裁判員制度は5月21日でスタートから丸9年となり、制度開始10年目を迎えます。裁判員ネットでは、これまでに345人の市民モニターとともに650件の裁判員裁判モニタリングや裁判員経験者へのヒアリングを実施し、裁判員裁判の現場の声を集める活動を行ってきました。この「市民からの提言」は、裁判員制度の現場を見た市民からの提案です。裁判制度の現状と課題を整理し、具体的に変えるべきと考える点をまとめました。今回は提言⑥を紹介します。
<提言⑥>
裁判員候補者名簿掲載通知・呼出状の中に、裁判を傍聴できる旨を案内し、問い合わせ窓口を各地方裁判所に用意すること
1 現状と課題
⑴ 「裁判の公開」と裁判員裁判の傍聴
裁判は公開の法廷で行われますので(憲法82条参照)、誰でも裁判員裁判を傍聴することができます。しかし、裁判所は市民にとって敷居が高く、実際に裁判を傍聴したことがある人は少数にとどまっています。
⑵ 百聞は一見に如かず
裁判員裁判市民モニター参加者や、裁判員経験者の方から、刑事裁判の流れを知らないために、どのように手続が進むのか分からず、審理の内容を十分に理解できなかったという声が寄せられています。
裁判員になるために詳細な法律知識は必要ありませんが、事前に手続の概略を知っておけば、慌てることなく、審理の内容に集中することができるのではないでしょうか。裁判員になる前に、傍聴という体験を通じて手続の概略を知ることは、責任を持って裁判員を務めるために重要な意義があります。
2 裁判員経験者の声(裁判員経験者意見交換会議事録より)
準備しておくというか、僕は個人的に裁判員に選ばれた時点で、何度かほかの裁判を傍聴しに来たんですけど、一度ぐらいは選ばれた人は事前に裁判、1回ぐらい傍聴してから、自分の選ばれた裁判員に参加するというのは、入れたほうがいいのかなというのはすごくあります。一度でもやっぱり傍聴しているだけで、全然違うので、見方とかいろんなものを見る余裕というのは多分できると思うので、そういうのがあるだけでも全然違うと思うので(東京地方裁判所平成24年10月9日)。
実際、本番に立ってみて気づいたんですけれど、一度傍聴しておけばよかったなとか、リハーサル一回しておけばよかったなとすごく思ったんです。そのときに初めて気づいて。いきなりぶっつけ本番で自分が一番高い席に座ってしまったことについて、雰囲気にものまれてしまい、何となくテレビドラマとか映画で見てる雰囲気でしか知らないのに、 すごいスピードとボリュームと内容の濃い感じで進んでいくので、慣れてきた頃にはそういう場面はもう終わっていてというので。やっぱり一回事前にリハーサルとか見学とかしておけばよかったなと(東京地方裁判所平成28年12月1日)。
事前にやっておけばよかったなと思ったのは、1回でも傍聴に来ておけば、最初のペースがつかみやすかったかなということです(東京地方裁判所平成29年5月25日裁判員経験者意見交換会議事録)。
2 具体的な提案
裁判員候補者名簿掲載通知の書類の中には、裁判員裁判の手続の概要を解説したパンフレットが同封されていますが、傍聴に関する案内はありません。
そこで、裁判員候補者名簿掲載通知(毎年秋頃)と呼出状(選任手続期日の6週間程前)を送付する際に、裁判を傍聴できる旨の案内状を同封すると共に、各地方裁判所に、裁判員候補者向けの問い合わせ窓口を設置することを提案します。
裁判員制度「市民からの提言2018」
1.市民の司法リテラシーの向上に関する提言
<提言①>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を理解できるような法教育を行うこと
<提言②>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと
2.裁判所の情報提供に関する提言
<提言③>裁判員裁判及びその控訴審・上告審の実施日程を各地方裁判所の窓口及びインターネットで公表すること
<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと
3.裁判員候補者に関する提言
<提言⑤>裁判員候補者であることの公表禁止を見直すこと
<提言⑥>裁判員候補者名簿掲載通知・呼出状の中に、裁判を傍聴できる旨を案内し、問い合わせ窓口を各地方裁判所に用意すること
<提言⑦>裁判員候補者のうち希望する人に「裁判員事前ガイダンス」を実施すること
<提言⑧>思想良心による辞退事由を明記して代替義務を設けること
4.裁判員・裁判員経験者に関する提言
<提言⑨>予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること
<提言⑩>裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること
<提言⑪>守秘義務を緩和すること
5.裁判員制度をより公正なものにするための提言
<提言⑫>裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること
<提言⑬>裁判員裁判の控訴審にも市民参加する「控訴審裁判員」の仕組みを導入すること
<提言⑭>市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置し、制度見直しを3年毎に行うこと