医系技官を訴えた理由:統制医療が日本を滅ぼす

言論を抑圧するために、民間医療機関に対して職員の解雇を強要することは、公務員としての活動ではありえない。私は、医系技官の井上肇氏と高岡志帆氏を提訴した。

●公務員個人に対する損害賠償請求

私は、厚労省元結核感染症課長井上肇氏(現在世界保健機関出向中)と千葉県医療整備課長高岡志帆氏を東京地裁に提訴した。第1回口頭弁論が、11月30日午前10時15分、631号法廷で予定されている。多くの方に傍聴していただきたい。両氏とも本籍は厚労省採用の医系技官だ。公務員が民間人である私の言論を封じるために、医療法人鉄蕉会の経営者に厚労省の内部情報を漏洩して、私を懲戒解雇するよう求めた。2015年9月25日、私は懲戒解雇になり職を失った。言論を抑圧するために、民間医療機関に対して職員の解雇を強要することは、公務員としての活動ではありえない。そこで、国家賠償請求訴訟ではなく、個人の不法行為に対する損害賠償請求訴訟とした。

●経営者は私の言論活動に協力していた

私は、医師だが、十数年来、言論人としても活動してきた。経営者は、今回の事件まで私の言論活動に協力的だった。亀田総合病院亀田信介院長は千葉県医療審議会の専門委員だった。信介氏との議論が、病床規制や東千葉メディカルセンター問題について執筆するきっかけになった。信介氏から千葉県医療審議会に提出された資料を提供された。2013年10月、私は、医療法人鉄蕉会理事長亀田隆明氏の要請で、規制改革推進会議で病床規制の問題点を指摘した。隆明氏は、控除対象外消費税についての私の論考をきっかけに、その是正を求める運動を始めた。

●高岡志帆課長の虚偽通告とその破綻

私は、亀田信介院長の強い要請により、2013年度から3年間の予定で、亀田総合病院地域医療学講座で地域包括ケアに関する映像シリーズ、書籍、規格を作成していた。予算は国の地域医療再生臨時特例交付金から支給されたものだ。2014年度の交付決定通知を受け取っていたが、2015年5月1日、高岡氏らから、予算がなくなったことを理由に、2014年度の予算を削減し、2015年度については事業を中止すると通告された。地域医療再生基金管理運用要領によれば、厚労大臣の承認なしに、都道府県の役人の恣意で事業を中止できない。それ以上に、予算の流用は許されることではない。私は、予算が何に使われたのか、いくら残っているのか厳しく追及した。亀田隆明理事長も怒りを露わにして、自治体病院に出向させている医師を引き揚げると脅迫めいた言葉を口にした。5月15日、隆明氏は、態度を急変させ、私を外して、1対1で県と交渉すると言い始めた。隆明氏は、それまでの経緯、活動内容を知らない。公金が投入されており、外部の映像制作会社、出版社、名だたる専門家が作業に関わっていた。私には個別医療法人を超える責任が生じていた。私が反対すると、隆明氏は、交渉するのではなく、千葉県の不正を高岡氏に伝えるのだと発言を変えた。不正を行った本人に不正だと訴えても意味はない。私は、予算を確保するために、鉄蕉会内部の弁護士と相談の上、「亀田総合病院地域医療学講座の苦難と千葉県の医療行政」をMRIC(メールマガジン)に投稿して千葉県の対応を批判した。2015年5月27日、狙いどおり、高岡氏は虚偽を認め、予算が残っていることを明らかにした。2014年度予算については、決定通り交付されることになったが、2015年度予算について、態度をあいまいにした。まだ流用をあきらめていない。そこで、県を押し込むために「千葉県行政における虚偽の役割」をMRICに投稿した。出来事をできるだけ正確に再現して、千葉県の対応を批判した。

