「冷戦期においてカンボジアの人々は世界の中で最も苦しんだ人々でした。
人口の3分の1ほどの人々が、様々な形で殺害され、そして、飢餓に追い込まれ、犠牲になりました。
1991年10月23日、パリ和平協定が成立し、その精神は『民主主義と人権を尊重し、国の再建と発展を行うこと』です。
この精神は、過去のカンボジアに戻らないためのカギになります。
政治家たちが権力闘争のために暴力や戦争を利用することを防ぐことができます」
目の前の聴衆一人ひとりに語りかけるのは、人権状況を訴えるために設立されたカンボジアで最初のNGOである人権団体・カンボジア人権開発協会(ADHOC)創立者のトゥン・サライさん。
10月21日、カンボジアに関するシンポジウムが都内で開かれた。
サライ氏はポル・ポト政権の下、一定レベルの教育を受けていたという理由で投獄された。
そして、ポル・ポト政権崩壊後、新党結成時に反逆罪で逮捕されている。
生死をさまよったサライ氏は、その後、人権団体を立ち上げた。
北朝鮮の核問題やロヒンギャ難民の問題で陰に隠れがちだが、
カンボジアはここ数ヶ月で様々なメディアに取り上げられ、一気に話題になった。
最大野党党首の逮捕や解党、新聞社の閉鎖に政府が関与しているからである。
国連人権理事会では、アメリカ、日本なども強く関わり、カンボジア政府との交渉を行った。
サライ氏が強調したことがある。
「私は非党派的立場に立っている」
政権を批判しているだけではないということだ。
その上で、カンボジアの現在の問題を指摘する。
「パリ和平協定から25年以上が経ち、政府によって司法が強くコントロールされ、
軍隊も近く、行政も独立していません」
こうした状況が引き起こすものは、前述の通り、政権の思い通りに国を動かせるということであり、
逮捕されるはずの人間が逮捕されないということである。
世界の110カ国に拠点をもつ国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルは、2016年のレポートで、カンボジアの腐敗・汚職指数を167カ国中、156位・ASEAN地域では最も下位に位置づけている。
カンボジア自由公正選挙委員会(COMFREL)事務局長であり、
アジアのノーベル賞といわれる「マグサイサイ賞」を受賞しているコウル・パンニャー氏は
前回の選挙を評価しているものの、懸念を示している。
「日本政府やEUの支援を得て、2017年に行われた地方選挙は、有権者登録や投開票のプロセスにおいて、
以前より改善され透明性は高まりました。激しい暴力的活動も選挙期間中には報告されませんでした」
しかし、現在、カンボジアで次々と起きている出来事は、複数政党制を基本とする自由な民主主義を麻痺させ、2018年の総選挙を危うくしています」
現在、カンボジアの状況は「絶望」といえるかもしれない。
「民主主義の敗北」である。
野党の国会議員が逮捕を恐れ、多数が国外に逃れ、国に戻ることはできない。
その間に、政権与党は、野党の解党を決定する法案を通すつもりだ。
これで一党独裁の出来上がりである。
「野党側の人々だけでなく、支配している与党側の人間にも恐怖の雰囲気に支配されている。
もし選挙で敗北したときに、仕返しを受ける恐怖だ」
今後も国際社会、そして私たちは監視を続けていく必要があるだろう。
これまでの25年間、カンボジアのために費やした多くの時間とお金などの資源を無駄にしないためにも。
【追記 2017/10/27 15:42 文末のクレジットを削除しました】