ベッキーは"第2章の人生"を歩んでいる。「私は、小さなプライドやこだわりを捨てた」

シリコンバレーを訪ねた彼女が見たもの、聞いたもの。

華奢で白い背中は、強さの表れだったのだろうか。

宝島社広告「あたらしい服を、さがそう」日本経済新聞
宝島社広告「あたらしい服を、さがそう」日本経済新聞
宝島社

2016年9月の木曜日、日経新聞の朝刊に載った宝島社の広告。トレードマークだった長くてまっすぐな髪の毛はそこにはなく、短く切られた新しいヘアスタイルのベッキーがたたずんでいた。

当時の彼女はしばらく芸能界を休んでいた。

「髪を短く切るのはどうですか?その方がメッセージ性もあると思うので・・・」

ベッキーが自分から提案したのだという。

この広告から1年半。

ベッキーは、今の自分の人生を「第2章」と呼んでいる。

それまでやったことのなかった時代劇やファッションブランドとのコラボに挑戦。昔の「明るく元気なタレント」のイメージは大きく変わりつつある。

4月には、プライベートでアメリカ・シリコンバレーを旅して、Google、Facebookなど、多くのIT企業の"自由な働き方"を学んできた。

34歳の女性として、どんな気持ちで毎日を送っているのだろうか。ベッキーに60分間、話を聞いた。

Eriko Kaji

新しい扉をあける

ーーIT関連のベンチャー企業や起業家が集まるシリコンバレー。会社の社長やエンジニアの人が興味を持つような場所に、どうして行ったのですか。

私にとってシリコンバレーは、小学校の社会の教科書で何となく習った場所というだけで、正直ずっと興味がない場所でした。

でも、LINEやメルカリのCMに出させていただくなど、最近ネット系の会社の方々とお仕事をすることが増えたんですけど、皆さんが口を揃えて「シリコンバレーに行った方がいい、見た方がいい」っておっしゃるんです。

仕事のやり方の概念が変わる、オフィスなど働く場所の捉え方が変わるって。

私は会社を経営するつもりはないので、自分には関係ないと思っていたんですけど、2018年はもう、そういうの関係なく、とにかく新しい世界を見たいと思っているので。「よし今だ!」ということで行ってきました。

写真撮影は、静かな雰囲気で淡々と進んだ。
写真撮影は、静かな雰囲気で淡々と進んだ。
Eriko Kaji

ーーそんなに日本と違いましたか。

少しの滞在だったので、私の個人的な印象ですけど、シリコンバレーの人たちは、一人ひとりが自分の仕事や人生を「デザイン」してるんだなぁってのを感じましたね。

日本だったら午前9時にオフィスに行って午後5時に帰る、という風に決められたルールに人が合わせていくって感じが多いと思うんです。でもシリコンバレーでは、それぞれの人が自分のルールを設計していた。

普通に会議みたいに話していた人がいきなり「子どものお迎えがあるからっ」って急に帰ったり。もちろん「ごめんね、ママは仕事があるからお迎えに行けないの」と言うのもカッコいい女性だとは思いますが、そういうのは新鮮でした。

何時に出社して、これぐらいの時間に帰って、夕食はこうして、子どもとはこんなふうに時間を作って、と言うふうに、自分の人生を自分で決めている。それがすごくいいな、と思いました。

シリコンバレーで働く人たちの「働き方」に勇気をもらったという(LOGSTAR提供)
シリコンバレーで働く人たちの「働き方」に勇気をもらったという(LOGSTAR提供)

ーーベッキーさんは14歳から芸能界に入り、「テレビ」という普通の人と違う世界で生きてきました。ベッキーさんの働き方も変わりそうですか。

私はこれまで、仕事が充実していることが、自分の人生の充実だったんです。でも、仕事が減ったり、長いお休みがあったりして、「仕事の充実が全てじゃない。まず自分の人生の充実が大事で、その喜びが仕事に反映されるんだ」ということがわかりました。

昔はオフがあるのがイヤで、仕事が入らないと焦ったりしていたけど、今は違います。オフの間にプライベートの人生を輝かせて、楽しい気持ちで仕事に向かえたら最高だねって思うようになったんです。