●言論抑圧と懲戒解雇

2015年6月22日、亀田信介院長に内密の話があると呼び出された。厚労省の職員から私の行政批判を止めさせろ、今後も書かせるようなことがあると、補助金を配分しないと脅されたという。言論抑圧は大問題だ。私は、信介氏との会話の記録を作成し、信介氏に確認を求めたが、修正の要請はなかった。その上で、信介氏には、大変なことになるかもしれないので、相手と接触しないよう忠告した。2015年7月15日、言論抑圧を仕掛けたのが、イノウエハジメカチョウだとの情報を得た。結核感染症課長の井上肇氏ならば、亀田総合病院では有名な名前だ。保健医療担当部長として千葉県に在職していた当時より、亀田隆明理事長と懇意にしていた。当時の厚労省の幹部名簿には、イノウエハジメという課長は他に見当たらなかった。言論抑圧を放置すれば、医系技官の乱暴な支配がさらに強まる。2015年8月17日、私は、知人の厚労省高官に、作成途中の厚労大臣あての、調査と厳正対処を求める文書の原案を送って、手渡す窓口と日時を相談した。2015年9月2日11時18分、高岡医療整備課長から、隆明氏に、メールが送付された。すでにお耳に入っているかもしれませんが、別添情報提供させていただきます。補足のご説明でお電話いたしますメールには、私が作成した厚労大臣あての文書原案と「千葉県行政における虚偽の役割」が一つのPDFにまとめられて添付されていた。十数分後、隆明氏は、別の人物に電話で状況を説明した後、メールをそのまま転送した。隆明氏は、私を9月中に懲戒解雇すると語ったという。2015年9月14日、懲戒手続きが開始された。弁明の機会付与通知書には「メール、メールマガジン、記者会見等、手段の如何を問わず、厚生労働省及び千葉県に対する一切の非難行為を厳に慎むことを命じます」と書かれていた。処分通知書は、「貴殿は、職務上及び管理上の指示命令に反し、亀田総合病院副院長の名において、厚生労働省に、2015年9月3日付け厚生労働大臣宛書面を提出し、同省職員の実名をあげ、調査と厳正対処を求める旨の申し入れを行った(懲戒処分原因事実3)」と締めくくられていた。大臣あて文書の記載内容に異議を唱えることなく、記載内容を前提に、公務員の不正について調査と対処を要請したことが、懲戒処分の理由として記載されていた。申し入れ書は、公益通報に相当し、秘密にされるべきものだ。これを理由にした懲戒解雇などあってはならない。

●計画経済は複雑多様化した世界に対応できないばかりか、専制、腐敗を招く

私は、計画経済的な医療統制を批判しつづけてきた。これが言論抑圧の背景にある。上意下達のヒエラルキー的な統制は、組織の頂点しか、環境を認識してそれに対応することができないため、医療の営為を画一化し、硬直的にする。統制は、医療が複雑多様化している中で、失敗を繰り返してきた。計画経済は、行政が強大な権限を持つため、専制を招く。腐敗と非効率は避けられない。旧共産圏では、現場の活力を奪い、製品やサービスの質と量の低下を招いた。計画経済を運営することは人間の能力を超えている。

●統制医療の大失敗:首都圏の医療・介護供給不足

明治以後、日本では医学部の配置が西日本に偏っていた。1970年以後の1県1医大政策でこの格差が広がった。例えば、四国(1970年人口390万人)の医学部数は1から4に増えたが、千葉県(1970年人口337万人)は1のままだった。1985年の病床規制導入後、入院診療への新規参入が抑制され、許可病床が既得権になった。許可病床数を決めるための基準病床数の計算方法が現状追認的だったため、医療提供量の西高東低の地域差が固定された。高度成長期、団塊世代を中心に、首都圏近郊への人口集中が進み地域差がさらに拡大した。2015年、四国4県の人口は385万人に減少したが、千葉県の人口は622万人まで増加した。千葉県では、看護師が極端に不足しているため、許可病床のすべてが開床できるわけではない。医療格差が団塊世代の高齢化で急速に拡大しつつある。2015年、団塊世代全員が65歳以上になった。2025年には75歳以上になる。65歳から74歳までの要介護認定率は4%だが、75歳以上では30%になる。2030年、首都圏で75歳以上の高齢者人口は、2010年の約2倍になる。都市部を中心に医療・介護サービス、とくに介護サービスの深刻な供給不足が予想されている。東京では75歳以上の高齢者の28%が独居だ。首都圏では、行き場を失った要介護者があふれることになる。

●失敗挽回の大方針は「強制力」の強化

医系技官は、高齢者の急増に対応するために、中央統制をさらに強める動きにでた。2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書は、「強制力」のさらなる強化を提案した。国会審議を経て「強制力」が法制化された。統制は、現場の状況に応じた多様な努力を抑圧する。強制力を強化するとどうなるか、旧ソ連で証明済みだ。限界まで強化されるとどうなるか、北朝鮮を見ればよく分かる。

