中国発のAI「DeepSeek(ディープシーク)」が世界を驚かせている。
最新の言語モデル「R1」は1月20日にリリースされた後、AppleのApp Store(アップストア)無料アプリでダウンロード数トップになり、ChatGPTの強力なライバルとして存在感を増している。
ディープシークの急成長で、優位性があるとされてきた米半導体大手エヌビディアなどの株価が急落するなど、テック業界や株式市場に影響が広がっている。
ディープシークとはどんなAIなのだろうか。
DeepSeek(ディープシーク)とは?
ディープシークは、中国・浙江省の杭州に拠点を置くAI(人工知能)のスタートアップだ。2023年に設立され、オープンソースの大規模言語モデル(LLM)開発を行っている。
(※大規模言語モデル(LLM):膨大なテキストデータを学習して構築されたAIの一種。言語を理解して文章を生成するほか、さまざまなタスクを実行できる)
ディープシークが注目されている最大の理由は、これまでにないコストの低さだ。
R1はChatGPTの最新モデル「o1」に匹敵する性能を持ちながら、開発や運用コストが大幅に抑えられている。
コストを抑えられたのは、「Mixture of Experts(専門家の混合)」と呼ばれる、複雑なタスクを処理する際に、大規模なモデル全体ではなく特定のサブモデル(エキスパート)のみを選択して作業するという機械学習アプローチを採用し、効率性を高めたからだとされる。
これまで、AI開発には高額の資金が必要だと考えられてきた。
アメリカの巨大テック企業は競ってAI開発に巨額投資を行い、大量に電力を消費するデータセンターを支えるために原子力発電にも資金を投じてきた。
ディープシークがアメリカのトップモデルと同じ性能のAIを数分の1のコストで作り上げたのであれば、今後のAI開発のあり方や、AIを使った社会発展の仕方を大きく変える可能性がある。
また、R1はオープンソースであるため、他の企業がこのモデルを使用して改良を加え、カスタマイズすることもできる。
ディープシークを作ったのはどんな人なのか
MITテクノロジーレビューによると、ディープシークを立ち上げた梁文鋒氏は1985年生まれで、中国の浙江大学で電気通信工学を学んだ後、2015年にヘッジファンド「ハイフライヤー」を設立した。梁氏はハイフライヤーの資産をディープシークの開発に使用したという。
梁氏はディープシークの低コストが注目されたことについて「非常に驚いています」と2024年のチャイナアカデミーのインタビューで述べている。
「価格設定がこれほど敏感な問題になるとは思っていませんでした。私たちは自分たちのペースで進め、コストを計算し、それに基づいて価格を設定しただけです。私たちの原則は赤字で販売しないことと過度な利益を追求しないことです」
低コスト・高性能のAIモデルの登場は、株式市場にも影響を与えている。
競争が激化するもしくは高性能AIチップの需要が減るのではないかという懸念から、一強とされてきた米半導体大手エヌビディアの株価は1月27日に17%急落したが、翌日には8.8%回復した。
一方、低コストでAIを開発できることで、多くの企業が恩恵を受けられるという考えも広がっている。
元ソフトウェア開発者でテック投資家のマーク・アンドリーセン氏は1月24日、「ディープシークR1は私が今まで見た中で最も素晴らしく、印象的なブレークスルーの一つだ。オープンソースだという点で世界への贈り物だ」とXに投稿した。
同氏はディープシークR1を「AIのスプートニクだ」とも表現している。
また、トランプ政権のAI・暗号資産責任者であるベンチャーキャピタリストのデービッド・サックス氏は「ディープシークR1で、AIの競争は非常に激しくなるだろう」と予想している