そういう意味では、今の自分は、シリコンバレーの人たちの考え方とリンクする部分が大いにありましたね。

Google社を訪問(LOGSTAR提供)
Google社を訪問(LOGSTAR提供)

「ある程度の擦り傷は大丈夫」

ーーNetflix、Google、AppleなどのIT企業を訪問し、さらにシリコンバレーの日本人向け情報サイト「LOGSTAR」のイベントに参加し、日本のビジネスパーソンとも話したそうですね。

現地に住んでいる日本人の方たちと話してすごく勉強になったのは、「こっちの人は何でも、いきなりお試しでやっちゃうんですよ」という言葉ですね。

何かの商品を作るときも、会議室の中でみんなで試作品を何回も何回も試して世に出す、というスタイルじゃなくて、「何かできた!とりあえず街に置いちゃえ!とりあえずGO!」という感じなんだという話は衝撃を受けましたね。

だから法律や街のルールが追いついていないのかもしれませんね。とりあえず実験、実践という感じがすごく面白い。日本は石橋叩いて叩いて叩いて渡る。渡る前に崩れたりもするという感じだから。ビジネスに詳しくない私でも学びが多かったです。

HuffPost Japan

ーーベッキーさんも、今はなんでもやってみる、という心境ですか?

そうですね。「どうかな〜、うまくいくかな〜」って思う時間があるんだったら一回やっちゃおうよ、という感じ。

その扉を開けてみて失敗だったら、それはそれで勉強じゃん、って思います。

今の時代、言われたことを、ただこなすのが芸能人じゃないと思いますしね。頂いた仕事を、ちゃんと自分なりにデザインできる人でありたい。

もちろん大失敗はしたくないけど、ある程度の擦り傷ぐらいは、痛みを知っていくためにはいいかなって思います。

痛みを知らないと、成長できないし。小さな子どもも、転ぶ前に親が助けるより、転んではじめて「転ぶと、痛いんだ」って自分で気をつけるようになる方が成長しますよね。

スティーブ・ジョブズと2ショット(LOGSTAR提供)
スティーブ・ジョブズと2ショット(LOGSTAR提供)

今はとにかく、新しい自分を生きたい。

ーーいまの生き方を「第2章」と表現されているそうですね。ベッキーさん自身が「とりあえず、やってみている」ことはありますか。

今はとにかく、これまでにはなかった新しい自分を生きたいと思っています。今まで作っていたルールを、あえて壊して生きています。新しい顔を見せたいって思うんです。

昔は「黒の衣装は絶対着ない」って言ってたけど、そういうのもやめました。

今、ファッションのお仕事もたくさんやらせていただいていますが、前は決まったメイクさん、決まったスタイリストさん、決まったベッキーメイクしかしないって決めていたんですけど、今は、新しい人に新しい私を作ってもらうようにしています。

自分でも毎回ハッとするし、楽しいですね。

決して前の自分を否定しているわけではないんです。

前は、いつ行っても味の変わらない食堂の「ベッキー定食」という感じ。

今は「シェフの気まぐれサラダ」っていう感じですね(笑)。

短い間に、表情を何度も変えて写真撮影にのぞんだ。
短い間に、表情を何度も変えて写真撮影にのぞんだ。
Eriko Kaji

ーー「第2章」って、言葉で説明すると...?

誤解を生みそうだから、言わない。自分の中にははっきりタイトルあるけど、それはみなさんに決めてもらおうという気持ちでいます。

今はとにかく、前とは違った自分を生きたい。新しい顔を見せたりとか、今まで作ってたルールを守らず生きてる。黒の衣装は着ないって言ってたけどそういうの辞めたり。あえて壊していってる感じですね。

ーーすごく楽しそうですね。

楽しいです。チャレンジしてますしね。

「1個プライドを捨て、1個こだわりを外す」

ーー私もベッキーさんと同じ30代女性ですが、ベッキーさんのように休養期間というものがなかったとしても、この世代の女性は、自分なりの「第2章」に踏み出したいタイミングだと思います。

