テレビでもYouTubeでも動画を公開。日テレグループが始めたショート動画メディア「チルテレ」の取り組み

テレビでもYouTubeでも動画を公開する「チルテレ」が1周年。編集長の笠原大輔さん「テレビ局は映像コンテンツをずっと作ってきたという強みがある」
(C)チルテレ

若者の「テレビ離れ」が続き、2019年にはインターネット広告費が地上波テレビの総広告費を上回ろうとしているーー。

スマートフォン全盛の時代、テレビは厳しい局面を迎えていると言われる。かといって、各テレビ局はただ手をこまねいているだけではない。

各局、若年層をターゲットとした施策やウェブ動画サービスの立ち上げに力を入れており、視聴率三冠王をキープする日本テレビも2つの新しいウェブ動画サービスを立ち上げた。

1つは、2018年10月に日本テレビ自体が開始した「テレビバ」。そしてもう1つが、SNS戦略を担う日テレのグループ会社、オールアバウトナビ社が2018年4月に立ち上げたショート動画メディアの「チルテレ」だ。

「チルテレ」のコンセプトは「ゆるく かしこく 自分らしく」。

お笑い芸人の友近さん、ゆりやんレトリィバァさんが5分間のフリートークを展開するコーナーや、デジタルネイティヴ世代から人気が高い著名人をゲストに招いた「チルトーク」など、作り込みすぎない、”ゆるい”コーナーの多さが特徴だ。

編集長を務めるのは、日本テレビで「ヒルナンデス!」や「ザ!世界仰天ニュース」「SENSORS」などのプロデュースを手がけてきた笠原大輔さん。「チルテレ」で目指すものは何なのか。笠原さんに聞いた。

笠原大輔さん
笠原大輔さん
HuffPost Japan

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2018年4月に始まり、1周年を迎えた「チルテレ」。

日テレのグループ会社であり、日本テレビとオールアバウトの合弁会社のオールアバウトナビが運営しており、制作チームには日本テレビからの出向スタッフもいるという。

「チルテレ」では、SNS上で楽しむことを前提とした尺の短い「ショート動画」を配信している。毎週木曜24時からBS日テレで番組が放送されており、見逃し配信サービス「TVer」の他、コーナーごとにYouTubeやTwitterといったSNSでも配信される独特の配信スタイルだ。

笠原さんによると、メディア立ち上げの背景には、YouTubeを筆頭としたネット動画サービスの急成長があるという。

「テレビ業界は今、番組関連動画の違法アップロードを止めたい反面、若い世代におけるYouTube等のSNSの影響力を無視できなくなり、むしろ積極的にSNSとテレビ番組との『連動』を自ら模索するようになってきています。

動画広告の市場が今後さらに大きな位置を占めると予測される中で、自社グループで無料のショート動画メディアを立ち上げた方がいいんじゃないか、となったんです。

違法ではなく、コンテンツを提供する自分たちが『公式』というかたちで無料のオリジナル動画をアップすることが、一つの強みになると思ったわけです」

日本テレビは2018年10月、新たなショート動画サービス「テレビバ」も開設。

「テレビバ」のYouTubeチャンネルでは、2019年1月期のヒットドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』のスペシャルムービーが全30話にわたって配信されるなど、地上波とネットが連携する取り組みが積極的に行われている。

「日本テレビ本体としても、いろいろな取り組みをしています。日本テレビの話だけではなく、テレビ業界全体の広告費の推移を見ても、テレビの広告収入はある程度横ばいですよね。一方で、インターネットの広告費は右肩上がりの状態で(※)。とはいえ、テレビ局は映像コンテンツをずっと作ってきたという強みがあるのだから、今こそネットに適した動画制作に向き合っておかないと駄目だよね、というところは感じています」

(※)2018年の「日本の広告費」(電通調べ)では、インターネット広告費が前年比116.5%の1兆7589億円で、地上波テレビ広告費の1兆7,848億円に迫る結果になった。5年連続で二桁成長を続けており、2019年にはテレビ広告費を上回るとも予想されている。

