コーポレートガバナンスの実務に関して、企業、投資家は共に「取締役会評価」を課題に挙げており、企業の現場では新たな取組みとして試行錯誤が続いている(*1)。
取締役会評価が対象とするのは「取締役会全体の実効性」である(*2)。取締役会の実効性はコーポレートガバナンスの実体という点で重要だが、企業と投資家では課題意識が異なっている(図表1)。
企業は実効性向上策として取締役会の運営面に重きを置く一方、投資家は「社外役員の充実」、「取締役会全体の経験や専門性のバランス」といった取締役会の構成面に課題を感じている。
コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」)は、「実効性確保のための前提条件」として次のように示す。
「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである」(*3)。
ただ、企業としても、本来まずチーム編成ありきと分かってはいても、多分にトップマターであるその時々の取締役会メンバーを所与として、とにかく運営面では最善を尽くそうという姿勢なのかもしれない。
いずれにしても、取締役会の実効性を高めるには構成と運営の両面に亘る改善が求められるだろう。
では、実際に企業は取締役会の構成を、今後どのようにすべきと考えているのだろうか(図表2)。
経済産業省のアンケートによれば、社外取締役の比率を高める(執行と監督のバランス最適化等)ほか、更に多様性の拡充に注力していく意向も見られる。
その一方で、今後の方針が明確でないほか、実効性を高める方向に進むとは期待しがたい企業が半数にのぼるようである(*4)。コーポレートガバナンスに臨む姿勢として、企業の実態に近いという印象も受ける。
たしかに取締役会の在り方は各社の状況に応じて多様であり、それに応じて例えば社外取締役の選任の要否、期待する役割、割合などを含めた最適な構成は異なる。だからこそ、このテーマも自社のあるべき取締役会を考えることに行き着く(*5)。
ただその前段として、取締役会を実態として真に議論する場とするかどうかは会社内部においては実質的にトップが決めているので(それがアンケート結果に反映しているという見方もできる)、内部ボトムアップでは、あるべき構成の掘り下げた検討にまで至らないという場合も想定される。
もっとも、最近では社外取締役の員数増加によって、取締役会が真に議論する場に変容し始めているという指摘もある(*6)。真面目な社外取締役が反対意見や修正意見を述べることが増えている結果、取締役会という場の性質を変えつつあるようだ。
しかし、やはり会社内部だけでは限界があるとすれば、外部ステークホルダーの中で、取締役会構成に課題意識の高い株主・投資家の後押しという所に戻ってくる。
例えば、複数の日本の機関投資家から、会社の戦略にフィットした同業他社の好事例等の知見がもたらされれば、会社側が取締役会構成について改めて検討する契機となり得る。
取締役会の構成を含めた実効性も、スチュワードシップ責任の履行として投資家側の課題であるとも言えるのである。
(*1) 拙稿「取締役会評価についての一考察」(2017年4月)
(*2) コーポレートガバナンス・コード原則4-11後段
(*3) コーポレートガバナンス・コード原則4-11前段
(*4) アンケートの「特になし」と「わからない」に重複は少ないと推測されるが、「特になし」には構成が現時点で最適と考える企業も含まれるだろう。
(*5) 注1に同じ
(*6) 中村直人「取締役会改革」中央経済社(2016年12月)P.30~31
関連レポート
(2017年8月31日「基礎研レター」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員