2018年2月23日、WWFジャパンは、「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトの第6弾の報告書を発表しました。これは、各企業の温暖化対策を点数化したもので、今回の調査対象となったのは「建設業・不動産業」に属する日本企業34社。第1位となったのは、積水ハウス(85.5点)。今回、偏差値60以上の上位にランクインしたのは8社に及び、これまでの調査業種の中でも高スコアとなりました。上位を占めたのはいずれも建設業。しかも9位までの企業が、SBT(科学的知見と整合した削減目標)に何らかの形で取り組んでいました。パリ協定と整合した中長期の削減目標でもあるSBTの策定が、国内においても新たなスタンダードになりつつあります。
建設業・不動産業の上位企業は?
温暖化の進行を防止することを世界が約束した「パリ協定」。 2015年12月、フランスで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択され、2016年11月に発効した「パリ協定」は、温暖化の原因となる温室効果ガス(CO2:二酸化炭素など)の排出量を21世紀後半には実質ゼロにし、地球の平均気温の上昇を2度未満(できれば1.5度未満)に抑えることを目標としたものです。 2017年11月の同第23回締約国会議(COP23)では、国家だけでなく、企業や自治体といった非国家アクターの役割が注目されました。今や、世界は脱炭素社会へ向けて動きを加速しています。化石燃料からの投資撤退やガソリン車から電気自動車への移行、再生可能エネルギー事業への投融資の拡大など、既存の産業構造が大きく変わろうとしています。 WWFジャパンは、早くから企業の役割に注目してきました。日本政府の温暖化防止の取り組みが停滞する中、日本企業の取り組みを促すため「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトを展開。2014年以降、5回にわたり業種別の調査報告書を発表してきました。 そして、2018年2月23日、その第6弾として、「建設業」と「不動産業」に属する34社を調査した「『企業の温暖化対策ランキング』 ~実効性を重視した取り組み評価~ Vol.6『建設業・不動産業』編」を発表。 34社のうち、2017年に環境報告書類を発行している25社の温暖化防止の取り組みを評価しました。 現在、日本では官民一体となって、CO2の排出を正味ゼロにするネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)やネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の普及が推進されています。 今回、そうした製品(住宅、ビル等)を通じた削減の取り組みだけでなく、企業自らの排出の削減に関する取り組みにも大きなウェートを置いて評価を行ないました。 その結果、偏差値60以上の上位企業は、以下の8社となりました。
取り組み評価の基準と今回の評価
このプロジェクトでは、各社が発行した環境報告書やCSR報告書などを基に情報を収集し、温暖化対策の取り組みを主に実効性の観点から評価しています。 採点に関しては、企業として温暖化対策の「目標」を設定し、その実績を評価・分析しているかを問う『目標および実績』。取り組みの状況や進捗などに関する情報開示を行なっているかを問う『情報開示』。WWFジャパンではこれまで、この2つの観点から、21の指標を設け、評価を行なっています。 特に重要な指標は次の7つです。
● 長期的なビジョン
● 削減量の単位
● 省エネルギー目標
● 再生可能エネルギー目標
● 総量削減目標の難易度
● ライフサイクル全体での排出量把握・開示
● 第3者による評価評価の結果、平均点は、47.2点となり、これまで調査した業種(『電気機器』編48.7点、『輸送用機器』編46.7点、『食料品』編44.8点、『小売業・卸売業』編34.1点、『金融・保険業』編34.9点)の中でも、レベルの高い結果となりました。
今回の調査では、上位8社を「建設業」が占めました。全21指標のうち、特に重要な7指標についてみると、これら上位8社は、「長期的なビジョン」、「削減量の単位」、「目標の難易度」、「ライフサイクル全体での排出量の見える化」、「第3者による評価」の5つの指標で高評価となり、第2、第3グループとの間で大きな差が生じています。
一方「不動産業」の多くは下位を占めました。建設業のみの平均点が56.1点であるのに対し、不動産業では31.4点と、大きな開きがありました。
その主な要因として、長期的な視点が乏しく、ライフサイクル全体を通じた取り組みも不十分であり、さらに温室効果ガスの削減目標を持っている企業も少ないことが挙げられます。実際、総量での削減目標(あるいは省エネ目標)の設定は1社に留まりました。
