スタジオジブリの永遠の名作『となりのトトロ』。タイトルにもなっているトトロと並ぶ人気を誇るのが、ネコとバスが一体となったような特異なキャラクター「ネコバス」です。実は生みの親である宮崎駿監督によってボツになる寸前だったとご存じですか?
■宮崎監督「ネコのバスなんて出してられないですよ」
1988年の劇場公開時、『となりのトトロ』は高畑勲監督の『火垂るの墓』と同時上映でした。盟友の高畑監督が作る『火垂るの墓』が文芸色の強い内容になることを知って、宮崎監督は相当気にしていたようです。
製作委員会の一員だった鈴木敏夫さんは、『となりのトトロ』制作時の宮崎監督とのやり取りを、以下のように振り返っています。
「鈴木さん、『火垂る』は文芸だよね」
「まあ、そうですね」
「おれも文芸をやる」(!)
「えっ、どうすんですか?」
「ネコのバスなんて出してられないですよ、あんなもん出したら文芸作品じゃない」
もうびっくりです。ネコバスだけじゃなく、コマに乗って空を飛ぶっていうシーンもやめるという。「コマで飛ぶなんて、ばかなことやってられないですよ」。
(岩波新書『仕事道楽 新版 スタジオジブリの現場』より)
■高畑監督「もったいないじゃないですか」の一言が…
鈴木さんは「ネコバスを出さないでどうやってやるつもりか」と映画の内容が心配になったそうです。そこで、『火垂るの墓』を制作中の高畑監督に相談しました。
「高畑さん、困りましたよ」
「どうしたんですか」
「高畑さんも『トトロ』の企画を知っていますよね」
「ああ、あれですよね」
「いまのネコバスとかコマを出さないといっているんですよ」
「もったいないじゃないですか」
(同上)
高畑監督から「もったいない」の一言を引き出した鈴木さん。その件を伝えると宮崎監督は「じゃ、出す」と一件落着したそうです。
結局、高畑監督の一言に弱かった宮崎監督。盟友を意識する余り、やや迷走してしまったチャーミングなエピソードです。