「私たちの世界を変革する」持続可能な開発目標ってどんなもの?(第十四回:目標3)

「健康」はすべての人にとっての夢、「病」はすべての人にとっての脅威。

前回は、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」※の目標4についてご紹介しました。今回は、目標3について紹介したいと思います。

※「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」:2016年から2030年までの15年間に、日本を含む世界のすべての国々が達成すべき目標。貧困・格差、気候変動などの課題について17の目標が定められている。「誰一人取り残さない」がキャッチフレーズになっている。

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「健康」はすべての人にとっての夢、「病」(やまい)はすべての人にとっての脅威

平安時代に絶大な権力を握り、「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思えば」と詠った藤原道長は、やがて癌か糖尿病かに蝕まれ、合併症を併発して苦しんで死んだといわれています。

「病の脅威から解放されたい」... 世の皇帝や国王、資産家たちは、それこそ大枚をつぎ込んで、それぞれの時代の最新の知や実践の体系を用いて「病」の克服に取り組んだのです。

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目標3

「すべての人に健康と福祉を」

病は、お金持ちにも、貧しい人にも降りかかります。

持続可能な保健・社会保障制度は日本にとっても大きな課題です。

健康の追求、「病」との闘いの長い歴史の末、現代では多くの病気の治療法、予防法が確立され、特に先進国では多くの人が寿命を全うできるようになりました。しかし、そこで問題になってきたのが、健康をめぐる地球規模の国内的な格差の問題です。

先進国の平均寿命が80歳代に迫るいっぽう、サハラ以南アフリカなどでは平均寿命が40代という国も少なくありません。5歳以下の子どもの死亡率も先進国では軒並み千人当たり10人以下に下がっていますが、アフリカでは100人以上という国もよく見受けられます。

また、国内でも貧富の格差や、先住民など特定のグループに対する差別・偏見が健康格差と大きく結びついてきました。例えば、オーストラリアでは、国民全体の平均寿命は80歳に近づいていますが、先住民のアボリジニーの人々の平均寿命はそれよりも10年以上短くなっています。

フィリピンの国民健康保険(PhilHealth)の窓口(ケソンシティ)@アフリカ日本協議会

「エイズ危機」が「ミレニアム開発目標」を生み出した

こうした「健康格差」が地球規模で如実に表れたのが、90年代以降のアフリカのエイズ問題でした。エイズは、96年に実用化された「三剤併用療法」(三つのタイプのエイズ治療薬を同時に飲む療法)によって、それまでの「死の病」から、かなりの水準で管理可能な慢性疾患へと変わりました

ところが、先進国の製薬企業が開発したこれらのエイズ治療薬は、知的財産権に守られ、極めて高い価格(一人当たり年間100~200万円)が設定されたため途上国の一般の人たちはアクセスできませんでした。

おりしもアフリカは、90年代に先進国が「構造調整」の名のもとにアフリカに押し付けた緊縮財政と民営化によって経済がずたずたになり、多くの国が内戦に突入していました。

そこにエイズが降りかかり、90年代を通じて、HIV感染が爆発的に増大、2000年には2000万人近い人がHIV陽性に。とくに南部アフリカでは、大人の5人に1人がHIV陽性となり、このままでは「世界の一地域の破滅」すらありうる、という状況に陥っていました

ところが、エイズ治療薬の価格の高さなどが災いして、2002年当時、途上国全体でエイズ治療を必要としていた600万人のうち、治療薬にアクセスできていた人はわずか22万人、というのが実態だったのです。

すべての人に効果的なエイズ治療をと訴えるHIV陽性者たち@アフリカ日本協議会

国連が2001年に始まり、15年を達成期限として「ミレニアム開発目標」(MDGs)を開始した一つの理由が、このエイズ危機を筆頭とするアフリカの保健危機に対して、地球規模で緊急の対策を行わなければなければならない、というものでした。

そこで、ミレニアム開発目標では、数ある保健の課題の中で、「子どもの死亡率の軽減」「妊産婦の健康の改善」「エイズ・結核・マラリア等感染症の克服」の3つを特出しし、ターゲットを設け、各国が計画を立てて国際社会がこれを支援する、という仕組みを作り、集中的に努力しました。

国際的に資金を集めて、途上国のエイズ・結核・マラリア対策に投入するグローバルファンド」(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)もその努力の現れです。

その結果、エイズについては、2015年までに1500万人が治療薬にアクセスし、年間死亡者数も150万人から100万人に減らすという前進を見ました。マラリアに関しても、年間死者数を半減することができました。

