「娘の世代では、性別によってではなく個人のパーソナリティでどう生きていくかを選択できる社会にしたい」
中学2年生の娘さんに視線を送りながらそう語ったのは、働き方改革コンサルタントの大塚万紀子さん。3月8日の国際女性デー特別版ハフライブ(日本フェレロ株式会社提供)に出演した大塚さんは、スタジオ見学に来ていた娘さんたちの世代に良い“バトン”をつなぐべく、社会構造を変えていきたいと語った。
ジェンダーギャップ指数2021が発表され、日本の順位は世界156カ国中120位。特に政治と経済分野のスコアが著しく低いことが指摘されている。民間企業に目を向けてみると、女性の管理職は係長級18.9%、課長級11.4%、部長級6.9%(令和元年)。上に行けば行くほど、ジェンダーギャップは顕著だ。この現状を変えるために、社会や制度、世の中の雰囲気をどう変えていけばいいのか。
ライブ中に視聴者から寄せられたコメントや番組事前アンケート、番組後のZoomランチ会の中で出てきた声をもとに、女性の働き方やキャリアについて、大塚さんと一緒に考えた。Q&A方式で紹介していく。
制度を利用するか、評価をとるかの「踏み絵」
Q.「育休、時短勤務をしても給与が下がらないよう、リモートワークでの評価制度をもっと整えて欲しい。時短で給与は8割になっているが、結局持ち帰り仕事をしていて仕事量は減っていないのに、その上さらに育児もしている人が多すぎる印象だ」
大塚さん:何年も育休が取れるなど、制度が充実している企業も増えてきた一方で、その制度を使うと、昇進が遅れたり積み上げてきた評価を失ったりするケースも少なくありません。「制度を利用するなら評価を諦める、評価をとるなら制度を使わずに頑張ってね、とまるで“踏み絵”のようになってしまっているのが現状です。
この問題の根本には、「そもそも評価基準が不明瞭」という企業制度の問題が潜んでいます。
私が過去に出会った面白い事例があります。ある企業で営業担当一人ひとりの1時間あたりの売り上げを計算してみました。すると、育児のために時短勤務をしている社員の売り上げが一番高く、逆に一番低かったのは夜遅くまで働いている20代の社員でした。
この1時間あたりの売り上げを出すまでは、この20代社員は評価が高く、時短勤務の社員は評価されづらい状況でした。経営者にとっては低いコストで高い利益を出してくれる社員を評価した方がいいにも関わらず…。評価がいかに曖昧に行われていたか分かりますよね。
この曖昧さによって、成果よりも働いた時間で評価してしまったり、逆の視点で見ると働く時間が短ければいかに成果を出していても評価されなかったりなど、「制度を利用すれば評価が下がる」という状態につながってしまうのです。
試しにお勤めの会社で、「どのような基準で評価したのか」と聞いてみてください。明確な答えが返ってくることは、もしかしたら少ないかもしれません。
現在評価をする側の人は、先述した時短社員のような例があることを一度意識してみてください。
評価される側の人には、営業のように数値的な成果が出しづらい人も多いでしょう。その場合は、例えば自分の業務を外注するとどれくらいお金がかかるのかなど、数字に置き換える方法はたくさんあります。チームで「自分たちの仕事の価値」を可視化してみると、どのような働き方が今後評価されていくのかが見えてくると思います。ぜひ一度試してみてください。
飲み会やサウナで昇進が決まる。女性は誘われない
Q.「『飲みニケーション』による昇進・評価が現状行われています。更に上司は現状男性のみ。男性上司は部下の女性を2人で飲みに誘ったりできません。でも男性部下は2人で飲みに行けます」「知り合いの会社では、サウナで昇進の打診が行われていているって聞きました。女性はどうしたって入れないです」
大塚さん:飲みニケーションやサウナなど、男性だけの空間で仕事の大事な話をする人は、一昔前の人口ボーナス期における「同質的な組織」の成功体験から抜け出せていない人かもしれません。
人口ボーナス期においては、同質的な組織の方が成果を出しやすいといわれており、かつての日本もそうでした。しかし、今の日本は少子高齢化の人口オーナス期(上図)。いつまでも人口ボーナス期の戦い方をしていては生き残れません。
一方で、その上司自身も心のどこかで「このままではよくない」と思っていながら、仕事が忙しすぎたり、学ぶ機会に巡り会えずに、自分のマネジメントスタイルをアップデートできていないケースもあります。マネージャーに一人ひとりの個性や能力を見る力が養われていないことも少なくありません。
企業もマネージャーに学ぶ機会と時間を提供するべきです。性別や年齢など表層的な「個」だけでなく、性格や能力などの深層的な「個」を見てマネジメントできるようなトレーニングを受ける必要があります。
たとえば、ストレングスファインダー(177個の質問に答えて「資質」を見つけ出すツール)やMBTI(性格タイプを16種類に分類して自身と向き合う診断メソッド)など、たくさんの切り口がありますので自分にあったものを見つけ試してみることをおすすめします。
残業前提の働き方、どうすれば変わる?
