「働きやすさの一歩先」へ。男女の賃金格差、管理職罰ゲーム化問題など、女性活躍のこれからを考えるイベントが開催

ハフポスト日本版と朝日新聞は、新たな社会変革プロジェクト「未来を創るDEI」のシンポジウムを9月20日に開催。「女性活躍推進」をテーマにしたパネルディスカッションの様子を取材した。

昨今、企業におけるDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)推進の機運が高まっている。

多くの大手企業が女性活躍推進に取り組み、「働き方改革」による法整備も進んだことで、制度面で女性にとって働きやすい環境が整いつつある。一方、男女の賃金格差や低い女性管理職比率などの課題も残っている。

ハフポスト日本版と朝日新聞は、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)をテーマに、新たな社会変革プロジェクト「未来を創るDEI」を立ち上げ、9月20日にシンポジウムを開催した。

初年度のテーマは「女性活躍推進」。

朝日新聞のセッション「賃金格差の現状と未来〜解決策を探る〜」では、株式会社丸井グループ 人事部ワーキングインクルージョン推進担当課長の後藤久美子さん、株式会社メルカリ執行役員CHROの宮川愛さんが登壇。コーディネーターは、朝日新聞デジタル企画報道部記者の中山美里さんが務めた。

後半のハフポスト日本版のセッション「カルチャー変革の一環としての女性活躍推進 〜話題の『罰ゲーム化する管理職』著者と考える」では、ハフポスト日本版の泉谷編集長が司会進行を務め、『罰ゲーム化する管理職』が話題のパーソル総合研究所の上席主任研究員・小林祐児さん、NECのCHRO・堀川大介さんと語り合った。

当日の様子を一部紹介する。

男女の賃金格差、「説明できないギャップ」が明らかに

朝日新聞セッション「賃金格差の現状と未来〜解決策を探る〜」の様子
朝日新聞セッション「賃金格差の現状と未来〜解決策を探る〜」の様子
朝日新聞

朝日新聞が今年の国際女性デーに公開した記事によると、全産業において20代後半から男女の賃金格差がつき始め、その後差が大きくなっていく傾向にある。

こうした現状について、丸井グループ 人事部の後藤さんは社内婚におけるエピソードを紹介した。

丸井グループで短時間勤務を選択した女性にその理由を聞いたところ「(女性なので)私が取るのは当たり前だと思っていた」という回答が多く寄せられたという。また、パートナーの男性からは「自分が短時間勤務をするという選択がそもそも思い浮かばなかった」という回答が多く、ジェンダーバイアスや性別役割分業の意識が根強く残っていることがわかった。

多様性推進の独自指標である「女性イキイキ指数」を掲げている同社では、6年連続で男性の育休取得率100%を達成しており、現在は50%以上が1カ月以上の育休を取得している。また、性別役割分担意識の見直しのため、26歳を対象に「キャリアデザイン研修」を開催しており、女性の参加者からは「今のタイミングで聞いておいて良かった」、男性の参加者からは「パートナーが悩まなくて済むように自分ごととしてやっていきたい」などの声が寄せられているという。

株式会社丸井グループ 人事部ワーキングインクルージョン担当 課長 後藤久美子(ごとう・くみこ)さん
株式会社丸井グループ 人事部ワーキングインクルージョン担当 課長 後藤久美子(ごとう・くみこ)さん
朝日新聞

2023年ジェンダー認証に関するグローバル認証「エッジ認証」を取得しているメルカリでは、監査が入った段階で社内の賃金格差には「説明できる格差」と「説明できない格差」があったという。

メルカリ執行役員CHROの宮川さんは「『説明できる格差』とは、多くの企業と同じように管理職における男性の割合が大きいなどの等級による格差でした。一方の『説明できない格差』について深く分析したところ、中途採用入社における給与の決定基準が原因でした」と説明した。

9割以上が中途入社の同社では、採用の際に前職の給料を参照する。しかし、前職で男女の賃金差異はすでに生じている場合が多いため、入社後の給料にも男女の差異が引き継がれてしまっていたという。是正に取り組んだ現在では、当初7%あった「説明できない格差」は2.5%まで小さくなっている。

株式会社メルカリ執行役員 CHRO 宮川愛(みやがわ・あい)さん
株式会社メルカリ執行役員 CHRO 宮川愛(みやがわ・あい)さん
朝日新聞

その後、特別講演ゲストとしてカルティエ ジャパンプレジデント&CEOの宮地純さんが登壇。カルティエは昨年にEQUAL-SALARY認証を取得しており、女性の社会起業家を支援する「カルティエウーマンズイニシアチブ」を2006年から実施するなど、女性活躍推進を牽引するブランドとして知られている。

同ブランドは、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)において、内閣府、経済産業省、2025年⽇本国際博覧会協会とともに「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」を出展する。

「When women thrive, humanity thrives ~ともに⽣き、ともに輝く未来へ~」をコンセプトに掲げ、すべての人々が真に平等に生き、尊敬し合い、共に歩みながら、それぞれの能力を発揮できる社会に向けた提言をしていくという。

宮地さんは「ジェンダー平等は1社での解決は難しく、みんなで協力して進めていくべき課題」だとし、大阪・関西万博をはじめ「官民の垣根を超えて、多様なステークホルダーとコレクティブアクションをおこなっていく」と意気込みを語った。

