■はじめに
今年で3回目を迎えました, 珍奇な菌類の頂上決戦「日本珍菌賞」. その授賞式が5月の沖縄にて行われました. 沖縄の伝統食品に挙げられる泡盛や豆腐よう. これらはいずれも麹菌の発酵作用を利用して作られています. 中でも欠かせない麹菌の一つが Aspergillus awamori(泡盛). この学名からも分かるように, まさに「菌」が沖縄の食を支えてきたと言えるでしょう.
日本珍菌賞の過去2回の選考では "トビムシの精子を食らう謎菌" や "スイーツきのこ" といった個性派菌が広く反響を呼びました. 今回は一体どんな菌類が「珍」な頂点に輝いたのでしょうか.
■第三回日本珍菌賞
過去の選考結果や賞の設立の経緯についてはこちらをご覧ください.珍菌賞の選考においては前回と同様, 珍奇な "形態", "生態", "宿主" や "発見の経緯" 等を有する珍菌をツイッターで募り, その"珍奇性に対する反応"に基づき珍菌日本一を決しました.この "珍奇性に対する反応" は珍菌ツイートに対する以下の数字に基づいて評価しました.
RT (retweet) 数:自分のフォロワーに対して情報拡散された回数.
Fav (favorite) 数:お気に入りされた回数.
遊び心あふれる企画とはいえ学術的な土台はしっかり据えておきたいので, 選考対象とする菌は過去に学術論文や学会で発表されたものに限定しました.
今回は選考期間内に計45件のエントリーがあり, その中から得票数に応じて順位付けを行いました. また, 選考基準に適合しているものに限って最終的な珍菌賞候補としました. ここでは, そのうち上位3件の珍菌たちを紹介したいと思います. (他の珍菌賞候補や選考過程についてはこちらをご覧ください. )
第3位 "なんとも複雑な生活環"「Gymnosporangium asiaticum(ナシの赤星病菌・ビャクシンさび病菌)」
32RT 59Fav
第2位 "アリをゾンビ化する菌"「Ophiocordyceps spp.(和名なし)」
48RT 56Fav
そして, 第三回日本珍菌賞の頂点に輝いたのは以下の珍菌でした.
第1位 "花に擬態する菌"「Monilinia vaccinii-corymbosi(和名なし)」
64RT 63Fav
日本珍菌賞を主宰する菌学若手の会では, 選考期間内に最多票数を獲得した点, 擬態を駆使する生態が特徴的である点, そして本菌Monilinia vaccinii-corymbosiの不思議な生態は菌類学者と昆虫学者の夫婦によって解明された点を高く評価し, 今回の授賞対象として相応しいと判断しました. 今回も日本菌学会第59回大会(2015年5月16日, 那覇市)の懇親会の場をお借りして授賞式が行われました. 本来であれば, 第三回日本珍菌賞に輝いたM. vaccinii-corymbosiに代わり, 本菌の記載者であるBatra夫妻に賞状が贈られるところですが, 残念ながら夫のBatra LR氏はすでに故人でした. また, その妻であるBatra SWT氏の消息もつかむことが出来ませんでした.今回の授賞式では筆頭著者であるBatra氏の表彰こそ叶いませんでしたが, こうしてM. vaccinii-corymbosiが再び世間から注目を集めたことは, 菌類学者であるBatra氏も喜んでくれるはずです. また今回も副賞として, 元祖珍菌研究者, 南方熊楠のデスマスク3Dクリスタルが用意されました. 賞状(もちろん英語版!)と副賞の授与は, 後日Batra氏の消息がつかめ次第の贈呈ということになりました.
■おわりに
今回エントリーされた珍菌は45件でした. 回を重ねるごとにエントリー件数が増えており, これは実に嬉しい傾向です. エントリーされている菌類をざっと眺めても, 見た目も生き方も実に多岐にわたっており, 多様な菌類の世界を垣間みることができます. 日常ではまず目にしないものも多いですが, 中には少し意識していると目につくようなものもあります. 「まだまだ未知の菌類がすぐ近くに潜んでいるのでは!?」この記事を読んだ後にそんな思いを抱いてくれたら, 我々菌学研究者にとって嬉しい限りです.
日本菌学会の次回大会は, 2016年9月の京都にて行われます. 暑さも和らぎ始め, ちょうどきのこ狩りのシーズンでしょうか. ふと目にするきのこであっても, 実は「珍」な一面を持っているかも... それではまた, 初秋の京都でお会いしましょう!