酷い話だ、怒りをおぼえる、って感情で自分をごまかしてはいけない。
2017年秋。大阪府立高校3年の女子生徒が、生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう教諭らから何度も強要され、精神的な苦痛を受けたとして訴訟を起こした、というニュースが大きな話題になってからしばらく。
僕にも「あの件についてどう思いますか?」という質問が来たりして、う~んと、じっくり考えていたんだけれど。
まず、生まれつき髪の毛も肌も真っ白なアルビノの日本人として、34年も生きてきた僕に向けられた「どう思いますか?」の言葉が、どうにも釈然としなかった。
その言葉には「当然、怒ってるよね?」と決めつけた感情が込められていて...、そんな単純なことなのかなあ?と、違和感を持っていたから。
パッと入ってくる情報では、この学校(と大阪府)のしたことを問題として追求するべき、と見えてしまうけれど。
多分、本当は...「なぜこうなったのか?」だと、思う。
報じられた内容によると、当事者生徒の母親は入学時、生まれつき髪の毛(地毛)が茶色いことを学校側に説明した。
けれど学校側は特に聞き入れることなく、染髪や脱色を禁じる【生徒心得】を理由に、黒く染めるよう指導。「生来的に金髪の外国人留学生でも、規則では黒染めをさせることになる」とも述べたという。
校則には頭髪の規定がないが、入学時に配る「生徒心得」には『パーマ、染髪、脱色は禁止する』と記載しているから、と。
...馬鹿みたいな小話かよ~。
染髪、脱色を禁じているのなら「地毛を黒く染髪しろ」とは(笑)。
関西ならではのわかりやすいボケで、ツッコミ待ちなのかとすら思えてしまう。
そう言えばどこかで聞いた話。アルビノの人が食品関係のアルバイトをしようとしたところ「衛生面の問題で、染髪、脱色は禁止しているから、髪の毛を黒く染めてください」と言われたとか。
衛生面の問題で禁止してるなら、黒く染髪する方が問題だろうに!わっはっは!
...笑っている場合じゃないのかなあ。
ともあれ。
入学時に「地毛が黒色ではないこと」を説明したが、聞き入れなかった学校。
ほとんど"入学の条件"のように黒く染めることを指導されたわけだけれど...。
その段階で、当事者生徒とその母親は、なぜ「それを承知で入学する」という選択をしたのか。
地元の府立高校だからかなあ。学力的なこともあったのかなあ。金銭面ということも、考えられなくもないけれど...。
当事者生徒は中学生時代から、学校行事の際などには髪を黒く染めるなどしていた(させられていた?)らしい。
それが苦痛だったこともあり、高校では理解してもらえたら...と、説明に赴いたんだろう。
にも関わらず、むしろもっと強要する姿勢を入学時から示していたこんな高校には入るのをやめて、別の学校や通信制などを選択することはできなかったんだろうか。
そして、仕方なく?黒染めの指導に応じて通学していたけれど、色が戻る(髪が生え伸びる)たびに染め直しを強要され、修学旅行への参加も認められなかった。
結果、耐えられなくなって「黒染めで頭皮や頭髪に健康被害が生じた。身体的特徴を否定され精神的苦痛も受けた」との内容で損害賠償の訴訟を起こすことになった。
考えること、変えること、選択することは、しなかったのか、できなかったのか。
近ごろは、東京都立高校の一部でも「地毛証明書」の提出をさせている学校がある、という件が話題に挙がったりもしている。
訴訟を起こした女子生徒の母親は入学時、「地毛登録制度があるなら申請したい」と訴えたが、その高校は導入していなかった、とのこと。
考えたらどうだったのか。
どうしたら、生徒と学校がバランス良くやっていけるのかを。
なぜ、当学校では脱色や染髪を禁止しているのかを。
変えられないようなことだったのか。
脱色、染色していない地毛なのだから、問題ないだろう、と。
これを機に、地毛登録制度を導入しよう、とか。
もしくは、パーマ、染髪、脱色を...ではなく"黒髪ストレート以外を認めず"と、文言の方の正確性を上げてはどうなのか(もっと人権的にヤバいだろうけど)。
そして、なぜ選択をしたのか、しなかったのか。
その学校に、そうまでして(黒染め強要に応じて)入るしかなかったのか。
他の学校へ行くという選択ができない街、なのだとしたら、その街(行政)に大いに改善点があるのかな。
毎日新聞が大阪府立高校を対象に実施したアンケートでは、回答した学校の約6割が、地毛の色を届け出る「地毛登録制度」を導入しているらしい。
地毛登録制度の施行の理由としては概ね、学校側が髪の染色や脱色などを禁止していて、地毛の生徒に誤って指導するのを防ぐ目的なのだとか。
...え、これだけ見たら、良い制度じゃん。
「日本人なら全員、黒髪が普通であり、黒髪でなければならない」なんていう偏りではなく、生まれつき黒髪ではない日本人もいることを理解した上で「地毛が黒髪ではないことを証明(登録)」して、誤った指導をしないようにする。
ある意味では、いまもなお残る「黒髪じゃないから不良」という考え方が変わりつつあることを認識しているからこそ、中身のない「黒髪にしろ」という指導が誤りだから、それを防ぐための学校側の自治のような施策。
それを考えたら、良いじゃん、と思うけど。
なぜ染髪、脱色を禁止しているのかについて、学校側が掲げる大義のほとんどは、
●将来(進学・就職など)社会で評価される際にも髪の色が重要視されるのだから
●(黒くない髪色の生徒が多いと)風紀が乱れているように見られ(自校の)印象が悪い
...と。
つまりは「世の中がそうだから」みたいな「見られ方」を気にしている。
社会が望む「ちゃんとした学校」が、こうなのだと思い込んで揺るがない。
...で、実際にそうなんだろうね。
学校で言えば、地域住民に「この生徒は地毛ですから」と説明して回るわけにはいかない。けれどウルサイ人間が「あの学校の生徒は(髪の色が黒くないから)不良だ」とか言い出して、学校の評価が下がってしまっては困る。
会社で言えば、取引先に「この社員は地毛なので」と、いちいち説明するわけにもいかない。けれどウルサイ人間が「あの会社の営業は(髪の色が黒くないから)駄目だ」とか言い出して、会社の評価が下がってしまっては困る。
紐解いていけば、ほとんどの人が、組織が、ひとからの見られ方に、縛られ振り回されているんじゃないの。
だ~れも、自分らしい信念なんか無くて、自分らしい生き方なんてわかってなくて。
「自分は気にしないけどね、みんながそう言うからさ...」
そんなあやふやな根拠で、こじれた社会で、生きているんじゃないの。
だから今回、その高校(と大阪府)が「何をしでかしたか」「誰が悪者か」というような考え方に違和感アリアリで。
「粕谷さん、どう思いますか?」「許せませんよね?怒ってますよね?」みたいな聞かれ方が、釈然としなかった。
なぜ、こうなったのか?
社会を形作るすべての個人が、人をどう見ているのか、どこで評価しているのか。
その結果が、どう見られているのか、評価されているのかなんだと気付いてさ。
棚上げしないで、自分自身と向き合ってみないと、こんな社会を変えていけないと思うんだよねえ。