Q「まだまだ長時間労働や残業をしている人が忙しい=仕事ができる、の図式がある」「 なぜ役職が上がったら残業代がつかないのか。年収が上がれば毎月何時間も残業していいのか」
大塚さん:国の制度自体を変えていかなければいけません。その第一歩が「残業時間の上限を設ける」ことでした。
ほんの2年前まで、日本は事実上いくらでも残業させられる状況でした。法定労働時間(1日8時間・週40時間)を越える労働をさせる場合に従業員代表と会社が締結する「36協定」では、時間外労働時間に上限がなかったのです。
この制度の問題点は長年指摘され、私も改正に向けて取り組んでいましたが、経済団体からの反発が非常に強かったのを覚えています。改正へ動き出した大きなきっかけは、2015年の電通・高橋まつりさんの過労自殺でした。この後2019年に働き方関連法案が施行されたことで、残業時間に年間720 時間(=月平均 60 時間)の「キャップ」がやっとつきました。
とはいえ、まだまだ変えるべき点はあります。キャップがついたとはいえ、まだ長時間労働であることには変わりがありません。脳の集中力が続く時間は起床してから13時間以内、ともいわれています。より短い時間で高い成果を上げるためにはどんな工夫が必要か、模索し続ける必要があります。
また、社会全体・国としては、今後、「勤務間インターバル制度」の導入がポイントになると考えています。これは業務が終了してから翌日始業するまでの間、十分な生活・休息時間(インターバル)を確保する制度です。
疲労は蓄積させずに早めに休むことが重要です。現在は働き方関連法案で「努力義務」になっていますが、企業が「義務」として取り組むべき制度だと考えています。
国の制度を変えるために、働く個人にもできることがある
大塚さん:国の制度を変えるために、働く個人一人ひとりの声がとても重要になります。
例えば私の所属する「ワークライフバランス社」は残業代問題を含めた「働き方」を見直す一歩として、「霞ヶ関の働き方改革に関する提言の署名」を行いました。
2020年12月2日、官僚の働き方改革を求める2万6953筆(12月1日時点)の署名を、国家公務員制度を担当する河野太郎規制改革相に提出しました。その後1月には今まで実態の1/3しか支払われていなかったと指摘される残業代について、「残業時間を厳密に反映した給与を支給」するよう指示が出されたのです。各省庁の働き方が変わることは日本にとって非常に重要で、少しずつ変化が起ころうとしています。
署名の数は、本当に力になります。今後も国の制度をより良くするために、立ち上がれる人が立ち上がって署名を呼びかけていきます。自身や身の回りの働き方を変えたいと思う人は、その問題に取り組む呼びかけに署名をしたり、それを周りに話してみることも、制度や社会を変える大きなアクションになります。
<著者プロフィール>
大塚 万紀子(おおつか まきこ)
株式会社ワーク・ライフバランス取締役楽天を経て06年(株)ワーク・ライフバランス創業。高いコミュニケーション力やコーチングスキルを活かし売上利益に貢献する働き方改革コンサルティングの先駆者。心理学や組織論等をもとに多様性をイノベーションにつなげることが得意。農林水産省「食品産業戦略会議」委員(働き方改革分野担当)なども担当。二児の母。