石破 茂 です。
一昨日、自民党憲法改正推進本部の総会において、自民党としての改憲4項目についての論点整理が了承されました。憲法改正の項目を絞り込むにあたって、二次にわたる改正草案を党所属議員・党員に対して説明し、どれを改正項目として優先的に取り上げるかというプロセスを経なかったことは誠に残念です。今の時点においても我が党の党議決定である24年草案について、説明する機会を一度も持たなかった理由は一体何であったのでしょうか。
12月16日、自民党宮城県連政治塾において憲法改正について述べる機会があったのですが、こんな話は初めて聞いた、という反応が多かったように思われました。
24年草案の起草委員は当時の中谷元委員長をはじめとして、私を含む22人が今も現職議員であり、21年から二年にわたり本部長であった保利耕輔先生もご健在です。現在の党所属議員に説明したり、手分けをして全国の党組織を廻る人員も時間も十分にあったはずと思うと、残念です。
改正項目を絞り込むに当たっては、なぜ今それらが必要なのかを説明しなくてはなりません。それが時代や環境の変化によるものなのだとするならば、どのように時代や環境が変わり、なぜ今の憲法では対応できないのかを明確にしなければ、国民の理解は得られません。改正した場合、現在と何がどのように変わるのかまで具体的に示す必要はないでしょうが、最低限の方向性だけは示さねばならないと考えます。
その点、参議院の合区解消は、再来年に選挙を控えており、緊要性・時限性のあるものなのですが、焦点となる第9条については、安全保障環境の急激な変化に対応するものなのか、それとも「自衛隊は憲法違反」とする意見を払拭することに眼目があるのかを明らかにせねばなりません。
国際法上の概念としての交戦権と自衛権は一体のものであり、本来分けて考えることは出来ません。なのに交戦権を否認されたままで本当に自衛権行使が出来るのか。臨検・拿捕は出来るのか。それなくして経済封鎖の一翼を担うことは出来ません。
中期防や防衛大綱の見直しが具体的なスケジュールに上る中にあって、立法府によるコントロールの実効性も担保されなくてはなりません。防衛出動の下令は国会の権能として憲法に明記することにより、立法府によるコントロールがより実効性を持つものとなります。
我が国最強無比の実力集団である自衛隊と国家との関係も、自衛官の使命感や正義感にのみ委ねることは、国家組織論としては本来、妥当性を欠くものです。
もちろん今の自衛官が政府に対して反旗を翻すことは全く考えられませんが、近代市民国家の最大の課題の一つは政治と軍事の関係にあったのであり、我が国だけが例外ということはありえません。
自衛隊を軍と認めて初めて、政軍関係が憲法上明確に位置づけられるのであり、自衛隊は警察のように行政そのものなのでない以上、政軍関係を明確化する必要があるはずなのです。
「『自衛隊は憲法違反である』という言説が存在すること自体が自衛官に対して失礼だ」という思いは十分に理解出来ますが、自衛隊が防衛出動時に発生した事件を一般の軍事知識に乏しい裁判所で裁くこともまた、自衛官の権利を損なうことになるのではないでしょうか。
戦前の軍法会議に多くの問題があったことは事実ですし、この言葉に暗くてネガティブなイメージがあることも確かです。だからといってこの問題を忌避してよいはずがありません。
再来年には今上陛下が退位され、新天皇陛下が即位されます。
24年草案においては、現行憲法第四条で「天皇はこの憲法の定める国事に関する行為のみを行い」としているのを、現行の国事行為に加えて「(その他)国または地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う」としています。現行憲法の国事行為の限定列挙は「日本国民統合の象徴」であらせられる陛下のお立場と整合しておらず、この規定を改めることが必要なのではないかとの問題意識によるものであり、畏れ多いことであってもこれも避けて通るべきではありません。
憲法改正、特に第9条は「ハードルが高い」と言われます。しかしハードルを乗り越える努力も行わずに最初から「どうせわからない」と決めつける姿勢が仮にあるとすれば、賛同しえません。むしろ「ハードルが高い」からこそ、国民に向けた地道な説明努力が何よりも大切なのだと思います。
今度改正を行えば「日本国民が自主的に選んだ憲法」という位置づけが確定します。私はその立場には立ちませんが、根強くある「押し付け論」「無効論」は今後一切意味を持たなくなることにも注意が必要です。
あらゆる法体系の頂点にある憲法について論じることは、我が国の在り方そのものを論じるということです。
であればこそ、本来党所属の全議員が参加して徹底した学習を行い、侃々諤々の議論を闘わせ、地方組織においても丁寧に説明して理解を得るというのが、本来あるべき姿だと思っています。
報道によれば「石破さんがそう(筋論を)唱えるのなら、まず他党を説得してから言ってほしい」と某ベテラン議員が語ったとのことですが、まず問われるべきは我が党の姿勢なのではないでしょうか。我が党が決然たる姿勢を示すことによってこそ、その本気度が国民にも(他党にも)伝わるのだと私は信じています。
ほとんど私自身が見る機会はないのですが、民放のワイドショーは日馬富士の事件でもちきりのようです。貴乃花親方についても「まるでガキのようだ」などと決めつけて揶揄する論調まで見られますが、力士として、横綱として、どのような相撲を取ってきたのか、それがそもそも天覧試合を発祥とする国技である相撲道に対する姿勢に直結するのではないでしょうか。
平成13年夏場所、貴乃花関が最後に優勝賜杯を手にした一番で、当時の小泉総理は「感動した!」との名台詞を発せられましたが、貴乃花関の相撲には「とにかく勝ちさえすればよい」などという価値観は微塵も感じられませんでした。牢固とした因習に敢然と立ち向かう姿には、貴乃花の相撲観が強く反映されているように思われてなりません。
週末は、24日(日)午後・元鳥取県森林組合連合会 代表理事会長 森下洋一氏 叙勲受章祝賀会(ブランナールみささ)、午後6時・テレビ朝日系列「TVタックル年末スペシャル」放映(収録)、という日程です。
今年もあと10日となってしまいました。
皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。
(2017年12月22日 石破茂オフィシャルブログ「自民党憲法改正推進本部の議論など」より転載)