白人が国民の過半数を占めるイギリスでは、医療研修や保健の教科書、診察室のポスターなどで、病状や体の部位を表す際、白人がモデルになっていることが多い。
これらのイメージの多くは時代遅れで、多くの人にとっては馴染みにくいもの。そんな中、ある1人の医学生が、この問題に立ち向かった。
ナイジェリアのエボニ出身のChidiebere Sunday Ibe氏(25歳)は、黒人の患者や子ども、赤ちゃんのイラストを描き始めた。最近、彼が描いた黒人の胎児と母親の絵が、TwitterやTikTokで話題になり、何十万回の再生数や「いいね」を集めた。
このイラストは、明らかに人々の心を捉えた。普段見る医療イメージに自分の肌の色が反映されていない人々にとっては、特に響いたようだ。
脳神経外科医を目指すIbe氏は、それぞれの症状が、黒人にとってどう表れるのかを示し、私たちの体の多様性を認識してほしいという。
一部の人は、黒人の胎児を見るのは初めてだと言い、もっとこうした表現を増やしてほしいという声が多く寄せられた。
今回のイラストについてIbe氏は、「このイラストは、他の絵と同様に制作したもので、話題になるとは思いませんでした。これらの目的は、私が情熱を持って取り組んでいる、医療における公平性について語り続けることと、黒人の美しさを示すことでした」とハフポストUK版に語った。
「この絵が話題になってとても嬉しいです。予想もしていませんでしたが、このメッセージが広まり、現状に疑問を投げかけることができて良かったです」
Ibe氏は、こうした絵はもっと必要で、それを制作する人々も多く要すると話す。「それによって、こうしたイラストがもっと受け入れられていくでしょう」
医療機関で働く黒人の人々にとって、この絵は大きな意味を持った。それは、自らの人種が医療業界において表現された喜びだけではない。ロンドンに住む27歳の看護師、Rebekah Agboolaさんは、絵を二度見してしまったという。
「イラストはとても衝撃的でした。...この様なイラストで、黒人の赤ちゃんが描かれているのを今まで見たことがなかったので、思わず二度見してしまいました。シンプルな医療イラストで、驚くべきではないのです。でも約10年ほどこの業界にいて医療イラストを見てきた中で、黒人や褐色の人のイラストを見ることは通常なく、皮膚疾患に関するもので稀に見るくらいでした」とハフポストUK版に語った。
Agboolaさんは、このようなイラストは単なる表現にとどまらず、人々の健康や幸福にポジティブな影響を与えるものだという。
「より幅広い表現をすることは、患者さんたちの治療を大きく改善するために重要なことです」
2020年8月、ハフポストUK版で、イギリスの黒人女性のためのライフスタイルプラットフォーム、Black Balladの黒人女性たちが、妊娠中に受けた差別やマイクロアグレッション、標準未満のケアについて発言し、同じくBlack Ballardが実施した大規模な母親調査の結果に新たな光を当てた。
「日常的に、黒人やその他のマイノリティの患者は、初期症状の表れ方によって同等のケアを受けられないことがあります。私たちの症状は時に異なった見え方をし、医師は注意して診察する必要があるということが明らかになれば、こういった問題を減らすことができるでしょう」とAgboolaさんは話す。
「このイラストは衝撃的でしたが、とても嬉しかったし、もっと見たいと思います」
Ibe氏のイラストが発表されて以降、イギリス助産師協会(Royal College of Midwives)は、多様性に向けた取り組みを強化すると表明した。
同協会のRace Matters(人種は大切)プログラムを率いるJane Bekoeさんは、「世界は、そこに住むすべての人々を正確に反映することが重要であり、人種のポジティブな表現は、私たちの生活や社会などあらゆる面で重要です。これは、医療現場における黒人や人種的マイノリティの描写にもあてはまります。この様なイラストは、すべての人にとって真の平等に向けたポジティブで重要な一歩となります」と話した。
ハフポストUK版の記事を、翻訳・編集・加筆しました。