小さく生まれた赤ちゃんのことを知ってほしい。「世界早産児デー」に写真展開催へ クラウドファンディングで支援募る

「すべてが想定外のこと。考える暇もなく、事実を受け入れるとか、そんな余裕はありませんでした」
Asahi

 国内での早産は全妊娠の約5%、20人に1人程度の割合と言われている。小学校に当てはめれば、1クラスに1~2人いることになるが、当事者でなければ、なかなか知る機会は少ない。そこで、早産について知ってもらおうと、11月17日の「世界早産児デー」にあわせ、小さく生まれた子どもたちの写真展が広島で開かれる。企画しているのは早産を経験した母親らの交流サークル「しずくの木」で、クラウドファンディングで支援を募っている。

「出産って十月十日なんて言いますが、問題なく普通に生まれてくることばかりじゃなく、奇跡の連続で赤ちゃんは元気に生まれてくるんですよね」

 こう話すのは「しずくの木」主宰の漆畑希望さんだ。

 漆畑さんは次男を産むときに早産を経験した。妊娠27週まで順調だったが、急に出血して入院となり、28週で出産した。正産期とされるのは37~42週で、そのタイミングより10週近く早い。

 出生時の体重は1128gだった。2500g未満は「低出生体重児」と分類されるが、その中でも小さい「極低出生体重児」(1500g未満)で、産まれてすぐNICU(新生児集中治療室)に入らなくてはならなかった。

「すべてが想定外のこと。考える暇もなく、事実を受け入れるとか、そんな余裕はありませんでした」

 3カ月間を過ごした未熟児センターでは、たくさんの赤ちゃんたちが頑張って生きていた。中には1000gに満たない身体で生まれた子もいたという。

Asahi

「たくさんの赤ちゃんが入院しているのですが、その家族同士が話をするような雰囲気ではないんです。ほとんどのママさんは毎日赤ちゃんに面会に行きながら、とても孤独を感じているんですよね。早く産んでしまったこと、小さく産んでしまったことが申し訳なくて、涙が止まらない。それなのに、それを相談できる相手がいない。私はそこが一番つらかったんです」

 同じ境遇の人同士が、気軽に話ができる場所をつくりたい――そんな思いを抱いて、漆畑さんは昨年、「しずくの木」を立ち上げた。発足して1年あまりだが、月1回開く交流会には、病院に置いたチラシやSNSなどで開催を知った早産児・低出生体重児の母親がたくさん集まってくるという。

「多くの人は普通に妊娠して、普通に生まれてくるのが当たり前だと思っています。思いがけず、早い出産になるということがどういうことなのか、やっぱり経験した人にしかわからないものかもしれません。お母さんたちは、子供に申し訳ないという気持ちで苦しむだけではありません。様々な発育・発達・病気の不安を抱えての育児ですし、自分自身の体調の問題もあります。毎日車椅子でNICUに通うお母さんもいらっしゃいました。そういう辛さを共有する場所もなく、孤独を感じながら、身体的にも精神的にも辛い日々を過ごしているのです」

手術後、呼吸が戻らない早産児とその母親。笑顔の裏側には、不安や心配がいっぱい詰まっている
手術後、呼吸が戻らない早産児とその母親。笑顔の裏側には、不安や心配がいっぱい詰まっている
Asahi

 「しずくの木」に参加した人たちからは、「癒やされた」「心強かった」という声の一方、「もっと情報がほしい」という要望もあがったという。

「『妊娠中にもっと早産のリスクについて知っておきたかった』と皆さんおっしゃいます。赤ちゃん学級でも教えてくださるわけではないですし。『しずくの木』は早産児ちゃんや低出生体重児ちゃんのママの交流サークルですが、早く小さく生まれた赤ちゃんのこと、その子を育てているお母さんのことを、もっとたくさんの方に知ってもらいたい。これはいつ自分に降りかかるかわからない出来事なんです。『世界早産児デー』にあわせてイベントを行うことで、より多くの人たちに『早産』という出産について知っていただきたいと考えています」

 「世界早産児デー」=World Prematurity Dayは、「世界未熟児デー」と訳されることもある。出産年齢の広がりなどから世界的に増加する早産の問題をクローズアップするため、国連やWHO、セーブ・ザ・チルドレンなどの諸団体が協力していく取り組みの中で2011年に制定された。

 「しずくの木」はこの日を含む11月12~22日に広島市で写真展を企画している。早産で産まれた赤ちゃんが保育器の中で頑張っている姿と、成長した現在の姿を並べて展示する。早産児は病気や発達上のリスクを指摘されることが多いが、元気に大きくなっている早産児もいるという事実を知ってもらいたいという。

チューブをつけたまま、初めてのお風呂に。一緒に写った母親の手が大きく見える
チューブをつけたまま、初めてのお風呂に。一緒に写った母親の手が大きく見える
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「『この子がこんなに大きくなったよ!』と伝えられたらな、と。写真展は早産児ママたちを勇気づけるもので、ヨコのつながりを広げるきっかけにもなると思います。一方で、早産とは全く関係のない人たちへも情報発信して、理解を深めてもらえたらと思っています」

 「しずくの木」という名前には、「お父さん、お母さんが流した涙で、大きな木になってね」という想いが込められている。

「『辛い』『苦しい』、そればかりではないんです。早産で産んだ次男は、日々元気に成長しています。私も次男の早産で自分がとても成長させてもらったなぁと思っています。いろいろな方とのご縁もいただくことができました。早く小さく生まれた赤ちゃんのママが、みんなそういう風に思えるようになったらいいなぁと思っています」

 クラウドファンディングによる支援は10月12日まで受け付けている。支援者には金額に応じて、写真展での名前掲載や、早産だった子どもたちからの手書きのお礼カードなどのリターンがある。詳細は、https://a-port.asahi.com/projects/sekaisouzanjiday/

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 この記事は東京・渋谷のコミュニティFM局「渋谷のラジオ」で9月6日に放送された番組「渋谷のSDGs」の内容を元に構成しました。聞き手は同番組パーソナリティーの高木美佳さんです。

 「渋谷のラジオ」では毎月第1木曜午前10時から、A-portのプロジェクトを紹介するコーナーを放送しています。今回の放送の音声は、渋谷のラジオのノートページで聴くことができます。次回放送は10月4日の予定です。

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