日本特有の「過度な平等主義」が不平等を生んでいる

パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林祐児(こばやし・ゆうじ)さん
パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林祐児(こばやし・ゆうじ)さん
朝日新聞

続く後半、管理職の女性が増えない理由について、パーソル総合研究所の小林さんは「働きやすさの先のステップ」に突入していると議論を展開した。

日本企業の多くが働きやすい環境づくりに注力してきたことで、近年では産休や育休を経て、労働市場に帰ってくる女性も増えた。しかし、調査では、管理職の女性が増えない理由について、「女性社員に管理職を目指す『意欲がない』」ことを挙げる企業が多いのだという。

「『昇進意欲がない』のは女性の課題ではなく、企業構造の課題です。例えば、働き続けるための施策として、多くの企業で働く時間や場所の柔軟性を高めるリモートワークやイクボス宣言など、仕事と私生活の両立支援がおこなわれています。意外に感じられるかもしれませんが、パーソル総合研究所の調査ではむしろ、男性の管理職意欲を高めるという結果となっている。

管理職の負荷が極めて大きくなっている状況で『罰ゲーム化している管理職に就きたい』と思う女性はほとんどいません」と、管理職の働き方を見直すことが重要と指摘しました。

また、小林さんは「日本のキャリアの構造が異常に平等なので、不平等なことが起こっている」と強調。

「多くの諸外国が学歴や早期評価で上位職候補を選抜するエリート主義であるのに対し、日本は『どの人が良いかな』と時間をかけて慎重に選ぶ傾向にある珍しい国です。ふるいにかけずにゆっくりと評価する平等主義はエリート主義よりもフェアなようにも見えます。しかし、これによって選抜よりも結婚や出産などのライフイベントが先に来てしまい、優秀な女性たちは昇進レースから『オプトアウト』しているのが現状です」

多様な人材登用をはじめ、インクルージョン&ダイバーシティの推進をキーとしたカルチャー変革に取り組むことで経営危機を脱したNECでは、2019年から早期選抜を実施しているという。

NEC 執行役 Corporate EVP 兼 CHRO 兼 ピープル&カルチャー部門長 堀川大介(ほりかわ・だいすけ)さん
NEC 執行役 Corporate EVP 兼 CHRO 兼 ピープル&カルチャー部門長 堀川大介(ほりかわ・だいすけ)さん
朝日新聞

 NECでCHROを務める堀川さんは「NECでは、2024年度よりジョブ型人材マネジメントを本格展開しており、ジョブ型により意欲と能力があれば、年齢などの属性に関わらず挑戦や成長ができる環境を整えています。若手を対象にした早期選抜だけでなく、出産や子育てなどのライフイベントと昇格時期が重なりチャンスを逃していた社員を中心に、50代で管理職に昇格するケースも出てきています」と語った。

泉谷編集長は、NECのカルチャー変革の取り組みについて触れ、「ダイバーシティのための『数合わせ』は欠かせない第一歩ですが、そこから何を得るかが次の重要なポイント」だと指摘。

「女性活躍において、女性の管理職比率を上げていくことはもちろん大事です。それと同時に、同質的な組織に新たな人材を入れた時に、異なる意見からいかに学ぶかが肝心。その意味で、カルチャー変革は意義が深いと思います」と語った。

ハフポスト日本版のセッション「カルチャー変革の一環としての女性活躍推進 〜話題の『罰ゲーム化する管理職』著者と考える」の様子
ハフポスト日本版のセッション「カルチャー変革の一環としての女性活躍推進 〜話題の『罰ゲーム化する管理職』著者と考える」の様子
朝日新聞

続いて、テーマは「リーダーシップ」へ。NECでは業績のみならず、行動面も評価に組み込んでいる。NECグループ社員の行動基準「Code of  Values」に照らし、上司やチームメンバーが互いにフィードバックし合う仕組みも導入しているという。

堀川さんは「当社には、誰もがリーダーという考えがある」と話す。

「上司は、自分自身がチームをリードすることもあれば、メンバーがリードする仕事のフォロワーになることもある。これからは、そうした『使いわけ』をし、チーム全体の力を高めてベストな結果を出すことのできるリーダーが求められます」

これに対し、小林さんは「まさに罰ゲーム化の改善に必要なShared Leadershipという考え方と合致しますね。リーダーが頑張るのは当たり前ですが、メンバーが『白馬のリーダーシップ待ち』をしていては良い組織はできません。私が企業研修をさせていただく際にも、必ずリーダーだけではなくメンバーも呼んでいただいて、同じ土俵に乗っている意識を持っていただくようにしています」とコメントした。

イベントの終盤、堀川さんは「女性活躍推進は、自社だけではなく産官学が連携して取り組むべき課題です。広く繋がり、より多様な人材が活躍できる社会へと共に変えていきましょう」と参加者に呼びかけた。

小林さんは「トップコミットメントだけでなく、ボトムアップも重要。現場の皆さんこそ、組織を変えることができます。今日のイベントをここで終わらせず、少しでも今からの行動に生きる何かを持って帰っていただけたら幸いです」とコメントし、イベントを締め括った。

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