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テレビ番組にとって、「視聴率」は番組の評価を決める上で最も重要な指標だ。

しかし、複数の媒体で露出している「チルテレ」では、評価を左右するのはテレビ放送時の視聴率ではない。

笠原さんによると、「視聴率をとる」ことを目的としたテレビ的な作り方は削ぎ落とし、テレビで培ったノウハウや人脈を活かしながら、逆にこれまでテレビが捨ててきたものも活かしながら新しい表現にチャレンジすることに重きを置いているという。

「例えば、『チルトーク』というトークコーナーでは、アナウンサーやインタビュアーの人は一切カットして、ゲストの1人語りにしているんですが、そうすると5分間でもかなりの密度に視聴者の方に満足していただけることがわかって。動画に対するネガティブな意見もほとんどないんですね。

もちろん、多くの人に見てもらうということはメディアが目指す理想の基本形だとは思うので、YouTubeの再生回数などは見ていますが...。それだけを指標にはせず、累計でたくさんの人に届くことを主眼にしながら、最終的には動画視聴による広告収入やクライアントとのタイアップ動画などでマネタイズに繋げていく、という考えでいます」 

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テレビ局にとって、若い世代の視聴者の獲得は大きな課題の一つだ。5年連続で年間視聴率三冠王を達成している日本テレビも、高齢化が指摘される視聴層の拡大に力を入れる。

ミレニアル世代をコアターゲット層とした「チルテレ」では、SNS上のインフルエンサーなど、若年層から支持の厚いタレント・著名人のゲスト起用が目立つ。

「ゆるく かしこく ジブンらしく」というメディアコンセプトも、生き方と価値観が多様化する現代を生きる若者を鋭く捉えている言葉と言えるだろう。「チルテレ」で発信される動画には、日本のバラエティでよく見られる「いじり」の表現や、過激な演出なども少ない。

人気コーナーの「友近&ゆりやんの時間」は、友近さん、ゆりやんレトリィバァさんの息のあった掛け合いが「見ていると癒される、元気がでる」と好評だ。 

笠原さんは、「チルテレ」の番組づくりでは、「人を傷つけない表現」を意識していると話す。

「友近さん、ゆりやんさんの2人は非常に頭がよくて、賢くて、ものすごく愛され力が高い方達です。決定的に2人がすごいところは、世の中にコンテンツを出していく時、自分の面白さのために誰かを売ったり傷つけたりしない、という点。だから、僕の中では『何も言わなくても大丈夫』という安心感があります」

「チルトーク」などの他のコーナーでも、出演者の起用には注意を払う。

「今まで仕事をした人の中でも、『この人なら間違いない、安心できる』という方にオファーしていて、新しく出演依頼する時はいきなり撮影せず、事前にお会いするようにしています。

若者向けのメディアといいつつも、若者から搾取するだけのメディアにはしたくない。『若者を応援していく』ことを目標にしたいですね。恋愛をテーマにするとしても、第三者を思慮なく傷つけることはしないように取り組みたいですね」

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4月初旬には、「友近&ゆりやんの時間」の累計再生回数が1700万回を突破した。TwitterなどのSNSでじわじわと人気が広がっているが、前例がない取り組みのため、日々悪戦苦闘し、「真っ暗な道を歩いている」という。 

「ただ、ありがたいことに今『チルテレ』とTwitterで検索すると、まあまあ、150〜200くらいは感想ツイートが出てくるようになりました。BSで見逃したらTVerで見られるよ、とか、みんなが教え合うようになってきてくれているので。チルテレはあちこちで見られる、ということが伝わり始めたとも感じます」

「日々、全てが課題なんですけれど。世の中に求められていることを発信すると同時に、みんながまだ気づいていないけど『実は必要だったもの』を作っていくことにエネルギーを割きたいと思います」

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