カナダ在住の女性「不安だが、経済的な心配はない」 そう感じる政府の"対応"とは?【新型コロナ】

「先行きが見えない不安はありますが、経済的な心配はしていません」。そう感じる背景には、国の制度や「“トップ”の姿勢」などがあるという。

新型コロナウイルスの感染が世界中に広がり、アメリカの感染者が66万人を超え、3万人以上が亡くなったことが報じられている。隣国のカナダでも感染者は3万人を超えており、1200人以上が亡くなった。(WHOの4月18日時点のまとめより

カナダ国内で最も多い、1万7000人以上の感染者が確認されているケベック州では、5月4日までは生活必需の業種をのぞいて活動の最小化が求められ、全てのビジネスは在宅勤務や電子商取引が推奨される形となっている(4月19日時点)。

同州のモントリオール市で移民コンサルタントとして働く上田由美さんは、カナダへの転勤者のサポートを手がけているが、国を超えた移動が止まっているため、仕事に影響が出ているという。

しかし上田さんは、「先行きが見えない不安はありますが、経済的な心配はしていません」と話す。上田さんがそう感じる背景には、国の制度や「“トップ”の姿勢」などがあるという。カナダの状況や、上田さんの考えを聞いた。

また、自宅でオンライン授業を受けている長男のイーサンさんにも、話を聞かせてもらった。体育もオンラインで行なっているという。

モントリオール、街の様子は?

上田由美さん
上田由美さん
上田由美さん提供

「私はもともと自宅が仕事場なのですが、投資銀行でソフトウェアエンジニアとして働く夫も3月上旬から自宅勤務になったので、今は夫婦ともに家で仕事をしています」

「飲食店のテイクアウトや薬局などは営業していますので、週に1回、夫婦で食材の買い出しに行っています。人との距離を保つために、スーパーによっては1家族1人しか入れない店もあります。外食が減り食事は健康的になりましたが、運動不足になるので、夫婦でオンラインでヨガのレッスンを受けています」

現在のモントリオールの旧市街の様子
現在のモントリオールの旧市街の様子
上田由美さん提供

 モントリオールは冬はマイナス20度にもなる寒さ。自宅にこもるこの状況を、「冬が長くなったね」と表現する地元の人もいるという。

オンライン授業。体育やテストも

息子のイーサンさんは、「セジェップ(CEGEP)」という大学準備教育のための応用科学課程(2年制)の1年目に通っている。セジェップも閉鎖されているが、オンラインで授業を受けることができるという。

利用しているというイーサンさんも、話を聞かせてくれた。

自宅で勉強するイーサンさん
自宅で勉強するイーサンさん
上田由美さん提供

 「オンラインシステムを使って授業を受けています。準備ができた教科から授業が始まっていて、今は英語やフランス語、数学など6教科の授業を受けています。1教科だけまだ始まっていません。先生による生配信で、クラスのみんなで参加しています」

体育の授業もあり、ダンスの基礎についてオンラインで学び、自宅で踊っているという。

「授業自体は1週間に10時間ぐらいで、宿題がたくさん出ています。先生とはオンラインのメッセージシステムを使ってやりとりしていて、そのシステムでクラスメートとの連絡もとれます」

一部、教材の変更やペースが遅れている授業はあるが、内容に大きな変化はないという。教室でのテストができないため、オンラインで参考書籍を見ながら回答してもよい形でテストが行われているという。

「学習の仕方が変わったことにストレスを感じますが、勉強が続けられているのは良かったです。自分にとっての課題は、 自宅だと時間のメリハリをつけづらいことです。両親とずっと一緒なのが少し気になる時はあるので、自分のことに集中するように心がけています」

上田さんも、子どもがオンラインで学習できているため「教育についての不安はない」という。

「息子は『学校に通えるようになったら陸上をしたり、アルバイトを探したりしたい』と話していて、先のことを前向きに考える時間にできているようです」


カナダの経済対策の内容は?

上田さんは2009年にカナダ政府公認移民コンサルタントの国家試験に合格し、法律事務所での勤務を経て、2016年に独立。転勤者用就労許可証と永住権申請を専門としている。その仕事にも、影響は出ている。

「教員をしているカナダの知人から『収入が25%減った』という話も聞きましたが、私自身も影響が出始めています。仕事の半分ぐらいが、企業の方のカナダへの転勤時の就労許可証に関する手続きなのですが、転勤の見通しが立たず、途中で止まっている案件が多くなっています」

「収入は3月までは影響はありませんでしたが、4月以降大きく落ちる可能性もあります。先行きが見えない不安はありますが、国や州の支援制度があるので、経済的な心配はしていません」

閑散とした通り(左)。通常24時間営業のベーグル店は短縮営業になっており、レジには飛沫を防ぐ目的の透明のプラスチックが貼ってあったという(右)=モントリオール
閑散とした通り(左)。通常24時間営業のベーグル店は短縮営業になっており、レジには飛沫を防ぐ目的の透明のプラスチックが貼ってあったという(右)=モントリオール
上田由美さん提供

カナダ政府の経済対策では、新型コロナウイルスの影響で収入を得られていない、もしくは収入が減った労働者に対し、4週間ごとに2000カナダドル(約15万円)を最大16週間給付するとしている。

この仕組みは、新型コロナウイルスに感染した人や、感染した人の世話のために仕事から離れている人、ケア施設が閉鎖され子どもを自宅で世話するために働くことのできない親らにも適用される

4月14日のyahoo! financeによると、新型コロナウイルスの影響が経済に出て以降、約600万人がこの制度もしくは雇用保険を申請したという。

カナダ政府のサイト。支援策が1ページにまとまっている。
カナダ政府のサイト。支援策が1ページにまとまっている。

そのほか、カナダ政府のサイトには個人や雇用主向けの支援策がまとまっており、例えば下記のような制度もある。サイトではチャットで質問ができるようにもなっている。

・収入が減った企業に対し、従業員の賃金の75%を補助(解雇を避ける対策)
・児童手当の増額
・女性と子どもを暴力から守るため、シェルターへの支援
・若者の心のケア
・奨学金返済の自動一時停止
・先住民の支援

上田さんは、政府の策の中で、高齢者への食料品や医薬品などの配達サービスを義理の両親のために利用しようと、手続きを進めているという。

 「市民の不安の声を、政府が聞こうとしているのが見てとれる」

住まいの前で会見をするトルドー首相=4月10日
住まいの前で会見をするトルドー首相=4月10日
ASSOCIATED PRESS

上田さんが「安心感」を感じるのは、国の“トップ”の姿勢も影響しているという。

カナダのトルドー首相は、妻ソフィーさんの新型コロナウイルスへの感染が3月12日に確認され、自宅から公務にあたってきた

「首相が毎日のように住まいの前で会見をするんですね。その様子を、公共放送CBCやYouTubeで見ることができます」

「子どもたちからの質問に、首相が公衆衛生の専門家と共に答える動画も配信されました。『夏前に学校に戻れる?』『もし親が感染したら、私たちはどうなるの?』といった質問に丁寧に答えているんです」

「政府と国民との繋がりを感じますし、『私たちはどうなるの?』という市民の不安の声を、政府が聞こうとしている姿勢が見てとれます。感染者数を抑えるのがまずは大事ですが、その次に『安心感』が大切だということを感じています」

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