「児童労働がない」商品を当たり前にするために。新しい仕組みの鍵は、ここにあった

世界では10人に1人の子どもが児童労働に従事している。チョコレート、砂糖、Tシャツ、コーヒー、たばこ…。身の回りにある商品が、児童労働によって支えられている可能性を想像したことがあるだろうか。
コットンを収穫する子どもの労働者(アフガニスタン)=2019年12月、AVED TANVEER / AFP
コットンを収穫する子どもの労働者(アフガニスタン)=2019年12月、AVED TANVEER / AFP
時事通信社

チョコレート、砂糖、コットンのTシャツ、コーヒー、たばこ…

誰もが日常的に手にする食べ物や洋服、嗜好品。あなたは、これらの商品が「児童労働」によって支えられている可能性を想像したことがあるだろうか。

消費者として「同じ品質ならば1円でも安い商品がほしい」という心理は、ごく当たり前のものだ。しかし「安さ」の裏側には、企業が熾烈なコスト削減競争を繰り広げた結果、サプライチェーンの末端にいる貧しい生産国の子どもたちが犠牲になっている現実もある。

人々が「安さ」を求め続ける限り、弱い立場の誰かが「しわ寄せ」を被る構造は続いていくのだろうかーー。

しかし今、まさにこうした市場原理を逆手に取って、「児童労働のない世界」を実現しようというアプローチが模索され始めている。

児童労働のないチョコレートが儲かる世界」に

チョコレートバー
チョコレートバー
Cavan Images

日本のデロイトトーマツコンサルティングらが考案したのが、「児童労働のない製品の関税をゼロにする」という国際通商ルールを導入することで、児童労働のない製品の方を「安く」市場に行き渡らせる仕組みだ

たとえば、児童労働のない原価100円のチョコレートAと、児童労働に支えられた90円のチョコレートBがあるとしよう(Bは、児童労働による人件費等の分、原価が安い)。

現状では、これらのチョコレートが輸入される際、両者には同一の関税が課せられるため、原価のまま、Bの方が安く輸入されて市場に流通する。つまり、企業にとっては、Bを調達した方が儲かるというわけだ。

しかし、児童労働のない製品の関税をゼロにする仕組みが導入されると、状況は一転する。Aは関税撤廃の恩恵を受けるため、児童労働によって安く作られたBよりも安く輸入されることになる。すなわち、児童労働のないチョコレートを調達した方が利益を生み出せるという新しい「経済合理性」が生まれる。

すると、企業は児童労働がない商品を優先的に調達するようになり、生産国では児童労働撤廃の動きが加速していく…

オウルズコンサルティンググループ

仕組みの考案に携わったオウルズコンサルティンググループCEOの羽生田慶介さんは、狙いをこう語る。

「あくなきコスト削減競争の中で、企業がどうしても(サプライチェーンで児童労働をなくすためのコスト増を)我慢できないのならば、“児童労働のない製品の方が儲かる”という世界を作ればいいと考えました」

一方で、この仕組みが導入されれば「税収が減ってしまうのでは」という懸念も浮かぶ。しかし、羽生田さんは「国庫に占める関税収入率は先進国ほど低い。さらに児童労働に関わる品目は一部であり、先進国への影響は微々たるもの」と見る。実際に、日本において関税が税収全体に占める割合は2%ほどだ。

また、格差や不平等を埋めるために関税をゼロにするというアプローチは、すでに先例もある。医薬品やIT製品については、発展途上国の人々も安価に入手できるようになどの目的から、多くの国家間で関税がゼロになっているのだ。

近年では、SDGsへの機運の高まりを受け、国内の大手メーカーの間でも、フェアトレード商品などサプライチェーンの人権に配慮した製品を販売する動きも加速している。しかし、価格が割高などの理由から、積極的に購買する消費者はまだ少ない。

だからこそ、企業や消費者の「意識」の変化を待つだけではなく、児童労働をなくすための「仕組みづくり」に着目するアプローチへの期待は高い。

この仕組みはまだ実現化されていないが、デロイトなどは今後、提案書を政府や国連機関などに提出する方向で検討しているという。

世界では10人に1人の子どもが児童労働に従事している

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© Imran Hassan

児童労働とはそもそも、義務教育を妨げる労働や法律で禁止されている18歳未満の危険・有害な労働のこと。

ILO(国連労働機関)が2017年に発表した最新データによると、児童労働に従事している5〜17歳の子どもの数は約1億5,200万人。これは、世界の子どもの10人に1人にあたる。

ILOが児童労働に関する世界推計の公表を始めた2000年以降、児童労働者数は9,400 万人減少しており、状況は改善している。しかし現状のペースでは、SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる「2025 年までにあらゆる形態の児童労働を撤廃する」という目標達成は難しいという見方もある。

さらに懸念されているのは、新型コロナ禍における児童労働の増加だ。ユニセフとILOは2020年6月に発表した報告書で「(新型コロナで)何百万人もの子どもが働かなければならなくなり、この20年間で初めて、児童労働が増加するおそれがある」と警鐘を鳴らしている。

児童労働によって子どもたちが十分な教育を受けることができなければ、国や地域は貧困から抜け出せない。そして、貧困や格差は紛争やテロの火種となったり、感染症や災害の被害拡大を招いたりと、先進国も影響を免れない。苦しくも新型コロナによって世界のあらゆる問題が繋がっていることが再認識された今、児童労働問題の解決も待ったなしの状況だ。

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