行き詰まるのか」より抜粋

その背景として「経験をもった女性不足」や「登用要件を満たせる女性不足」などが多く挙げられているが、「罰ゲーム化」という観点から見てみると、特筆すべきはやはり「女性に昇進意欲がない」という理由だ。

日本特有の「“平等”主義」が、女性リーダー登用を阻む 

管理職の「罰ゲーム化」により、管理職に就くモチベーションが下がっているのは男女ともに同じはず。それにもかかわらず、なぜ依然として管理職は男性が占める割合が圧倒的に大きいのだろうか。

その背景にある理由の一つが、入社時や早い段階では育成や仕事への登用方法に明確な差をつけない日本特有の「“平等”主義的な選抜構造」によって、女性を昇進レースから「オプトアウト」させる不平等が生じていることだと小林さんは指摘する。

日本の大手企業の多くは高齢化が進み、管理職の平均年齢はこの10年で上がり続けている。

小林さんによれば、2002年では最も昇進の早いグループの多くが30代後半に課長になっていたのに対し、2015年には40代前半だという。つまり、管理職の選抜にかける時間がそれだけ長くなっているということだ。 

一方、40代の社員から管理職候補を探す…という頃には、多くの女性はすでにレースから離脱せざるを得なくなっているのだ。

「日本企業の多くが、本屋で20年も立ち読みしているようなものです。『この本は本当に面白いかな。役に立つかな。買う価値があるかな』と20年かけて社員を吟味しているうちに、多くの女性が結婚や出産などのライフイベントを迎える。

そうすると、女性の家事・育児負担が重くなりがちな日本社会において、優秀な女性たちは昇進レースから『オプトアウト』せざるを得ない。その結果、管理職に選ばれるのは40代以上の男性ばかり…ということになるんです」

この「“平等”主義的な選抜構造」が、女性を不平等なレースに参加させている。そんな弊害に気づくことこそ、女性活躍を次のステップに進めるカギだと小林さんは指摘する。

「女性がライフイベントに直面して意欲を失う前に、会社は選抜して特別な機会を与えるべきです。そのためにはまだ若いうちから、頑張って成果を出している人や将来のリーダーになる素質のある人を選び育てる必要があります。

そうすれば女性側も期待に応えて活躍することを目指し始めます。これは女性活躍に限らず、若手の『働きがい』を創出し早期離職を防ぐためにも今求められている取り組みだと思います」

イベント開催! 女性活躍の次のステップを一緒に考えませんか? 

大手企業の多くで女性が「働きやすい」環境がすでに整いつつある。一方、女性管理職比率は伸び悩み、足踏み状態だ。これから先に必要な女性活躍の具体的な施策とはなんだろうか? 

ハフポスト日本版は朝日新聞と、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)をテーマに、新たな社会変革プロジェクトを立ち上げ、9月20日にキックオフイベントを開催。

初年度のメインテーマは「女性活躍推進」。「男女賃金格差」と「女性とキャリア」を中心に議論を進めていく。

同日15時からおこなうハフポスト日本版のセッションでは、パネルディスカッション「カルチャー変革の一環としての女性活躍推進 〜話題の『罰ゲーム化する管理職』著者と考える」を実施。 

『罰ゲーム化する管理職』が話題のパーソル総合研究所・小林祐児さん、多様な人材を登用し、「I&D(インクルージョン&ダイバーシティ)」をエンジンにカルチャー変革に取り組むことで、経営危機を脱したNECのCHRO・堀川大介さんと「女性活躍の次のステップ」について、最新の事例を交えて語り合う。

【イベント概要】

イベント名:未来を創るDEI~女性活躍推進の新たな一歩を考える

日時:9/20 13:30~16:00を予定               
   13:30~13:35 主催者 挨拶                
   13:35~14:35 セッション①賃金格差の現状と未来~解決策を探る             
   14:35~14:50 特別講演                
   15:00~16:00 セッション②カルチャー変革の一環としての女性活躍推進

会場:BASE Q(東京都千代⽥区有楽町1-1-2 東京ミッドタウン⽇⽐⾕6階)

参加費:無料

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