「すべての人に健康を」をどう実現するか:SDGsの課題

一方で、取り残された課題もありました。

先進国で大きな問題になっている糖尿病などの「生活習慣病」(非感染性慢性疾患、NCDs)は、実は途上国の方が深刻になりつつあります。多くの途上国では、まともな治療もなく、またNCDsが起こるメカニズムについての理解も十分でないまま、対処が地域のコミュニティに任されている状況が続いています。

また、精神疾患や交通事故といった問題も深刻になりつつあり、特定の課題を選んで取り組むのでなく、保健全体を底上げする必要がありました。

また保健医療に従事する人材も不足しているだけでなく、せっかく国のお金をかけて人材を育てても先進国にヘッドハンティングされてしまうという状況で、保健人材の育成・定着の促進や流出の防止なども含めた総合的な「保健システム強化」をどう実現するかが問われるようになったのです。

課題はもう一つありました。

途上国の多くは、税や保険を財源とした公共の保健・医療の保障制度(日本でいう国民健康保険、英国でいう「国民保健サービス」(NHS)にあたるもの)が脆弱で、国家公務員など一部の人しかカバーしておらず、お金の心配なく医療を受けるということは極めて難しいのが実情です。

しかし、これではお金持ちと貧困層の保健・医療格差がますます拡大してしまうため、お金の心配をすることなく必要な保健・医療サービスを受けられる仕組みである「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」が必要とされたのです。

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「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を保障し、福利を増進する」

  • 人が生まれてから死ぬまでのライフサイクルを全体としてとらえ
  • それぞれのステージに応じて適切な保健サービスを受けられるようにする

SDGsの保健目標は、包括的なアプローチを重視したものとなった

ターゲットはMDGsの3つのゴールに加え、以下6つが増えた。

  1. 非感染性慢性疾患(=生活習慣病)と精神疾患
  2. 薬物問題
  3. 交通事故
  4. セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス
  5. ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ
  6. 環境汚染による疾病の防止

上記内容を実施する手段として、以下4つが明記された。

  1. たばこ規制の強化
  2. 医薬品へのアクセスの保障
  3. 途上国の保健システムの強化
  4. 健康リスクの把握と緩和

※全文をご覧になりたい方は、こちら

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極めて高い目標を設定したSDGsの実現には、すべての国と国際社会の強い政治的意思、政府・市民社会・民間セクター・国際機関などの連携と協力が不可欠です。特に、生活習慣病対策やユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現、保健システムの全体的な強化などは、相当のお金がかかる話で、人々の健康の改善に向けた資金は先進国・新興国・途上国を問わず、増額していく必要があります。

しかし、実際にその見通しが立っているかというと、いささか心もとないのが実情です。

日本にとっての「SDGs」と保健・社会保障

SDGsは日本にとっての課題でもあります。

日本は「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を達成した国といわれます。しかし、私がNGO職員として、日本に生きるアフリカの人々の健康の課題について取り組んでいるだけでも多くのほころびが見られます。

特に在留資格を持っていない外国人については、公的な社会保障制度の適用ができません。(例えばエイズ治療の導入などは不可能な状況)国民健康保険や年金、さらには、これまで生活困窮者の生活や医療アクセスを支えてきた生活保護制度なども行き詰まりを見せています。

少子高齢化の中、経済成長の継続を前提に作られてきた制度をどのように改革し、世代を超えて持続可能で、かつ「誰も取り残さない」ものとして作り変えていけるのか難しい課題です。

2016年から30年までの「SDGs時代」の間に、私たちに何ができるか。

日本の保健・社会保障の持続可能性の確保は、まさにそこにかかっています。

国際保健部門ディレクター

稲場雅紀

視覚障害者、ろう者、知的障害者への衛生、性と生殖に関する情報提供は十分とは言えない

SDGsは「誰も取り残されない世界の実現」を目指して策定されており、女性、子ども、障害者等社会的に弱い立場の人たちを含むすべての人たちを対象とすることを目指しています。

また、障害があると分かった新生児が殺されるということも起きています。さらには、アフリカの一部地域では、アルビノ(先天性白皮症)の人への偏見・迷信等による差別・虐待・殺人等も起きています。

ゴール3の達成のためには、すべての障害者がきちんと保険サービスを受けられるよう、以下の点は重要な取り組みです。

  • 情報のアクセシビリティを整備
  • 医療施設やそこに至るまでの交通のアクセシビリティ等の整備
  • 障害に関する正しい知識を啓発する

DPI日本会議は、障害の問題を社会の問題としてとらえ、様々な提言活動、啓発活動を行っています。SDGs策定の段階から、各目標の中に障害の視点を含めていくために提言を行っています。今後、SDGsの国内外での実施に際しても、誰も取り残されることのない世界の実現に向けて、障害者の立場から発言を続けていきたいと考えています。

特定非営利活動法人DPI日本会議

事務局長補佐

田丸敬一朗

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