「中絶で自殺や薬物中毒に」と女性を教育 危機妊娠センター(CPCs)の実態とは? 

アメリカで進行中の、中絶をめぐる重要な裁判のことを知っていますか?トランプ政権下で「反中絶」団体に初の最高裁判断。

反中絶団体が運営する「危機妊娠センター(Crisis Pregnancy Centers、CPCs)」に対して、近くドナルド・トランプ政権下で最高裁判所による初の判断が下される。その行方に、全米の注目が集まっている。

判断は、CPCsに対して、女性たちに妊娠中絶についての正確な情報を与える義務を課せられるかどうかについてのものだ。

なぜこの判断が非常に重要なのだろうか?

アメリカ大統領予備選で共和党の候補者だったハッカビー氏とその妻がCPCの前で記念撮影(2008年)。
アメリカ大統領予備選で共和党の候補者だったハッカビー氏とその妻がCPCの前で記念撮影(2008年)。
CHRIS KEANE / Reuters

CPCsはあからさまな嘘を女性たちに教えている

CPCsは、信仰に基づいて社会奉仕活動を行う団体だ。アメリカ全土に3000以上あり、800程度しかない妊娠中絶クリニックよりもはるかに数が多い。

センターでは、出産するべきかどうか迷っている女性たちに、中絶を思いとどまらせるため、誤ったことを信じさせたり、あからさまな嘘を教え込んでいる。

そして、妊娠中絶クリニックや認可を受けた医療施設のふりをしていることが多い。

CPCsは、超音波、妊娠検査、無料のおむつを提供するが、センター内には医師も免許を持った医療の専門家もいないことが多い。

しかし、医療免許のないスタッフに対して、白衣など紛らわしい服装をさせていることさえある。そして、こうしたセンターの多くは、州の資金を受け取っている。

大通りに掲示された看板では、「妊娠?怖い?信頼のおける助言をします」というメッセージで女性たちを誘惑し、「私たちは情報を伝えます。決めるのはあなた」といった宣伝文句を伝える。

アラバマ州のあるCPCの名前は「Choices(選択)」で、妊娠した女性たちに「選択の自由を提供する」という期待を与えている。

だが、実際には、こうしたセンターは女性たちに選択を与えることはしない。

「妊娠中絶は自殺や薬物中毒につながる」

CPCsは、妊娠した女性たちに選択肢の情報を伝える代わりに、作り話を押しつける。

例えば、妊娠中絶は自殺や薬物中毒につながるとか、コンドームは「もともと穴だらけ」なので効かないとか、バースコントロールは、脱毛、物忘れ、頭痛、体重増加、乳がんの原因になるという話だ。

サウスダコタ州ラピッドシティーの「Care Net CPC」を訪れて、妊娠中絶の情報を探し求めていたある女性は、コスモポリタンの取材に対し次のように語っている。

CPCのカウンセラーは、女性に対して祈りを捧げ、「誕生準備パーティーに招待して」と頼んだ後、2週間もの間、毎日彼女に電話をかけ、「雑談」がしたかっただけだと言ったという。

反中絶団体のアピール
反中絶団体のアピール
AFP/Getty Images

CPCsの成り立ちとは?

CPCsは1960年代に、キリスト教徒の住宅建築業者ロバート・ピアソン氏が、最初のセンターをハワイに開いたことが始まりだ。

1969年、ピアソン氏は、ミズーリ州セントルイスにピアソン財団を創設したが、その使命は、地方に自分たちの反中絶奉仕活動センターを開けるよう、人々を教育することだった。

財団の教育資料には、ごみ箱の中の血まみれの胎児の写真を27分間のスライドショーにし、妊娠中絶をホロコーストと比較したものや、女性たちに誤った情報を吹き込むための、93ページのガイドブックが含まれていた。

ピアソン氏は、かつてインタビューの中で、「女性たちに伝える情報を省くことは、その理由によって正当化される」と語っている。

「私たちはただ、私たちがしないことを言っていないだけです」とピアソンは語った。「車の販売業者は、広告を出すときに、車がしないことをリストアップしません。ですからどうして私たちが、中絶をしないと言うべきなのでしょうか?」

CPCsは1980年代と90年代にわたり、2つの大きな団体、Care NetとHeartbeat Internationalの支援を通じて、力と支持を得た。主として反中絶運動により資金提供を受けているが、多くは州政府からの公的資金も受け取っている。

例えば、ペンシルバニア州は、2012年から2017年にかけて、CPCsのネットワーク組織であるReal Alternativesに3000万ドル以上を提供した。

さらに、29の州が「Choose Life(命を選ぼう)」のナンバープレートの販売を通じて、CPCsに資金をつぎ込んでいる。

進歩的な州や自治体は、CPCs規制を試みてきた

CPCsに対して資金を提供する団体・州がある一方で、規制しようと試みてきた進歩的な州や地方自治体もある。

そうした州などでは、CPCsがどのようなものであるかを明らかにし、中絶、バースコントロール、胎児(妊婦)検診について、女性たちに完全な情報を伝えることを要求したのだ。

女性の性と生殖に関する権利を訴えるデモ
女性の性と生殖に関する権利を訴えるデモ
Ashlee Espinal / Reuters

カリフォルニア州の法律に対し、CPCsが異議申し立て

そうした進歩的な州の一つ、カリフォルニア州には、2015年に成立した「生殖事実法(The Reproductive FACT Act)」という法律がある。

今回、最高裁が見直そうと計画しているのがその法律だ。

この法律は、カリフォルニア州には、総合的な家族計画サービスを支援するプログラムがあるという掲示を出すことを、CPCsに対して義務づけるものだ。医師免許あるスタッフがいないCPCsに対しても、医療の専門家がいない事実を明らかにすることを義務づけられている。

あるCPCsのグループが、このカリフォルニア州の法律に異議を申し立てた。

申し立ての根拠は、この法律が、米憲法修正第1条で保障された権利「言論の自由」を妨げるというものだ。

「妊娠中絶についての情報はどこにでもあります。反中絶のセンターが、勧めていない法律について女性たちに知らせないからといって、政府がセンターを罰する必要はありません」と、CPCsの代理人を務める、「自由を守る連盟」(the Alliance Defending Freedom)の首席弁護士、ケビン・テリオットは語っている。

カリフォルニア州の法務長官ザビエル・ベッカラ・(D)はこの法律を擁護するとみられている。2016年、第9回アメリカ巡回控訴裁判所もこの法律を支持した。

「情報は力です」とベッカラは発言の中で述べた。「そして、すべての女性たちが、個人的な医療の決定をするときに必要な情報を利用できるようにすべきです」

アメリカ最高裁判所
アメリカ最高裁判所
Kevin Lamarque / Reuters

妊娠中絶の権利に関する最初の試金石

この最高裁判所の判断に関しては、今後、アメリカで中絶の是非を問う場面への影響が絶大だ。

というのも、妊娠中絶の権利に関する最初の試金石となり、トランプ大統領が任命したニール・ゴルシュ氏が裁判官の席に着いているからだ。

「判決は今後何十年間か、裁判所がどのように妊娠中絶の権利を扱うのかについての土台をつくることになるかもしれません」と、NARAL Pro-Choice Americaの会長、イリーズ・ホギュは語った。

「右翼グループが、妊娠中絶と基本的な生殖医療についてますます嘘を広めるなかで、今回の判断は、トランプ大統領の時代に、最高裁判所が中絶治療の利用を含めた私たちの権利を保証できるかどうかの、最初の試練になるでしょう」

ハフポストUS版に掲載された記事を翻訳しました。

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