そうだと思います。「絶対ヤダ」とか「絶対無理」と思っていたことに挑戦すると、真逆の世界が待ってて面白いよって思いますね。

「1個小さなプライド捨てたり、1個小さなこだわりを外したりすると良いよ!」って思います。それだけで見える世界が全然違う。

例えば私は今年、シリコンバレーに行く前に、生まれて初めてひとり旅に行きました。

旅行って、誰かと感想や思い出をシェアするのが楽しいですよね。だから「ひとり旅なんてあり得ない、一生やらない」って思ってたんですけどね。2018年はチャレンジの年なので、そのこだわりを外して行ってみた。

ひとり旅って「ひとりぼっち」なんだと思ってたけど、「ひとり占め」でしたね。周りの風景も食べる料理も。全部、自分で、自分の時間をデザインできる。そしたら、想像と真逆の世界が見えたんです。

自分で、航空会社に電話して、予約して。帰国する次の日が映画の撮影だったので、万一の場合を考えて飛行機が1本遅れても良いようなスケジュールを組んで。(テレビ番組の)ロケだとコーディネーターさんがやることを全部自分でやりました。

この仕事って、誰かがやってくれることが多いんです。もちろんありがたいんですけど、「それに甘えるなよ」って思ってます。

やっぱり芸能界にいると調子乗っちゃうんですよ。みんな、絶対褒めてくれるから(笑)。撮影とかしていても「かわいい〜」って言ってくれます。

そういうのに甘えちゃいけないなって自分に言い聞かせていますね。芸能人としての人生もあるけど、いち女性としてちゃんと生きられるか。いつも自分に問うてます。

ひょっとしたら母親になるかもしれないし、この仕事とは違う日常生活を送ることもあるかもしれないですしね。だから、昔からプライベートなことは自分でやるようにしてきました。

楽しいですよ。計画通りにものごとが進めば、自分で自分を褒めることもできるのもすごくいい。

ーー自分で自分を褒める?

ハプニングが起こった時に回避できると「すごい、あたし回避できたじゃん」って思うし、旅行代理店を使わずに、ひとりで全部の予約をとったのも「成功できたじゃん」とか。

自分を褒める時間って、すごく大事です。頑張ってる女性って自分を褒める時間がないんですよ。「今回ここがダメだったな私」って、自分へのダメ出しばっかりだから。

ひとり旅は、自分で自分を褒める時間ができて悪くないなって思いました。

筆者が「私も働きすぎちゃう人間なんで...」とこぼすと「わかる。前の私を見てるみたい」と応じた。
筆者が「私も働きすぎちゃう人間なんで...」とこぼすと「わかる。前の私を見てるみたい」と応じた。
eriko Kaji

こっちの扉が閉まれば、別の扉が開く

ーーそれでも、プライドやこだわりを捨てるのはなかなか難しいですよね。特にベッキーさんのように「働き方」を変えるのは、精神的ハードルがすごく高いです。

私はお休みしていたというのもありますしね。仕事の方にばかり向いていた目を、プライベートの方に向けてみたら、気づいていない素敵なことがいっぱいあったんです。

休んでいた時、苦手だった料理や掃除を勉強したら、次々に自分の中から目標が湧き上がってきました。自分を成長させる機会は、プライベートにもたくさん転がってた。仕事だけじゃなかった。

毎日の生活の中で、「仕事を充実させないと」という気持ちの比重を減らすことが怖いって思う人もいると思うし、私も実際そうでした。でも、減らしても人生どうにかなります。それで周りの人が「あいつダメになったな」って言っても、誰かは見てる。

こっちの扉が閉まれば、別の扉が開くから。絶対大丈夫です。

取材中、何度も「扉」という言葉を使った。
取材中、何度も「扉」という言葉を使った。
Eriko Kaji

ーー仕事への考え方が変わったことで、人生は楽しくなりましたか?

さらに楽しくなりましたね。呼吸しやすくなりました。今までとは違った楽しさがあります。

一番大切なのは、私の心が健康であること。その前提で、お仕事を楽しんでいる私をみんなに受け入れてもらえるというのが大事だと思っています。

そんな風に自分の時間と付き合うこと、自分の人生をデザインすること。それが私のこれからの生き方なんだと思います。

旅やお休みを通して、「アタラシイ時間」を見つけ、第2章を歩み始めたベッキー。

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