家でできる風邪のケア方法

少し驚いたのは、1歳以上の子の咳に、はちみつが効いたという論文が存在することです。

子どもが保育園に行き始めると、どうしても、もらってきてしまうのが風邪です。熱や咳、鼻水でつらそうな子どもをどう看病すればいいのか、慣れないうちはあたふたしてしまいます。息子も、冬の時期は、元気だけれど鼻水や咳がひどく、治ってきたと思ったらまた悪くなるのを繰り返していました。小児科へ行くほどではない場合でも、できることはやってあげたいですよね。

薬局では市販の風邪薬も売っていますが、実はアメリカ食品医薬品局は2歳未満の子どもに市販の薬を使うのは推奨しないと発表しています。市販薬は12歳未満の子どもに対して効果がはっきりしておらず、副作用の恐れがあるからです(1)。日本では『3か月から』などと表示された風邪薬が市販されていますが、薬が必要そうなくらい具合が悪いときは小児科へ、そうでなければお家でのケアで症状を和らげるようにしましょう。

一般的に風邪と言われるのは、ウイルス感染によって引き起こされる鼻やのどの炎症です。症状が出てきてから2、3日目がピークで、大きくなってくると5〜7日程度で治るのですが、赤ちゃんや小さい子どもでは2週間程度かけて良くなることが多いです。抗菌薬には細菌をやっつける効果しかなく、ウイルスには効きません。風邪のウイルスをやっつける特効薬はないので、症状を和らげながら、子ども自身の免疫力で治るのを待つことになります。

しかし、ウイルス感染である風邪に続いて、細菌感染も起こしてしまうことがあります。子どもで多いのは、細菌性の中耳炎や副鼻腔炎です。この場合、抗菌薬での治療が必要になることがありますので、風邪の症状が悪化してきたり、長引いたりしている場合は小児科を受診しましょう。ちなみに、ウイルス感染だけの段階で抗菌薬を使っても、細菌感染を予防する効果はわずかだと考えられています(2)。一方で、赤ちゃんのうちに抗菌薬を使用すると、アレルギー発症のリスクになるかもしれないと言われ始めていますし(3)、中途半端な抗菌薬の使用は、薬が効きにくい耐性菌を生む原因になります。抗菌薬は、必要な時だけ使い、症状が改善してきても、処方された分を飲みきることが大切です。

さて、家でできる対処方法は様々ありますが、子ども相手となると、副作用がないか?本当に効果的か?など気になってしまいます。科学的に良いとされているのは、どんな方法なのでしょうか?

風邪の時には積極的な水分摂取が勧められますが、これは世界中でも一般的に推奨されているようです。発熱していると水分の必要量が増えるためだと理解していましたが、WHOのガイドラインを読むと、いつもより多めに水分をとらせてあげることで、痰の排出を促すことができると記載されています(4)。また、ラーメンを食べると鼻水が出てきたりしますが、あたたかい飲み物を飲んだ時の、鼻水が出る速度についての研究もありました(5)。お湯をコップで飲むと、5分後の鼻水の速度は時速6.2mmから8.4mmに増加していましたが、30分後にはもとに戻っていました。一方で、冷たい水を飲むと、時速7.3mmから5.3mmに低下し、30分後には4.5mmにまで下がってしまいました。風邪のときは、あたたかいお茶やお味噌汁・スープをコップやお椀で飲ませてあげると、鼻水や痰がゆるんで出やすくなるかもしれません。

加湿器を付けることの効果は証明されていませんが、乾燥していると喉も痛いし、鼻水がカピカピに乾いて苦しいのは大人でも経験します。加湿器を使うときに注意していただきたいのは、清潔に保つことです。2018年1月には、大分県の高齢者施設で、超音波式の加湿器が原因と思われるレジオネラ菌の感染が発生しています。これを防ぐためには、こまめに掃除することも大切ですが、一旦水を加熱して加湿する、スチーム式やハイブリッド式の加湿器を選ぶと安心です。

鼻水をまだかめない子は、吸ってあげるのが基本です。しっかりとしたエビデンスはまだないようですが、鼻と耳はつながっているので、鼻水を吸うことが中耳炎の予防になると考える専門家も多いようです。吸いにくい場合は、鼻に生理食塩水を3−4滴ずつ垂らして1分ほど待ちましょう。生理食塩水は市販品を使う他に、家で作ることもできます。水を一度沸騰させて冷まし、110ccに対して塩1gを溶かすだけです。ただし、水道水をそのまま使って鼻うがいをしたら、アメーバという微生物による脳炎を起こしたという事例の報告がありますので(6)、必ず煮沸して冷ました水を使って下さい。とはいえ、うちの息子は鼻水吸いをものすごい勢いで嫌がり、頑張って吸ってもすぐまた鼻水が出てきてしまうので、1日何回吸ってあげればいいのか悩みどころです。こればかりは調べてもはっきりした答えがなかったのですが、食事の食べやすさや寝つきやすさを考えると、食事前や就寝前に吸ってあげるのが良いようです。かかりつけの小児科の先生に相談してみてください。

少し驚いたのは、1歳以上の子の咳に、はちみつが効いたという論文が存在することです(7)。イスラエルの研究者たちが、1〜5歳の風邪の子ども300人に、はちみつをそのまま、または飲み物にとかして、寝る30分前に食べさせました。10gのユーカリはちみつ、柑橘類のはちみつ、シソ科のはちみつ、またはプラセボ(デーツのシロップ)で比較したところ、はちみつを食べた日は、その前日とくらべて、すべてのグループで咳の頻度が減少していました。そして、デーツシロップよりもはちみつの方が減少幅が大きいことがわかったのです。乳児ボツリヌス症のリスクがありますので、1歳未満の子には、はちみつを与えないよう注意して下さい。1歳以上のお子さんには、試してみても良いかもしれませんね。

(1)Sharfstein JM, North M, Serwint JR. Over the counter but no longer under the radar–pediatric cough and cold medications. N Engl J Med. 2007;357(23):2321-4.

(2)Gulliford MC, Moore MV, Little P, Hay AD, Fox R, Prevost AT, et al. Safety of reduced antibiotic prescribing for self limiting respiratory tract infections in primary care: cohort study using electronic health records. BMJ. 2016;354:i3410.

(3)Love BL, Mann JR, Hardin JW, Lu ZK, Cox C, Amrol DJ. Antibiotic prescription and food allergy in young children. Allergy Asthma Clin Immunol. 2016;12:41.

(4)World Health Organization. Cough and cold remedies for the treatment of acute respiratory infections in young children, 2001.

http://whqlibdoc.who.int/hq/2001/WHO_FCH_CAH_01.02.pdf

(5)Saketkhoo K, Januszkiewicz A, Sackner MA. Effects of drinking hot water, cold water, and chicken soup on nasal mucus velocity and nasal airflow resistance. Chest. 1978;74(4):408-10.

(6)Yoder JS, Straif-Bourgeois S, Roy SL, Moore TA, Visvesvara GS, Ratard RC, et al. Primary amebic meningoencephalitis deaths associated with sinus irrigation using contaminated tap water. Clin Infect Dis. 2012;55(9):e79-85.

(7)Cohen HA, Rozen J, Kristal H, Laks Y, Berkovitch M, Uziel Y, et al. Effect of honey on nocturnal cough and sleep quality: a double-blind, randomized, placebo-controlled study. Pediatrics. 2012;130(3):465-71.

(2018年5月16日MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)