アメリカ・オクラホマ州で11月8日に行われた州の教育長選挙で、共和党のライアン・ウォルターズ氏が勝利した。
州の年間最優秀教師のファイナリストにも選ばれたことのあるウォルターズ氏だが、選挙前に「ネコを自認する生徒のため、学校にペット用トイレが置かれるようになってる」と主張し、物議を醸していた。
これは、近年複数の保守派の政治家らが唱えるようになった陰謀論だ。根底には、教育現場でのトランスジェンダーの権利擁護への反発があると見られている。
一体なにが起きているのか?
北米で広がる「ネコ用トイレを使っている」デマ
オクラホマ州のブログサイト「ロスト・オグル」によると、ウォルターズ氏は11月初め、同僚から聞いた話として「教員の会議で、ネコを自認する生徒のためにペット用トイレを準備することについて議論された」と語った。
一方で、ウォルターズ氏は同僚や学校の名前など、詳細を明かしていない。
ハフポストUS版は、同氏が以前勤務していたマカレスター学区に、実際にそのような会議があったのかを尋ねたが、責任者は「ない」と答えた。
動物を自認する生徒のために、学校がペット用トイレの準備を余儀なくされている――このデマは、数年前からSNSなどで拡散している。
背景にあるのは、過激な右派の政治家らによるトランスジェンダーバッシングと見られ、彼らはLGBTQ+の権利擁護が「行き過ぎ」であるかのように見せようとしている。
このデマが注目を集めるきっかけの一つになったとも言われているのが、2021年12月にミシガン州ミッドランドで開かれた教育委員会の会議だ。
この会議の質疑で、保守派の活動家リサ・ハンソン氏が「自分をファーリーだと言う子どもたちがいます」「私たちの街の学校の少なくとも一つで、ユニセックストイレにネコを自認する子どものためにペット用トイレが置かれている」と主張した。
ファーリーは着ぐるみなどを身につけ、動物のキャラクターになるサブカルチャーのことだ。
ハンソン氏はトランスジェンダーの生徒が自認する性別のトイレを使うことに反対しており、質疑で「教育の中に押し付けがある」とも述べた。
ミッドランドの教育長は、ハンソン氏の主張を否定する声明を発表したが、その後も多くの保守派の政治家やコメンテーターなどが同様の主張をしている。
オハイオ州では2022年9月に、LGBTQ+の生徒の権利擁護に反対する決議案が提出された。この時、教育委員会のブレンダン・シーア氏が「自分をネコや犬だと思う子どもたちが、教室でペット用トイレを使っている」と述べた。
テネシー州でも9月に、共和党議員が「ヘビやネコだと自認する子どもたちのために、学校がペット用トイレを準備するようになったと聞いている」「危機的な状況」と公聴会でコメントした。
また、コロラド州では10月、共和党の連邦下院議員ローレン・ボーバード氏が、ファーリーの生徒がいると主張。「ネコを自認する生徒のために、学校にペット用トイレが置かれていると聞いた」「過激になっている証拠だ」と述べた。
政治家だけではない。コメディアンのジョー・ローガン氏は10月、「友人の妻が教師として働く学校で、ファーリーの生徒のためにネコ用トイレを置いている」と自身のポッドキャストで述べた。
こういった主張をする一方で、ローガン氏らはウォルターズ氏同様、学校名など具体的な詳細を説明していない。
この陰謀論の起源は明らかになっていないが、コロラド州の学校が2017年に求めた非常時の準備品の中に、ネコ用トイレの砂が含まれていたことがきっかけではないかという指摘もある。
虚偽情報が広がることに、LGBTQの活動家たちも懸念を示している。
ヒューマン・ライツ・キャンペーンは「このおかしな嘘は、トランスジェンダーやノンバイナリーの若者たちに関連した学校の規則を疑問視するためのものです。過激な政治家たちが繰り返していることは、彼らの臆病さとデマの力、プロパガンダを使ったLGBTQ+への攻撃を示している」と声明で批判している。
また、コロラド州のLGBTQ権利擁護団体「ワン・コロラド」のナディーン・ブリッジズ氏は「偽りをセンセーショナルに取り上げ、私たちのコミュニティ、特にトランスジェンダーやノンバイナリー、ジェンダー・エクスパンシブの若者を危険にさらしている」とNBCに語っている。