●医系技官の権力拡大

地域医療構想では、構想区域の医療の需要を行政が推計し、各病院の病床機能ごとの病床数を実質的に行政が決める。計画経済そのものだ。実行に強制力が伴う。都道府県知事は、「勧告等にも従わない場合には」最終的に「管理者の変更命令等の措置を講ずることができる」(地域医療構想策定ガイドライン)。都道府県に出向した医系技官が、病床配分を通じて、個別医療機関の生死を握ることになる。専制と腐敗が生じやすい。さらに、消費税増収分を活用した地域医療介護総合確保基金が、都道府県に設置された。補助金を、都道府県の裁量、すなわち、都道府県に出向した医系技官の裁量で医療・介護施設に配分する。医療には消費税が課されていないが、医療機関の購入したものやサービスには消費税が上乗せされている。消費税率引き上げ分が診療報酬に十分に反映されていないことを考え合わせると、この基金は病院の収益の一部を取り上げ、それを、支配の道具に使う制度だと理解される。病院の投資を医系技官が握ることになる。病院独自の経営努力の余地を小さくする。行政主導の投資は無駄が多い。補助金をできるだけ少なくして、診療報酬に回すのが健全だ。どうしても必要な補助金は、裁量権を持つ医系技官が決めるのではなく、数字で示される指標で自動的に金額が決められる方法を考案する必要がある。配分する側に裁量権があり、配分される側に経済的余裕がなければ、支配-被支配関係が生じ、民主主義が破壊される。

●統制医療ミクロの失敗:東千葉メディカルセンターの巨額赤字とその責任

東千葉メディカルセンターの設立と運営に補助金を集中的に投下するために、千葉県は、二次医療圏を恣意的に変更して、山武・長生・夷隅医療圏を作った。長径80キロの細長いゲリマンダー医療圏だ。東千葉メディカルセンターは、2014年に開院したが、医療人材不足とずさんな計画のため巨額の赤字が続き、東金市の財政を危うくしている。夷隅郡市2市2町の住民の医療のために使われるべき補助金が、東千葉メディカルセンターに投入された。夷隅郡市の住民は遠いため通院できない。救急搬送するにも遠すぎる。東千葉メディカルセンター問題が注目されると、千葉県職員の責任問題になる可能性がある。井上肇氏は、東千葉メディカルセンターの準備段階の一時期、千葉県庁でこの問題を主導すべき立場にあった。高岡志帆氏は、現在、東千葉メディカルセンター問題に深く関わるべき立場にある。東千葉メディカルセンター問題は、言論抑圧の直接的原因の一つだった可能性が高い。

●医療事故調査委員会問題:行政主導の「裁判」を目指して失敗

医療事故調査委員会問題では、医系技官は、当初、中央で医療の正しさを決め、過失の認定まで行おうとして失敗した。実現していれば、医系技官が事務局に天下りし、裁定を支配しただろう。人権を守るための手続きを知らず、自己の権力拡大を強く望み、それ故に利益相反が避けられない人たちに、「裁判」をゆだねるのは危うすぎる。最終的に、法令系事務官が、医系技官から奪い取る形で、院内事故調査委員会を中核とする安全を高めるための制度が作られた。医療の正しさは仮説的で暫定的であるがゆえに、進歩し続ける。医療の正しさは未来に向かって変化するものであり、別の意見を排するような猛々しいものではない。医療現場は多様であり、正しさも複雑多様だ。正しさが固定されると、医療は機能を低下させ、進歩を止める。

●新専門医制度:多様性の抑圧と若い医師の人権無視で破綻

新専門医制度では、専門医の養成を、統一的に画一的に行ない、これに人事権を絡ませようとした。教育制度に人事権を持たせると、専制と搾取が生じる。教育者と被教育者の権威勾配がこれを助長する。医系技官は制度を支配の手段と考え、大学教授たちは若い医師を隷属させる手段と考えた。このため、養成期間が長期間になりすぎた。給与を誰が保障するのか考えていなかった。画一的で無駄の多い修練期間が長くなると、専門医の技量の習得を妨げ、医療の質を低下させる。専門医としての生涯活動期間を短くし、サービス提供量を減少させる。地域にはその実情に合わせた多様な工夫や努力がある。愛知県の救急医療は、医師不足にも拘わらず、卒後5~6年目までの若い医師によって支えられてきた。愛知県の救急医療体制は、新専門医制度の人事ローテーションによって崩壊すると危惧されていた。新専門医制度は様々な欠陥のため、予定していた2017年度に開始できなくなった。

●新型インフルエンザ騒動:病気と医療についての知識不足で失敗

2009年の新型インフルエンザ騒動で、医系技官は、医学常識に反する無茶な指示、事務連絡を連発し、医療現場を混乱させた。早い段階で、弱毒性と分かったが、大騒ぎを続けた。大阪の経済活動を長期間妨げた。医学的に根拠のない検疫、停留措置で人権を侵害した。2012年4月、新型インフルエンザ対策特別措置法が成立した。医学常識を欠く医系技官に、人権制限を伴う強大な権限を付与するものだった。2012年11月、日本感染症学会は、特別措置法について緊急討論会を開催した。専門家たちは2009年の新型インフルエンザ騒動の混乱を忘れていなかった。多くの専門家が発言したが、特別措置法に賛成した者は一人もいなかった。

●医系技官と言論の自由

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