猫カフェ夜間営業問題から考える「ねこのきもち」

犬と猫の違いを、『ヒトと動物 野生動物・家畜・ペットを考える』(林良博・近藤誠司・高槻成紀・共著/朔北社)はこう書いている。「ネコは自分で舐めて身綺麗にする点においてイヌより圧倒的に優れている。ネコが家の中で生活をすること許されてきた理由の一つはここにある」。

■2年間延長された、猫カフェ夜間営業の規制緩和

犬と猫の違いを、『ヒトと動物 野生動物・家畜・ペットを考える』(林良博・近藤誠司・高槻成紀・共著/朔北社)はこう書いている。

「ネコは自分で舐めて身綺麗にする点においてイヌより圧倒的に優れている。ネコが家の中で生活をすること許されてきた理由の一つはここにある」。

今や200店舗以上の猫カフェが全国に点在しているが、動物愛護管理法によって禁じているペットショップの夜間営業の特例措置として、猫カフェのみ午後10時までの延長を認める法律が存在してきた。ペットショップと猫カフェは別物であるとする規制緩和がこのたび、2年ほど延長されることが決まった(朝日新聞デジタル)。

猫カフェの営業時間の緩和措置を記した文面はこうだ。これが2年間延長される。

「午後8時から午後10時までの間に、成猫(生後1年以上のねこのことをいう。)を、当該成猫が休息ができる設備に自由に移動できる状態で展示を行う場合においては、平成26年5月31日までの間は、当該成猫については、この告示による改正後の第五条第一号ヌ及び第五号イの規定は、適用しない」。

そんなに遅くまで猫を使ってビジネスして......とすぐさま思いつく批判を投げ返すように、先ほどの記事には猫カフェ業者からの「猫は夜行性」「営業に支障が出る」「猫をケージに入れることになり、逆にストレスが増える」との反論も添えられている。しかし、最後の発言など、ある程度猫にストレスをかけることが前提となっているとも言えるし、どれも根本的な説得力に欠ける。緩和措置の最後にあった適用外となる規定を具体的に追えば、「夜間に営業を行う場合にあっては、当該時間内に顧客、見学者等が犬又は猫の飼育施設内に立ち入ること等により、犬又は猫の休息が妨げられることがないようにすること」(第五条第一号ヌ)とあり、法規通りの解釈をすれば、10時までの延長される場合、「休息を妨げられることがないように」という規定まで外れてしまう。

■"キャバクラ的"ペットショップと猫カフェに差はあるのか

猫カフェ側が、ネオンに照らされて夜な夜な売り物にされてきた"キャバクラ的"なペットショップと同義にされたくない気持ちは理解できる。そもそも、当初、ペットショップの夜間規制と猫カフェが同義に取り扱われた背景には、猫カフェの存在自体を動物愛護管理法の中で位置づけることが難しいという事情もあったようだ。緩和措置が導入される直前、2012年の記事(ニコニコニュース)で猫カフェの店長は「規制自体がペットショップの狭いケージ(ペットを入れるカゴ)の中で飼育されることが前提に考えられているので、『展示=ストレスがかかる』という風に捉えられているわけです。『猫カフェ』という展示業態が、当初から規制の想定に入っていなかったんです」と不満を表明している。

■多く飼われているのは犬だが、多く殺処分されているのは猫

話を直接的に繋げるわけではない、と前置きして殺処分の話。犬猫の殺処分の件数は、年々減ってきている。

環境省自然環境局の資料によれば、平成24年度で16万1867頭。同資料にある昭和49年度の122万頭を上限に順調に減ってきてはいるものの、命を恣意的に絶たれている個体数としては当然ながら異常な数値のままである。殺処分については、テレビや書籍等でも多く取り扱われるようになり、そのことが飼い主や販売業者のリテラシー向上や呼び込んだといえる。

