Botは現状、サポートセンターや簡単な受注など、いわゆる「コールセンター」業務の効率化に向けて開発が進められている。スピードと量、というBotの優位点を生かすには、コールセンターがもっとも適切だからだ。また、そうしたB2B用途は、価値があればビジネスが生まれやすく、手堅い。
一方で、家電などの「製品」にBotを生かそう、という動きもある。PCやスマホには、AppleのSiriやマイクロソフトのコルタナのような「音声コミュニケーションUI」がつきものになった。今度はその価値をより広い家電に生かそう、という発想も出てきている。これらは「個人対家電」の間で使われるため、コールセンター向けのような速度も量も必要ない。また用途によっては、声やチャットで命令するより、従来通りのボタン・メニュー操作の方が素早いことも多い。だから、導入が必ずすばらしい製品につながっているわけでもないことには留意すべきだ。
だが、家電と人の関係を変えてしまえば、Bot的コミュニケーションによる操作は有用なものとなる。
まずわかりやすいのは「スマホ連携」。いわゆるIoT機器にて、スマホの音声インターフェイスと連携するパターンだ。フィリップスのLEDライト「Hue」は、iPhoneなどとの連動機能を備えている。「Siri、暗くして」などと音声で命令すれば、部屋の明かりを一斉に変化させられる。スイッチを声に置き換えただけだが、間にスマホが入ることで「操作を確実に楽にする」という効果が生まれる。
もっと野心的なのは、家電そのものがクラウドにつながり、対話する能力を持つものだ。LG Electronicsは海外にて、「LINEのアカウントと連携する家電」を出している。LINEの自分のアカウントと持っている家電(例えば自動掃除ロボット)が連携し、チャットでの命令を解釈して動作する。まだできることが少ないうえに、海外(特に欧米)ではLINEがあまり知られておらず、反響はさほど大きくないが、もう2年近く前から研究が進められている。
日本ではシャープが「ココロプロジェクト」として、家電に対話機能をつける計画を進行中だ。冷蔵庫になにを入れたかを話すとそれを覚えてくれて料理や賞味期限を教えてくれたり、洗濯機が自分のお手入れ方法を教えてくれたりする。そして、このプロジェクトの象徴が「RoBoHoN」だ。RoBoHoNは人とコミュニケーションするための家電。電話機能もあるが、それらはある意味「おまけ」。人と対話することそのものを価値として追及している。効率の良さよりも、「かわいいロボットと対話しながら暮らす」価値を追及しているわけだ。
音声やチャットなどのUIは回りくどい。しかし、機器やネットワークが普及しきった現在、「手早く作業ができる」ことだけが価値ではなくなった。Botや音声入力UIは、皆同じ技術をもとに作られているが、そこから「効率」を目指すのか「余裕」を目指すのかは、製品設計のポリシーによって大きな差が生まれることになる。
Vol.43-1は「ゲットナビ」7月号(5月24日発売)に掲載予定です。
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(2016年5月16日「GetNavi web」より転載)
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