チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」の衝撃 なぜ話題になったのか?MVを解説

アメリカ社会の実像を痛烈に描き、再生回数は1週間で1億回を超えた。
「Childish Gambino - This Is America」YouTube動画より

アメリカのラッパー、チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)が発表した新曲「This Is America」のミュージック・ビデオが、ネット上で大きな話題を集めている。アメリカ社会の実像を痛烈に描き、5月5日に動画が公開されてから約1週間で再生回数は1億回を超えた。

ガンビーノは、俳優ドナルド・グローヴァーのラッパー名義。第60回グラミー賞では、2016年にリリースした「Redbone」で最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンスを受賞した。

「This Is America」のミュージック・ビデオには、アメリカで実際に起きた銃乱射事件や黒人への暴行事件を彷彿とさせるシーンが多数盛り込まれており、Twitter上であらゆる憶測を生んでいる。日本国内でもASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文氏が和訳を掲載し、「衝撃を受けますよね」と評している

以下に、「This Is America」のMVをめぐるネット上の分析や、作中に登場するシーンに込められた意味について解説する。

Childish Gambino/YouTube

MVの冒頭は、俳優・ミュージシャンのカルバン・ザ・セカンド(Calvin The Second)がミュージシャン役として登場する。

オープニングは陽気なコーラスから始まるが、1分ほど経つとガンビーノがカルバンに銃を向け、頭部を撃ち抜く衝撃的な場面に展開する。そして、「This Is America(これがアメリカだ)」と訴える。

このシーンは、2012年にフロリダで起きたトレイボン・マーティン射殺事件がモチーフになっているのではないか、と推測されている。

事件では、当時17歳だった黒人の少年トレイボン・マーティン氏が、ヒスパニック系の混血で自警団員を務めていた当時28歳のジョージ・ジマーマン氏に射殺された。マーティン氏は丸腰だった。

カルバン・ザ・セカンドは自身のInstagramで、「This Is America」のミュージック・ビデオに出演していることを認めている。「コーチェラ・フェスティバル(アメリカ最大の音楽フェス)の会場でガンビーノの代理人から連絡があった」とし、「歴史の一部になった」とコメントした。

Childish Gambino/YouTube

「This Is America」の舞台は、殺風景な倉庫だ。

この倉庫は、アメリカ社会の土台やシステムが白人によって構成されており、アメリカに蔓延する白人優越主義を表現しているのではないか、との憶測を呼んでいる。

カンビーノの長年のファンは、彼が2011年に発表した「Freeks and Geeks」のミュージックビデオとの類似性を指摘した。このビデオも倉庫で制作されている。

Getty Images/Vevo

作中、ガンビーノは上半身裸で、70年代の雰囲気を醸し出す金のチェーンネックレスとズボンを着用している。

その風貌は、アフロビートの創始者として知られるナイジェリア出身のミュージシャン、フェラ・クティにインスパイアされたように見える。フェラ・クティは黒人解放運動家としても活動し、"Black President(黒い大統領)"の異名で呼ばれた。

「フェラ・クティは、チャイルディッシュ・ガンビーノの体内で鳴り響いている」。公民権運動家のマイケル・スコルニック氏は、Twitterにこう書き込んでいる

一方で、ガンビーノの姿を、コメディアンで社会評論家の故リチャード・プライヤー氏と重ねる意見もある。また、ガンビーノが着ているパンツと、南北戦争で奴隷制存続を主張した南部連合の兵士が着たユニフォームとの類似性を指摘する視聴者もいる。

チャイルディッシュ・ガンビーノは、西アフリカで人気の(そして、2018年のグラミー賞でリアーナが披露した)ダンススタイル、「ショキ(Shoki)」や「グワラ・グワラ(Gwara Gwara)」などのアフリカン・ダンスを取り入れている。

中には、多くの黒人が「いつ死が訪れるかわからない」状況にいるにも関わらず、陽気なダンスがその事実から目を背けさせているのでは、と指摘する人もいた。

「ガンビーノのThis Is Americaは、私には南アフリカの黒人女性のことに思える。社会がグワラ・グワラを踊っている間に、女性が狩られ、殺されている」

映画『ディア・ホワイト・ピープル』などを手がけたジャスティン・シミアン監督も、MVの感想をツイートした。

シミアン監督は、公共機関で白人と有色人種を分けるなど黒人差別を正当化した州法「ジム・クロウ法」を思い起こさせるイメージが溢れていると指摘した。

ジム・クロウ法は、白人が黒人に扮してブラックフェイスなどのパフォーマンスを披露した「ミンストレル・ショー」に登場するキャラクターが由来になった。

ガンビーノは、まるでミンストレル・ショーに登場するパフォーマーのようなポーズを取っており、シミアン監督は「ジム・クロウはアメリカの解放奴隷を犠牲にして作られたポップ・カルチャーの始まりでもあり、黒人への抑圧を象徴する存在だ」とつづっている。

Childish Gambino/YouTube

「拳銃」の描かれ方も印象的だ。ガンビーノが銃を撃ったあと、その銃は人に手渡され、赤い布に包まれて丁重に扱われる。

この描写は、銃犯罪率が高いにも関わらず、銃を所持する権利を保護しようとするアメリカの意思を表しているとも解釈できる。

2分13秒ごろ、背景に男性が飛び降り自殺をするようなシーンが描かれている。しかしこの男性が飛び降りたことに、誰も注目しない。あるTwitterユーザーは、以下のように指摘している。

