電気グルーヴCD回収への反対署名が2万5000人突破。呼びかけ人は作品封印を「誰のためにもならない安易な方策」と訴える

「時代に合わせて柔軟に対応することが、エンターテイメントを提供する企業には求められていると思います」
ピエール瀧容疑者(左)と石野卓球さん
ピエール瀧容疑者(左)と石野卓球さん
電気グルーヴ公式サイトより

テクノユニット「電気グルーヴ」の作品自粛に反対する署名活動が始まった。薬物使用で逮捕された芸能人の作品を封印するのは、是か非かーー。広く議論されるきっかけになるかもしれない。

■メルカリでは定価の5倍以上の値段で転売

メルカリ
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HuffPost Japan

ピエール瀧容疑者の逮捕を受け、ソニー・ミュージックレーベルズは瀧容疑者が所属するテクノユニット「電気グルーヴ」の音源や映像を回収および出荷・配信停止することを3月13日に発表した

 正規ルートで電気グルーヴの音楽を入手できなくなったため、メルカリでは30周年記念アルバムが定価の5倍以上の値段で転売されている。

こうした中で、電気グルーヴの作品封印の撤回を求める署名活動が、結成30周年記念ツアーの東京公演が行われるはずだった15日、Change.orgで始まった

呼びかけ文では、ピエール瀧容疑者の「知名度と社会的影響力を踏まえれば、ある程度の放送自粛はやむを得ないのかもしれません」と、自粛の動きについて一定の理解を示した。

ただ、それと作品の封印は別として、CDが高額転売されている現状を踏まえて「音源・映像の出荷停止、在庫回収、配信停止は誰のためにもならない安易な方策なのではないでしょうか」と問いかけた。

この署名活動に17日正午現在で、2万5000人が賛同している。

ハフポスト日本版は、署名を呼びかけた社会学者の永田夏来さんに取材した。

■「突然自分の好きな音楽を楽しめなくなったユーザー」

デビュー以来の電気グルーヴのファンだという永田さんは、楽曲の配信停止で、「正当な対価を支払っていたにも関わらず、突然自分の好きな音楽を楽しめなくなったユーザーが大勢いる」と指摘。

「時代に合わせて柔軟に対応することが、エンターテイメントを提供する企業には求められていると思います」と語る。

■「ピエール瀧さんを糾弾する情報が出回りすぎている」

永田さんはさらに、過度な「自粛」ムードによる排除や厳罰は、薬物依存症からの回復の妨げになると危惧する。

メディアを対象に作られた「薬物報道ガイドライン」でも、避けるべき報道の例として、「薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと」が挙げられている。

永田さんは次のように指摘した。

「本人を受け入れる場所が用意されていることが回復の手助けになるという前提の共有は大きいです。それにも関わらず、賠償金などセンセーショナルな形でピエール瀧さんを糾弾する情報が出回りすぎています」

■「推定無罪の原則から著しく外れた判断」

逮捕された芸能人の過去の作品が次々自主規制で「お蔵入り」になる現象について、ジャーナリストの佐々木俊尚さんは、自粛の期間や程度、どんな犯罪までが許容されるのか「ガイドラインが必要だ」と提案している

永田さんも、「推定無罪の原則から著しく外れた判断である点、性暴力から薬物まで、十把一絡げにしてコンテンツも含めて責任を問うかたちになっている点は、私も疑問」だとして、ガイドラインの必要性に共感する。

■逮捕歴あっても回復し、活躍中のアーティストも…

過去に目を向ければ、薬物使用で逮捕歴があっても、その後依存症から回復し、今も音楽活動を続けて活躍しているミュージシャンは国内外に大勢いる。

薬物使用が発覚して、実績や作品まで「お蔵入り」になるケース。逮捕をきっかけにCDを自主回収する事例が確認できるのは、男性歌手が逮捕された1999年だ。その後、2009年の女性タレントの逮捕以来、一気に自粛傾向が強まったようにみえる。

薬物報道のあり方を考える契機となったのが、2016年の人気デュオ「CHAGE and ASKA」のASKAさんの逮捕だ。

民法テレビ局4社が、ASKAさんの乗車したタクシーのドライブレコーダーの映像を報道。「薬物報道ガイドライン」が策定されるきっかけとなった。

ASKAさんは2017年に音楽活動を再開。3月22日には35年ぶりの「書きおろし詩集」も発売される。「逮捕」=「キャリアの終了」ではないことは、過去の数々の事例が証明している。

違法薬物の使用は犯罪である一方、薬物依存症は医療機関や相談期間を利用することで回復が可能な病気でもある。

公式サイト

薬物使用で逮捕された芸能人の作品は、なぜ、そしてどこまで排除されるべきかーー。

ミュージシャン、タレント、俳優、声優……と幅広く活躍してきたピエール瀧容疑者の事件を機に、私たちも社会的な合意形成をはかるための議論を始める必要がある。

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