私は、チェコにある国立パラツキー大学の英語コースで医師を目指し、様々な国から集まった同級生と学んでいます。将来は、ヨーロッパで学んだ医師として、日本を中心に活躍していきたいと考えています。チェコ共和国は日本ではあまりなじみがない国だと思います。チェコで学ぶ日本人の医学生として、チェコのことも含め、様々な視点から情報を発信していきたいと思います。
チェコを選んだ経緯
私が医師になると決めたのは、高校2年生の12月です。それまでは、外国語学部や国際関係学部、もしくは海外の大学に進みたいと考えていました。
高校2年生の夏に行った修学旅行を機に進路に迷い始めました。親友が修学旅行中に風邪をひいていたことがきっかけです。ただの風邪でも日常生活の何気ない幸せが奪われることに気づき、病から人の笑顔を守る立場になりたいと考え始めました。
医学部に現役で合格することはできず、他学部で生命医科学を学び始めましたが、医師になりたいという気持ちを捨てきれませんでした。2ヶ月通ったのち休学して、医学部再受験のため勉強を始めました。
勉強の日々を送る最中、偶然、海外の大学医学部へ進学するという進路を知りました。日本の私大医学部より学費が安く、より実践的な授業が多いカリキュラムであること。そしてもともと海外の大学や国際関係に興味を持っていたことから、ヨーロッパで学ぶ事にチャレンジしようと決めました。
複数の海外大学医学部に合格しましたが、少人数教育をしているチェコのパラツキー大学を選びました。
受験直前の高校2年生で文系から理系へ進路を変えると決めた時、そして海外の医学部に進学すると決めた時、色々な人に心配されました。心配する声を否定し続けていましたが、実際は自信がありませんでした。
言葉の壁への不安や、海外の大学の厳しさに対する恐怖心を抱きながら、私のパラツキー大学生生活は始まりました。自信はありませんでしたが、やりたいと思った事に挑戦してみてよかったです。大変な事も多々ありますが、チェコでの生活は想像していたよりも楽しく、この進路を選択してよかったと思っているからです。
チェコとオロモウツの紹介
チェコは海に接していない内陸国で、中欧に位置しています。北西はドイツ、北東はポーランド、南はオーストリア、東はスロバキアに面しています。首都であるプラハの歴史地区は世界遺産に登録されていて、おとぎの国・絵本の国と称されています。国土は日本の約1/5で、九州と同じくらいの大きさです。
私が通っているパラツキー大学は、チェコで6番目に大きい都市・オロモウツにあります。プラハからオロモウツは電車で約2時間の距離です。チェコには世界遺産が12個ありますが、そのうちの一つの聖三位一体像がオロモウツの街の中心にあります。人口は10万人ほどで学生が多く、落ち着いた雰囲気を持つ街です。
チェコの特産品としてビールとボヘミアンガラスが挙げられます。ビールの消費量が世界一と言われていて、ビールの製造所を独自で持つビールバーもあるほどです。
海がないため、肉料理がメインの食事です。鮭やタラを購入する事ができますが、高額です。レストランでは、魚料理は肉料理の1.5倍以上の値段です。
チェコはEU加盟国ですが、独自の通貨・チェココルナを使用しています。日本に比べると物価は低いです。特に果物や野菜は安く、例えばオレンジなら日本の1個分の値段で1キロ(約8個)も買うことができます。
パラツキー大学
パラツキー大学はチェコで2番目に歴史のある総合大学で、1573年に創立され、約440年の歴史を持つ大学です。遺伝学のメンデルを輩出したことでも知られています。医学部は1753年から設立されました。医学部と歯学部の英語コースは、1993年から開始しました。英語コースの学費は1万ユーロ/年(約114万円*)で、日本の私大医学部よりも低額です。
英語コースには約300人、チェコ語コースには約2,000人の医学生が所属しています。英語コースにはイギリス・台湾・イスラエル・ポーランド・スペイン・ポルトガル・シンガポール・マレーシア・フランス等から学生が集まっています。現在、日本人学生は全学年で13人います。
大学は24時間年中無休で開いているため、好きなときに自習室を使う事が可能です。大学の受付には必ず人がいて、夜間や休日は学生証を提示しなければ中に入れないため、安全面も確保されています。また、解剖室が月〜木の7時〜16時まで開放されているので、ご遺体を使いながら自習する事ができます。私も一年生の時は友達と教え合いながら勉強していました。
大学にはチューターシステムがあり、病気になった時や些細な事でも何か困った時に相談できる先生がいます。教務課も相談しに行くと助けてくれます。そして、パラツキー大学は先輩の面倒見が良い大学です。上級生が下級生に向けて勉強を教える機会を作ったり、新学期は一年生のために街案内をしたり勉強のアドバイスをします。
入学したばかりで不安だらけだった頃、大学に向かうバスの中で解剖の教科書を開いていたら、上級生が声をかけてくれました。教科書を譲ってもらったり、試験対策を教えてくれたり、不安に思っている事を尋ねてくれたりと、助けてもらいました。大学内で顔見知りの先輩に会うと、最近調子はどう?勉強は大丈夫?と声をかけてくれます。先輩方は国籍を問わず心強い存在です。
(*1ユーロ≒114円で換算しています。学費はユーロでおさめています)
