4コマ:原子核で捕まえろ!COMETちゃん!

それが今回の4コママンガの主役、COMETちゃんことCOMET実験(COherent Muon Electron Transition)です。

以前、ミュー粒子が壊れる様子をたくさんたくさん調べて標準理論を超える現象を見つけようとする、メグちゃんことMEG実験を少しだけ紹介しました。

そんなMEG実験とはちょっと違ったアプローチでミュー粒子が壊れる様子を調べようとする実験が、J-PARCで計画されています。それが今回の4コママンガの主役、COMETちゃんことCOMET実験(COherent Muon Electron Transition)です。

素粒子にはレプトンと呼ばれるグループがあり、そのグループがさらに、電子、ミュー粒子、タウ粒子と呼ばれる3種類の荷電レプトンと、そのそれぞれに対応する電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの3種類のニュートリノのグループに分かれます。

現在の素粒子物理学の基本となっている標準理論において、荷電レプトン、ニュートリノのグループの中で自由に変身することは許されていません。

ところが、2015年の梶田先生のノーベル物理学賞を受賞する理由となったニュートリノ振動という現象で、このうちのニュートリノがそのグループの中の別のニュートリノに自由に変身できてしまうことがわかったのです。

それに対して荷電レプトンはどうでしょう。現在のところ、荷電レプトンがそのグループの中で別の荷電レプトンに自由に変身できるような現象は発見されていません。

例えばミュー粒子が電子に変身しようとすると、電子に加えて、標準理論による制約から電子ニュートリノとミューニュートリノが一緒に出てきてしまうのです。

同じレプトンというグループなのに、ニュートリノは変身できて荷電レプトンは変身できないなんて、なんかおかしくない??という疑問、出てきて当然です。

そんな疑問を解決するために、ミュー粒子が電子に変身する現象をたくさん観測する実験が行われ、そして計画されています。それがMEG実験であり、COMET実験なのです。

そんな実験なので、ミュー粒子がたくさん作れる装置がある場所でないと実験はできません。

COMET実験は、陽子をターゲットにぶつけることでたくさんのミュー粒子が作ることができるJ-PARC、その中のハドロン実験施設で計画されている実験になります(J-PARCについては下記でちょっと紹介しています)。

COMET実験の流れは上の図のような感じです。J-PARCの加速器で加速された陽子は、炭素で作られたターゲットに衝突してパイ中間子と呼ばれる粒子を作り出します。

このパイ中間子ですが、電磁場の力で曲げながら誘導していくうちに勝手に壊れて、ミュー粒子とミューニュートリノに変身します。

そのうちのミューニュートリノは電磁場の力の干渉を受けずにまっすぐどこかに飛んでいってしまうので、結局ミュー粒子だけが最後までターゲットまで導かれます。

アルミニウムの薄い円盤を重ねて作られているターゲットにミュー粒子がぶつかって静止すると、ミュー粒子はターゲットに含まれている原子の原子核に捕まって、ミュー粒子と原子核によるちょっと不思議な「原子」を作り出します。

この原子のような状態のミュー粒子が崩壊する様子をターゲットを取り囲んだCyDetと呼ばれる検出器でばっちり観察して、標準理論では禁止されているはずの、ミュー粒子が電子単体に変身する現象を見つけようとしています。

ちなみに、目的としている現象が1000兆回に1回でも起きるようであれば、見つけることが出来る性能がCOMETにはあります。すごい!

COMET実験もMEG実験もミュー粒子をいっぱい観察する実験なのですが、大きく違うところはミュー粒子がどのような状態にあるのかというところ。

MEG実験はミュー粒子単体が壊れる様子を観察するのに対して、COMET実験は原子核に捕まったミュー粒子が壊れる様子を観察するのです。この2つの実験はお互いを補完し合うもので、これによって標準理論の綻びを暴く実験となるのです。

そんなCOMET実験ですが、これはPhase-Iと呼ばれる段階で、次の計画であるPhase-IIではミュー粒子を導くラインと、ミュー粒子が崩壊して生まれた電子を導くラインを延長する予定です。

検出器もパワーアップさせる予定で、Phase-Iではノイズを測定して信号の信頼度を高めるために使っているStrawECAL検出器をアップグレードしたものをメインに使用する予定になっています。

Phase-IIのCOMETの性能は、珍しい現象が10京回に1回でもあれば見つけちゃうほど。すごい!

このCOMETちゃんはCOMET実験グループの方のご依頼でデザインさせていただきました。ありがとうございます!

(2017年7月22日「HiggsTan」より転載)

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