「飛び降り自殺をする男性に誰も注目しないような描き方をしているのは、ガンビーノのダンスが、アフリカ系アメリカ人の自殺とメンタルヘルスの問題が無視されている現状を思い起こさせる役割を担っているからではないか?」

Childish Gambino/YouTube

『This Is America』の中で特に衝撃的なのは、黒人教会のコーラス隊が乱射される場面だ。

この場面は、2015年6月17日、アメリカ・サウスカロライナ州チャールストンで起きたアフリカ系アメリカ人が通う教会での銃乱射事件がモチーフになっていると推測されている。

事件では、当時21歳だった白人のディラン・ルーフ死刑囚が、黒人の信徒が集まる「エマニュエル・アフリカン・メソジスト・エピスコパル教会」(通称「マザー・エマニュエル」)で銃を乱射し、礼拝中だった男女9人を殺害した。

あるTwitterユーザーは、同事件の犠牲者の写真とガンビーノの画像を並べて、こうツイートした。

「このシーンは、2015年に起きたチャールストンの教会銃撃事件を元にしているに違いない。アメリカではいかに銃乱射事件が"普通のこと"であるかを表している。それが礼拝所だったとしても」

2分28秒ごろ、黒人の少年たちが、マスクをして携帯電話をいじっているシーンがある。

Childish Gambino/YouTube

このシーンは、ネット上に動画が拡散するようになり、警官の暴力や人種差別的な行為が表沙汰にならず、隠されることがなくなった現代社会を表しているように見える。

TwitterユーザーのLKはこう指摘する

「少年たちはスマホで目にしたものを撮影している。これは、警官の銃を使った暴行をライブ配信する世の中を表していて、真実を記録してシェアするという意味合いを持っていると思う」

Childish Gambino/YouTube

『This Is America』を1度見ただけでは、背後を駆ける白馬を見逃してしまうかもしれない。2分35秒ごろ、白い馬がガンビーノの背後を走り抜ける。

この白い馬は、聖書に登場する「蒼ざめた馬」ではないか、と指摘されている。ヨハネ黙示録第6章第8節に登場し、この馬は死を象徴しているとされる。

デジタル・メディア戦略家のカレン・シビル氏は、聖書の一節を引用した。

「そこで見ていると、見よ、青白い馬が出てきた。そして、それに乗っている者の名は『死』といい、それに黄泉が従っていた」

動画の終盤、ガンビーノは赤い車の上で踊る。周囲には、ハザードランプを点灯させ、ドアが開けっ放しになった車が数台並んでいる。

Childish Gambino/YouTube

このシーンは、2016年7月6日にアメリカ・ミネソタ州で起きた警官による黒人男性射殺事件と関連づけられている。

事件では、黒人男性のフィランド・カスティール氏が車のテールランプが壊れていたことを理由に警官から停止を命じられ、射殺された。同乗していた彼の恋人は、Facebookのライブ動画機能を使って生々しい射殺の瞬間を記録していた。

「まわりに停まっている車が運転者席のドアを開けてハザードランプを点けているのは、警官が引きずり出して射殺した人たちを象徴するためではないか」

ボロボロの車がアメリカに住む黒人の経済的困窮を表している、と指摘する声もある。

「午前4時、最終試験を先延ばしにして気づきました。#ThisIsAmerica の空っぽの車は、アメリカで多くの黒人が直面している社会経済的・政治的静止状態を表しているんです」

Childish Gambino/YouTube

R&BシンガーのSZAが「This Is America」のMVに出演していることに、多くのファンが熱狂した。SZAはケンドリック・ラマーらを擁する音楽レーベル、TDE(Top Dawg Entertainment)に所属しているシンガーだ。

このシーンでは、SZAのヘアスタイルと自由の女神像の類似性が指摘されている。

SZAは5月6日、Instagramで「Liberty(自由)」とのキャプションをつけて写真を投稿し、「自由の女神像説」を裏付けた。

Liberty .

SZAさん(@sza)がシェアした投稿 -

2017年に公開された映画『ゲット・アウト』を観たことがある人は、動画の最後にガンビーノが倉庫から逃げ出す場面の不気味さに注目しただろう。

このシーンは、『ゲット・アウト』で主人公クリスが潜り込んでしまう「沈んだ地」を彷彿とさせる。クリスは催眠術にかけられ、自分の心や体を一切コントロールできなくなってしまう。

「『沈んだ地』は、社会の主流から取り残されていることを表している」。『ゲット・アウト』の監督・脚本を担当したジョーダン・ピール氏はこう説明している。

「どれだけ大きな声で叫んだとしても、社会は私たちを黙らせるのです」

『ゲット・アウト』でクリス役を演じたダニエル・カルーヤも、バラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ』でガンビーノの「This Is America」を紹介した。

「This Is America」には、ケンドリック・ラマーやオフセットなどのラッパーが参加しているのではないかとの憶測もあったが、ストリーミング・サービスのTidalによると、以下5人のラッパーがコーラスとして参加しているという。

ヤング・サグ(Young Thug)、21サヴェージ(21 Savage)、クエヴォ(Quavo)、スリム・ジミー(Slim Jxmmi)

多くの憶測を呼び、物議を醸している「This Is America」。

ガンビーノ本人は、トーク番組「ジミー・キンメル・ライブ!」出演時に、ミュージック・ビデオの分析や批評については「あるがままにしている」とし、ネット上にあふれる分析や感想を見ないようにしていると明かしている。

この記事はハフポストUS版から翻訳・編集・加筆しました。

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