カリキュラム
医学部は日本と同じく6年制で、高校卒業後に直接入学します。2年間で基礎医学を学び、その後の4年間で臨床医学を学びます。4年生からは大学病院での実習がメインになります。その為、3年生まで週に2回チェコ語の授業があり、日常会話や医療会話を習います。また、2年生の夏期に看護実習、3年生の夏期に内科実習が義務づけられています。
6年間で学ぶ科目の大部分は決められていますが、optionalとelectiveと呼ばれる選択科目からそれぞれ5・7単位ずつとることが決められています。選択科目には、画像診断や抗生物質の治療の臨床事例といった臨床が中心の科目や、遠隔医療や実験・研究に必要な知識を学ぶ科目があります。
大学は学年制で、パラツキー大学の場合一年次は単位を1つでも落とすと退学になります。(二年次以降は留年となります。)毎年35〜50%の学生が一年次に退学しています。私の学年は、75人中28人が退学になりました。
授業は講義とプラクティスと呼ばれる実習の二つで構成されています。プラクティスは約12人のグループごとに受けます。講義は任意参加ですが、プラクティスは100%出席しなくてはいけない決まりです。学期毎にプラクティスの授業でcreditをもらいます。Credit取得の条件は科目によって異なり、100%の出席の他に、数回の小テストに受かること、プレゼンテーション、レポートの提出等が課せられます。
学期の終わりにfinalと呼ばれる試験があり、これに受かると単位を得る事ができます。Creditの取得がfinalの受験資格となります。Finalは講義と実習を合わせた範囲から出題されます。口頭試問の形式が多いです。Finalの受験日は、科目毎に提示された試験日から自由に選ぶことができます。その為、自分で試験日程を組むことになります。試験は3回まで受け直す事ができます。
患者としてのチェコの病院の体験
個人の歯科医院、大学病院の歯科、外傷科、皮膚科の診察を受けたことがあります。私が加入している外国人用の医療保険は、年間保険料が6000czk(約2万5千円*)と負担が軽いですが、大学病院での診察は無料でした。(歯科の例で述べると、虫歯の治療の際に銀歯なら無料、セラミックの場合は有料と治療の選択によっては異なる場合もあります。)
大学と個人の歯科医院の違いは予約の取りやすさと保険が適応されるかどうか、でした。個人の歯科医院は数日以内の予約が可能でしたが、大学の歯科は1-2週間待たなければいけませんでした。そのかわり個人の歯科医院では治療費を自費で払いました。
診察を待つまでの応急処置として、薬局で液状の麻酔薬を購入できることをチューターの先生に教えてもらいました。液体を30秒〜1分間口に含み、軽い局所麻酔として使えるものでした。日本にはこのようなものはないので、驚きました。
外傷科と皮膚科の外来では、最近日本でも増えてきている電子カルテを使用していました。日本とは異なり診察後、医師がパソコンに書き込んだ内容を印刷して渡してくれます。この紙には、
・問診内容(病歴、いつ、どのように症状が出たのか等)
・診断結果
・治療の内容(薬の使用回数、冷やして安静にする等のアドバイス)
が記載されています。これらの情報が患者さんの手元にも残るのは、便利な仕組みだと思いました。
外来の診察時間は7時から15〜16時までで、日本の一般的なクリニックより2時間ほど前倒しの時間帯です。
(*1czk≒4.25円で換算しています)
他学部との交流
パラツキー大学はエラスムス(ヨーロッパ内での交換留学のような制度)の学生を受け入れています。ESN UP Olomouc(Erasmus Student Network International of Palacky University)はパラツキー大学の学生が組織する団体です。ESNは外国人学生のサポートを行い、様々なイベントも運営しています。
勉強の余裕がある時には、Language exchange とNational presentationというイベントに参加しています。Language exchangeでは様々な言語で交流する機会を持てるので、チェコ語や英語の練習はもちろん、他の言語にもふれる事ができます。National presentationでは各国の生徒が自国を紹介するプレゼンを行い、魅力を伝えられたか競います。プレゼンの後には各国のお菓子や食事の試食会も行われます。
また、パラツキー大学には日本語学科があり、そこに所属する学生と交流する機会もあります。彼らと話しをすることで、日本語の独特さに気づかされたりすることも多々あります。ことわざをチェコ語と日本語で教え合ったり互いの言語の紹介をしたりするのは楽しいです。
卒業までの道のりは楽ではなく、将来どのような医師として活躍できるのか未知な点も多いです。ヨーロッパで学んだことを生かすのも殺すのも、自分次第だと考えています。私の名前には「日本から遙かなた離れたアルゼンチンで生まれた子が、世界の架け橋となる役割を担ってほしい」という意味があります。名は体を表す、と思っていただけるような人になりたいです。ヨーロッパで学べる環境を生かして広い視野を持ち、成長していきたいと思います。
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