最近アメリカでは、災害が立て続けに起こっている。ハリケーンの後はラスベガス銃乱射事件...。
米国音楽療法学会の災害支援担当者が、被害を受けた音楽療法士のサポートにあたっている。彼女とは東日本大震災のときに知り合い、災害支援についていろいろ教えてもらった。
そのひとつが、「ピア・サポート」というものだ。ピア(peer)とは、仲間や同業者の意味。災害の影響を受けた音楽療法士に他の音楽療法士がついて、一対一でサポートを提供する。サポートの内容は主に心のケアで、スカイプを使って話を聞くことが中心となる。
東日本大震災が起こったとき、私はアメリカにいた。直接被害を受けたわけではないが、親戚一同が福島にいることもあり、ピア・サポートを受けた。私のサポートをしてくれたのは経験豊富な音楽療法士で、彼女とは何度かスカイプで話をした。
そのときの彼女のアドバイスは、今でも心に残っている。とても役に立ったので、拙著でも紹介した。
グリーフとは、想像以上に肉体的にも精神的にも疲れる過程なので、すぐにもとの生活に戻れないのは当たり前だ。何よりもセルフケア(自分を思いやること)を忘れないようにしてほしい。健康的な食事、充分な睡眠、適度な運動。この三つを心がけるのだ。
ー『死に逝く人は何を想うのか』
(グリーフとは、「深い悲しみ」や「悲嘆」を意味する言葉で、喪失を経験したときに起こる身体的・精神的変化を指す)
さて、このピア・サポートというのは、Caring for Caregivers (ケアギバーをケアする)という考えに基づいている。災害などが起こったとき、医療・福祉関係者は被害を受けた人たちのケアをする役割がある。でも、ケアをする人にもケアが必要だ。
欧米の飛行機に乗ると、必ず次のような機内放送がある。
緊急の際には、まず自分に酸素マスクをつけ、その後、周りの人を助けましょう
自分が呼吸困難になってしまっては、周りを助けることはできない。いいケアギバーになるためには、まず自分のケアが大切だ。
アメリカでは今回のハリケーンや銃乱射事件で、多くの人たちが心を痛めている。このような大きなハリーケーンがあっても温暖化を軽視する政府や、アメリカ史上最悪の銃乱射事件後も銃規制さえできない議員たちに、怒りを抱いている人も多い。
ひとりひとりにできることは少ないが、音楽療法士という立場でできることを考えたい。まずは、私がそうしてもらったように、サポートを必要としている仲間に手を差し伸べることができればと思う。
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(2017年10月5日「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)
佐藤由美子(さとう・ゆみこ)
ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院を卒業後、アメリカと日本のホスピスで音楽療法を実践。著書に『ラスト・ソング』『死に逝く人は何を想うのか』。