意外と持ち出されない数値なのだけれど、殺処分のうち、当初は犬が圧倒的に多かったものの、今では猫が圧倒的に多くなっている。平成24年のデータでは殺処分された猫が12万3420頭(76%)、犬が3万8447頭(24%)である。飼育個体数は、一般社団法人ペットフード発表・平成25年度の数値で、猫が974万3000頭(47%)、犬が1087万2000頭(53%)だから、比率から考えると圧倒的に犬より猫が殺処分に追いやられている。この数値のみから「ペットとして飼うのにネコは容易く、それゆえポップに飼われて飽きられ、捨てられるケースが多い」という推察を向けるのは乱暴かもしれないが、それなりに間違ってはいない定義だとも思う。

■猫カフェは「動物愛護の観点からも必要な場所」なのか

猫カフェの営業時間規制の問題に戻る。現在は緩和されているとはいえ、そもそもなぜ、この時間規制に販売(ペットショップ)ではなく展示(猫カフェ)までが組み込まれるのか。ペット販売業者が猫カフェの増大をライバル視しているから、とする見方もあるという。つまり、販売と展示において、展示のみが緩和されているのがおかしい、不利ではないかという見方。一昨年に環境省がおこなった緩和措置へのパブリックコメントの反対・賛成意見の主たるところを引っ張り出してみれば、時間延長への反対として、「猫カフェ側の主張は、『動物の福祉』本位ではなく、人間の都合によるものと考えざるを得ない」「猫カフェはあくまでも『一時的な楽しみ』を提供する商売であり、真の意味で生命を慈しむ動物愛護精神にはそぐわないものである」とある。一方、賛成する側は、「猫カフェは住宅事情等から猫を飼えない愛猫家が足を運ぶ希少な場所であり、動物愛護の観点からも必要な場所である」「猫カフェによっては、野良猫の保護や保健所からの引き取り、譲渡の手助けをしているところもある」としている。

■閉店時間が「早い」ほうが、猫にストレスがかかっている

猫カフェの夜間営業で猫にストレスがかかっているのかどうか。あと2年間この措置を続けるとした「中央環境審議会動物愛護部会(第41回)議事要旨」に、「猫のストレス状態調査」の結果が示されている。

各店舗、生後1年以上の猫3頭以上の尿を採取し、尿中コルチゾール濃度・ノルエピネフリン濃度・エピネフリン濃度を測定したという。尿中コルチゾール濃度は「ストレスを受けることにより分泌」され、ノルエピネフリン濃度・エピネフリン濃度は「血圧上昇、血糖上昇、心拍増加」「情動的な部分に作用し、覚醒、警戒、不安」を引き起こす尺度になるという。

結論がこうだ。「今回の調査では、20 時閉店店舗と 22 時閉店店舗の店舗間で、活動量や尿中コルチゾール濃度、尿中ノルエピネフリン濃度及び尿中エピネフリン濃度の値に有意差は認められなかったが、尿中コルチゾール濃度は、【20時閉店店舗の方が22 時閉店店舗に比べて高い値である傾向】がみられた。」(【 】は著者による強調)

「第41回・中央環境審議会動物愛護部会:資料3 猫のストレス状態調査」より

ん? ストレスを受けることにより分泌される尿中コルチゾール濃度が22時閉店よりも20時閉店のほうが高かった、ということになる。

これは、「猫は夜行性だからむしろリラックスしている」という猫カフェ側の反論をフォローする結果である。環境省は引き続き2年間の緩和規制を認めるとし、ここから2年の間に「猫カフェの実態調査(ストレス状況調査を含む)」を行うとも付記されている。

ならば問いたい。このストレステストを、「20時閉店の猫」と「22時閉店の猫」で比較するだけではなく、ペットショップの猫、あるいは家庭で飼われている猫、動物園にいる猫、あらゆる状況下の猫で行うべきではないのか。

これは意地悪な提言だ。ストレステストをあらゆる猫に実施すると、猫に向かう「情」から発動する弁論が出しにくくなる。いいや、猫的にはリラックスしてる、いいや、不特定多数に触れられて猫が気持ち良いわけないでしょう、と両極端に分かれた意見をそのままにはできなくなる。しかし、「ねこのきもち」を知るためにはストレステストは建設的な道ではないのか。このテストをあらゆるポジションにある猫にするべきだろう。4月からパブリックコメントを受け付けるとある、その旨を書き込んでみようと思う。

注目記事