ソフトウエア開発会社「サイボウズ」の社長らが「夫婦別姓」を求める裁判を起こすことがわかり、大きな話題となっている。青野慶久社長(46)は2001年に結婚し、妻の氏を名乗ることにしたが、実際に変えてみるとさまざまな不便さを痛感したという。
ただ、夫婦同姓を定めた民法750条は、2015年末に最高裁で「合憲」とされたばかり。そこを突破する「何か」はあるのか。
今回の裁判で、社長らの代理人をつとめるのは、作花知志弁護士。2015年末、夫婦別姓の最高裁判決と同じ日にあった「再婚禁止期間」の裁判で、違憲判決を勝ち取った弁護士だ。
作花弁護士は今回、どんな主張で裁判所を説得するつもりなのかーー。くわしく話を聞いた。
前回の裁判との違いは?
「前回の裁判で、弁護団が主張したのは、おおまかにいうと『民法750条が憲法違反だ』という内容でした」
民法750条には、こう書いてある。
「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」
つまり、夫婦は同じ氏にしなければならない、というルール。「夫婦別姓を選べない」のは、世界的には少数派だが......。
前回、最高裁はこのルールを「合憲」と判断した(15人中5人は反対)。そして、夫婦別姓を選べる制度をつくるかどうかは、国会で議論すべきだとした。
作花弁護士は分析する。
「現実を見ると、96%のケースで、女性側が氏を変えています。しかし、夫婦が話し合いでどちらかに決めるというルールは、形式的には男女平等です。これが『夫の氏に合わせなさい』というルールであれば、違憲判断が出ていたと思いますが......」
「もうひとつ。750条を違憲無効にすると、たとえば、子どもの氏はどうするのか、新たにルールを決めなければいけません」
750条を無効にした場合、子どもの氏をどうするかも、新たに議論をして決めなくてはならなくなる。
最高裁の判断が出たばかりなのに、どうしてまた裁判を?
「わたしも、そう簡単に判断が変わるとは思っていませんでしたが、依頼者の熱意に動かされて、色々と調べることにしました。そして、民法や戸籍法のルールを調べていくうち、ある発見がありました」
「離婚した場合、民法上は結婚前の氏に戻ります。ところが、戸籍法上の届け出を離婚後3カ月以内にすれば、結婚をしていたときの氏を『称することができる』というルールがあるんですね」
「つまり民法上は、旧氏に戻っている。でも、戸籍法上の届け出をすれば、結婚していたときの氏を称する=名乗ることができる。つまり、『民法上の氏』と、『戸籍法上の氏』が別でもいいんです」
外国人と結婚した場合
「また、日本人と外国人が結婚したときは、外国人には戸籍がないので、『原則別姓』となります。しかし、戸籍法上の届け出をすれば、外国の氏を「称する」ことができます。離婚時に元に戻すこともできます」
図にまとめると、こうなる。
この4つのケースで、夫婦別姓にできないのは「(1)日本人同士が結婚するとき」だけだ。
「このルールに合理性はあるのか」 作花弁護士はルールを調べていくうち、そう考えるようになったという。
「いまは、離婚したとき、元の氏に戻る人が6割、届け出て結婚時の氏を名乗る人が4割います。でも、社会的な混乱は起きていません。誰もおかしいとも思っていない」
「外国人と結婚した場合も、どちらかの姓を名乗ることも、夫婦別姓でいくことも、自由自在です。ところが日本人同士が結婚した場合だけ『ダメ』。どうしてなのか」
前回の裁判でも、「旧姓を通称として使えばいい」という議論があった。しかし、通称が使える場面ばかりとは限らない。その後も、高校教諭の通称使用を認めない判決が出たりしている。実際問題、法的根拠がない「通称」を使っている場合、いざ公的な書類で本人確認という際に、手間取ったりする。
「やはり、通称で十分とは言い切れない」と、作花弁護士は話す。
今回の主張
今回、作花弁護士は「民法750条が違憲だ」ではなく、「あるべき法律がないことが、憲法違反じゃないの?」という主張をするつもりだ。
結婚についての法律は、「個人の尊厳と両性の本質的平等」にもとづいて作らないといけない。これは憲法24条で決まっている。法の下の平等を定めた憲法14条もある。
日本人同士が離婚した場合、外国人と結婚・離婚した場合には、名乗る氏を選べる。しかし、日本人同士が結婚したときだけは選べない。
「本来なら、日本人同士が結婚したときにも、名乗る氏を選べるようなルールが存在あるべきだ」「そうしたルールを作らなかったことは、憲法違反ではないか?」
これが、作花弁護士の考え方だ。
「この主張のほうが、裁判所は違憲判決を出しやすい」と作花さんは言う。ルール変更の混乱が少ないからだ。
「子どもは『民法上の氏』になるので、混乱はありません。結婚前の氏を『名乗りたい』人だけが届け出ればいい」
このアイデアを思いついたとき、裁判所に挑む意思が固まった。
岡山と東京で合わせて4人が裁判へ
まず、もともと作花弁護士のもとに相談してきた岡山の事実婚カップル2人が裁判を起こすことが決まった。そのことがニュースで報道されると、さらに「私も裁判をしてもいい」という人が表れた。そのうちの一人が、サイボウズの青野社長だった。
青野社長は、ハフポスト日本版の取材に対し次のようにコメントした。
「同姓にしたい人は同姓にすればいいし、別姓にしたい人は別姓にすればいい。そんな当たり前ができる社会になればと思います」
注目の裁判は、岡山地裁で来年1月以降に始める予定。青野さんを含む首都圏の2人は、その後しばらくしてから東京地裁に提訴する予定だという。