中国の人権派弁護士である浦志強さんが、騒動を引き起こした罪、民族の恨みを扇動した罪の2罪で5月に北京市検察院に起訴されました。浦弁護士は、昨年5月、友人十数人と天安門事件25周年を回顧する内輪の勉強会を開いたことを理由に拘束されていました。
1年以上にわたる取り調べの間、国家分裂扇動罪と個人情報の不正取得の罪の容疑もかけられましたが、この2罪では立件できないと検察は判断したようです。ほかの2罪に絞られたとはいえ、懲役10年を超える可能性もあると中国の専門家は指摘しています。
検察当局は、浦弁護士が微博(中国版ツイッター)などに、以下のような内容を書き込んだことを問題視しています。
「チベット自治区の寺は、『九有』を徹底しなければならないという。毛沢東、江沢民、胡錦濤など指導者の肖像画をかけ、伊寧(地名)ではムスリムがひげをはやしたり、ベールをかぶったりすることが禁じられ、一連の政策によって打撃を与えられている。宗教意識を弱めるなどというが、漢人は頭が狂ってしまったのか。いや、漢人の頭(かしら)が狂っている?!」(2012年1月25日)
「九有」とは、寺院に「共産党指導者の肖像、国旗、道路、水道、電力、ラジオとテレビ、映画上映設備、書店、新聞」の9つを設ける事業で、2011年12月に実施された。寺院に共産党の政策を広め、それによって、民族の団結を増強し、社会の安定と祖国の統一に対する責任感を浸透させることが目的だといいます。
浦弁護士がインターネット上に書き込んだこうした言葉は、決して上品とは言えないかもしれませんが、彼なりの皮肉を込めて、民族問題を解決するための方法が今のままでよいのか、より開かれた議論を呼びかけようとしています。
検察当局は、浦弁護士が全国人民代表大会の代表や労働模範(労働者として国民の模範となる人物)として知られている申紀蘭氏や旧鉄道部の下部組織である通信信号設計院の共産党委員会宣伝部長の田振輝氏を微博で批判したことも問題だとしています。
浦弁護士は、申紀蘭氏が全人代代表として特段の成果を示していないにもかかわらず、60年もの間、代表に選任されていることに疑問を呈しました。田振輝氏は2011年に多数の死傷者を出した温州市の高速鉄道の信号システムについて、説明責任を果たすべき部門のトップにいました。
中国の憲法第41条は、国家機関や国家公務員を批評し、国家機関や国家公務員に提言する公民の権利を保障しています。申紀蘭氏と田振輝氏は、国民の批評を受けて当然である公的な職務に就いている人たちです。しかも彼らは、「侮辱された」と自ら訴えたわけでもありません。
開かれた公正な裁判を
私は、浦弁護士の起訴は政治的迫害であり、起訴されるべきではなかったと思います。これから裁判が行われますが、開かれた、公正な裁判が行われるのかを、国際社会も注視すべきだと考えます。
浦弁護士はたまたま身近な友人で、私は、多くの友人たちと共に釈放に向けた支援活動を進めてきました。しかし、彼以外にも、中国では多くの人たちが、憲法が認めているはずの言論、集会、結社などの自由を剥奪(はくだつ)され、罪を問われています。
今年は第2次大戦後70周年の節目の年にあたります。私自身は、中国を含む多くの国と戦争をした日本の歴史や、言論の自由のあり方を、いま一度、振り返ろうとしています。そのうえで、私たちは、いかにして歴史と真実に向き合った上で未来を切り開くことができるのか、国境を越えたより自由な知的交流を進めることができるのかを共に考えるべきだと思います。
(2015年6月26日「AWJフォーラム」より転載)