初めまして。NPO法人あっとすくーるの理事長をしております渡剛と申します。以下、簡単に自己紹介と私たちの団体の紹介をさせていただきます。
私は1989年生まれで、現在27歳になります。未婚の母子家庭で育ち、私自身がひとり親家庭であることで経済的な面や精神的な面において辛い経験をしてきました。自分自身のそういったバックグラウンドがある中で、大学時代に「子どもの貧困」という問題に出会いました。決して他人事とは感じられないこの問題に対し、「自分が経験した様々なしんどさを、次の世代の子どもたちに残したくない」と強く思い、6年前に友人たちとあっとすくーるという団体を立ち上げました。
あっとすくーるでは、主に経済的に困難なひとり親家庭の子どもたちへの学習支援を行っております。
詳しくはこちらのリンクをご覧ください。http://atto-school.jimdo.com/
また、facebookでも普段の活動の様子を発信しておりますのでよかったらご覧ください。https://www.facebook.com/DaBanFuLiZhongShiJiMianShi/
今回は親子断絶防止法案(父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律案)について書こうと思います。
まず、私がこの法案について知ったのはfacebookでお友達の赤石さんが書かれていた以下の記事です。http://bylines.news.yahoo.co.jp/akaishichieko/20161104-00064062/
それ以外にも、facebookでつながっている方々がこの法案について書かれているのを見ましたが、共通するのはひとり親家庭の支援に携わっておられる方々はこの法案へ懸念を抱いている方が多いということです。
かく言う僕もこの法案に関しては疑問があります。それはこの法案の基本理念にこんなことが掲げられているからです。(以下、引用)
「父母の離婚等の後も子が父母と親子としての継続的な関係を持つことについては、児童の権利条約を踏まえ、
◯ それが原則として子の最善の利益に資するものである
◯ 父母がその実現についての責任を有する
という基本的認識の下に、その実現が図られなければならない」
では、その離婚の実態についてどうなっているのか。平成27年の司法統計を見てみると、こんな数値が出てきます。
申立人が夫の場合の動機は1位から順に「性格が合わない」「異性関係」「性的不調和」となっています。
そして申立人が妻の場合の動機は1位から順に「性格が合わない」「暴力を振るう」「異性関係」となっています。
夫、妻ともに申立ての動機の1位は「性格が合わない」ですが、ここで下の注釈が効いてきます。注釈にはこのようにあります。
「申立ての動機は、申立人の言う動機のうち主なものを3個まで挙げる方法で調査重複集計した。」
異性関係でトラブルがあった相手と性格が合うと思う人はなかなかいないでしょうし、暴力を振るう人と「気が合うよね、私たち」なんて言う人もなかなかいないでしょう。
つまり、「性格が合わない」というのは2位以下のことを含んでいると考えると、実質的には2位の「異性関係」や「暴力を振るう」が最も多い具体的な動機だと考えることができます。
どちらが申立てたとか、どちらに原因があるかというのは置いておいて、離婚する家庭というのはそれなりに大変な状況になってから離婚している家庭が多いということです。
暴力、DVというのはその最たる例だと思いますが、そういった家庭において「親子関係を継続的に持つ」ということが果たして本当に「子の最善の利益に資する」のでしょうか?
ちなみに、この法案の概要には「特別の配慮」ということで、以下のようにあります。
「児童虐待、DV等の事情がある場合には、子の最善の利益に反することとならないよう特別の配慮がなされなければならない」
父子家庭をないがしろにするわけではありませんが、日本のひとり親家庭の約8割は母子家庭であり、ひとり親家庭になる経緯の7割が離婚なのです。
こうした統計を基にすれば、母子家庭の多くは離婚の背景に暴力がある可能性が高いという仮説を出しても的外れではないでしょう。
そしてこの仮説を基に考えるなら、先述の「特別な配慮」ではなく、これが「当たり前の配慮」にしないといけないということになります。
おそらくこの辺が現場で当事者の方と出会ってきた方々が、この法案に懸念を抱いている理由の一つなのではないかと思います。
つまり、現場ではそこを基準に考えないといけないと思っていることが、国から下りてくるものでは「特別な配慮」という認識になっているというチグハグさがあるんです。
ちなみに、僕はこの法案について一人の保護者の方に意見を求めてみました。
いただいた意見をかいつまんでご紹介すると、こんな感じです。
- 家族の亀裂が入って壊れた家に今更何を求めているのでしょうか?
- 子どもの権利と言うなら離婚調停に子どもの意見が反映されてもいいはずですが、実際は親の都合だけで決まります。
- 2つの家庭を行き来するのは子どもに負担がかかる場合もある事を大人は分かっているのでしょうか?
- 子どもの権利は安全が確保され、子どもを第一に考えられる大人がいなければ実現されません。大人は子どもを守る覚悟を持たなくては子どもを傷つけるだけです。半端なきれい事だけでは子どもはかえって大人に不信感を抱くかもしれません。いずれにしても子どもの人権に配慮されているようには感じられませんでした。
あくまで一人の方のご意見ですが、現場で一人一人と向き合う僕らとしては数字の「1」では片付けられない貴重なご意見です。
少なからず当事者の声や実態と、今回の法律に「ずれ」があるということが問題なのではないかと思います。
とはいえ、問題があるからといって悪いことかと言うとそうでもないとも思っています。
ひとり親家庭の暮らしがよりよいものになるような法律を作りたいという気持ちは相手も僕らも一緒なわけです。
0か100かでこの法律を断罪するのではなく、この法律がひとり親家庭にとって支えとなるよう議論を重ねていくことが大事だと思っています。
こういう法律の話があるんだってことをぜひ知って欲しい。
でもその法律には少なからず実態とのずれがあるということも知って欲しい。
とはいえひとり親家庭の暮らしをよりよくするためにって動きが出てきてるっていう、悪いことばかりじゃないよってことも知ってほしい。
そんな想いで書いてみました。
親子関係だけに限らず、「子の最善の利益とは何か」をこの法律をきっかけに皆さんと一緒に考えていきたいです。