また、不動産業で環境報告書類を発行していたのは15社中9社のみで、環境コミュニケーションが不足している点も明らかになりました。
パリ協定と整合した削減目標「SBT」の策定が新たなスタンダードに
今回の調査で最も特徴的だったのは、パリ協定と整合した長期的なビジョンを描き、科学的な知見に基づいた長期目標を掲げている企業の割合が、25社中6社(24%)と多かったことです。 過去の調査報告では、『電気機器』編11%、『輸送機器』編8%、『食料品』編4%、『小売業・卸売業』0%、『金融・保険業』10%であり、本業種では非常に取り組みが進んでいることが分かりました。 この、長期的ビジョンのもと野心的な目標を掲げ取り組んでいる6社とは、積水ハウス、戸田建設、鹿島建設、大成建設、清水建設、大林組。いずれも建設業で、偏差値60以上の上位に属する企業です。 こうした長期的ビジョンは、科学的知見と整合した削減目標「SBT(Science Based Targets)を推進する国際イニシアティブ「SBTイニシアティブ(SBTi)」とも親和性が高く、上記6社だけでなく、第1位から9位までの企業すべてが、何らかの形で「SBT」に取り組んでいました。 このことは、パリ協定と整合した中長期の削減目標でもあるSBTの策定が、国内においても新たなスタンダードになりつつあることを示しています。実際、SBTiに参加する日本企業は近年急増しており、2018年2月時点で48社、アメリカに次ぐ世界第2位となっています。
再生可能エネルギーへの取り組みが求められる
業種全体では、自社の温室効果ガスの排出量データに対し、第3者機関による検証を受けている企業の割合は40%(25社中10社)と、これまでの調査業種で最大。排出量データの信頼性を高める取り組みは進んでいることが判りました。 一方で、再生可能エネルギー(再エネ)への取り組みについて、自社での活用について目標を設定していたのは、積水ハウスの1社だけでした。 また、自社で活用している再エネの定量的なデータを一部でも開示していた企業の割合は32%(25社中8社)であり、過去の調査業種と比べて、非常に低い結果となりました。目標を設定していた積水ハウスも、実績値のデータは開示していませんでした。 これまで調査した業種の全181社でみると、再エネを目標に掲げていたのは12社ですが、72社がその活用に関するデータを開示しており、温暖化対策としての再エネの重要性は高まっていると言えます。 今後、パリ協定の目標達成のためにCO2の排出が、益々制限されていくなかで、積水ハウスも参加する「RE100」の加盟企業(世界123社)も増加していくと予想されます。自社の事業活動における再エネの活用が、一層、求められるでしょう。
SBT認定がESG投資の信頼できる判断材料に
近年、世界的にESG投資(環境:Environment、社会:Social、企業統治:Governanceに配慮している企業を選んで行なう投資)の潮流が強まっており、これが今後の環境保全活動にも、大きな影響を及ぼそうとしています。 しかし、ESG情報を基にした投資判断基準は、機関投資家ごとに違いがあり、統一されていないのが現状です。 特に、E(環境)の分野における取り組みを正しく評価するには、気候変動問題などに対する専門的な知識も必要となり、どのような環境対策を行なっている企業が高評価に値するか、投資家側も判断に迷うケースがあります。 その時、2030年や2050年、あるいはそれ以降といったタイムスパンで評価を行なうSBTiは、パリ協定が目指す「2度未満(または1.5度)」と整合した温暖化対策目標でなければ承認は得られないため、機関投資家にとって、信頼できる判断材料となります。 日本政府も、SBTiの下での科学的知見と整合した目標策定を推奨しています。2017年7月、環境省はSBTiの承認取得に向けた企業の目標策定を支援する事業を開始。 また2017年12月にパリで開催された気候変動サミットにおいて、河野外務大臣が「2020年までに日本のSBT認定企業数を100社に」と宣言。官民一体となって、企業の取り組みを後押しする機運が高まっています。 今回、建設業のみの平均点は56.1点と、過去の調査業種で最高となっています。 その理由としては、ライフスパンが長期に及ぶビルや住宅を扱う業界として、長期的視点を持って事業に取り組んでいることが挙げられます。 企業が本業において長期的ビジョンに立てば、自ずとその企業活動は将来にわたり持続可能性を追求することになります。結果として、世界の平均気温の上昇を2度未満に抑えることを目指す「パリ協定」にも沿ったものになるという、良い模範例を示しています。 WWFジャパンは、そうした取り組みが他の業種にも浸透していくよう、企業を後押ししていきます。