赤ちゃんの睡眠リズムを整えるには?その1

どのようにしたら就寝時間に眠くなるようなリズムを作れるのでしょうか?
A Baby and Father.
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A Baby and Father.

以前、2歳のAくんの寝付きの悪さをなんとか改善できないかと、相談を受けたことがあります。とにかく寝つきが悪く、21時にベッドに入っても、実際に眠る頃には22時半を過ぎています。朝はなかなか目が覚めず、お母さんが頑張って8時過ぎに起こしているそうです。

やっぱりねんねトレーニングが必要?と思われるかもしれません。しかし、Aくんの場合、就寝時間になったら眠くなるような生活リズムと、リラックスできる睡眠環境を作ってあげるのが改善の鍵でした。これは睡眠の土台の最も重要な部分です。そうすることで、ねんねトレーニングをしなくても睡眠問題が解決することさえありますし、ねんねトレーニングが必要になった場合も、赤ちゃんが泣くのを最小限に抑えることができます。

それでは、どのようにしたら就寝時間に眠くなるようなリズムを作れるのでしょうか?眠気が起こる仕組みから考えてみたいと思います。

眠気をつくるシステムの一つが、サーカディアンリズム(概日リズム)です。これは、脳や他の体の臓器にある体内時計が刻む、一日のリズムのことです。いつどのくらい睡眠をとったかに関わらず、一定の時間で覚醒と睡眠のリズムを刻んでいます。

人間の体内時計は24時間11分サイクルと言われていて(1)、地球のリズムとは少しずれがあります。そのずれを修正するために最も重要なのは、光です。光は、脳の中の体内時計に直接作用して、ホルモンを通じて体内時計の時刻合わせを行います。午前中、特に起床直後に光を浴びると睡眠のリズムを前倒しにする効果があるので、体内時計の就寝時間を早い時間に動かすことができます(2)。一方で、夕方の光は逆効果です。室内で電気をつけて過ごしていると、午前中は日光より弱い光のもとで過ごし、夜は月明かりよりずっと明るい光のもとで過ごすことになるので、どうしてもリズムが後ろへずれてしまいがちになります。寝る前にテレビやスマホのブルーライトが目に入るのも睡眠リズムに悪影響を与えます。午前中はなるべく早い時間に日光を浴び、夕方はできれば間接照明にして、部屋を薄暗くしましょう。

体内時計は光だけでコントロールされているわけではありません。食事や、他の行動もすべてがリズムに影響します。光を浴びるだけでなく、規則正しい生活をすることが大切です。離乳食が軌道に乗ってきたら、食事の時間はできるだけ一定にします。保育園に通っているなら、休日も保育園のスケジュールに合わせるのが良いでしょう。

起床や就寝の時間はどうしたらよいでしょうか?保育園に出発する時間や、ゆくゆく学校に通うことを考えると、起床時間は6〜7時にしておくのがおすすめです。乳幼児は10〜15時間程度の夜の睡眠が必要ですが(3)、昼寝の時間を考えると夜の睡眠は10〜11時間程度です。十分な睡眠をとるためには、就寝時間は19〜20時が理想でしょう。しかしお仕事の都合などで遅寝遅起きになってしまうとしても、起床や就寝の時間を一定にし、できるだけ30分以内のずれに抑えることで、体内時計を一定に保つことができます。

また、就寝直前は睡眠禁止ゾーンとも呼ばれ、実は一番眠りにくい時間帯です(4)。就寝前にできるだけリラックスした状態をつくり出し、眠るための心の準備をさせてあげる必要があります。そのためには、おやすみの時間に一定のルーティーンを行うことが効果的です。例えば、お風呂に入ってパジャマに着替えたら授乳・ミルクの時間、その後絵本を読んで歌を歌い、ベッドに入る、というように、毎日同じ流れで同じことを行います。

さらに、子どもの就寝前に目がぱっちり覚めてしまうことには、不安が関係しているという研究もあります。2006年にピッツバーグ大学の研究者が138人の子どもを対象に行った研究によると、不安障害と診断されている子は、そうでない子に比べて就寝前後のコルチゾールの濃度が有意に高かったことが明らかになっています(5)。コルチゾールは本来は早朝に多く分泌されるホルモンで、血圧や血糖値を上昇させ、体をしっかり目覚めさせる働きがあります。しかし寝る時間にたくさん分泌されてしまうと、これから眠るのにも関わらず、体が目覚めようとしてしまうのです。もちろん、不安障害という病気と、一般的な不安は全く異なるものです。しかし、何かしらの不安やストレスがあると、赤ちゃんの寝つきが悪くなったり、夜泣きがひどくなったりするのは、よく経験することです。赤ちゃんの不安をなくすよう、スキンシップを意識的に行ったり、日中に集中して一緒に遊んであげる時間をとったりするとよいでしょう。

そして、いくら眠くなっていても、リラックスできる環境でないとなかなか眠れないのは、大人も子どもも同じです。睡眠環境は、静かで、真っ暗で、少し涼しいくらいがよいと言われています。

夏は日の出の時刻が早くなりますが、日の出とともに部屋の中が明るくなってしまうと、早朝に起きる原因になります。カーテンは完全に遮光できるものにし、カーテンの隙間もテープなどでとめて光を遮断してみましょう。また、エアコンや空気清浄機、加湿器の動作ランプが明るい場合は、アルミホイルを貼って光が漏れないようにしてみてください。天井のライトの豆電球をつけっぱなしで寝ているご家庭もありますが、ちょっと明るすぎるのであまりおすすめはしません。夜中のお世話で光が必要な場合は、床に置くタイプの薄暗い暖色系ライトがよいでしょう。

物音に敏感な赤ちゃんの場合は、ホワイトノイズをつけるのもおすすめです。ホワイトノイズというのは、昔のテレビの砂嵐のようなザーという音で、周りの物音をかき消す効果があります。特に月齢が低い赤ちゃんはホワイトノイズで安心して眠ってくれる場合もあるようです。夜泣きを防ぐためには、ホワイトノイズを眠っている間中つけっぱなしにしてみてください。

赤ちゃんの温めすぎは乳幼児突然死症候群のリスクにもなります(6)。また、体内時計のリズムでは、明け方にかけて体温が下がっていき、その後体温が上昇して体が目覚めてきます。眠りに入る時には、熱がこもらないようにして、自然に体温が下がるようにするのが良いでしょう。寝室の室温は20℃前後がベストです。夏場は20℃とは言いませんが、26〜27℃くらいにしてみてください。寝ている間に汗びっしょりにならないよう調節してあげましょう。

1.Czeisler CA, Duffy JF, Shanahan TL, Brown EN, Mitchell JF, Rimmer DW, et al. Stability, precision, and near-24-hour period of the human circadian pacemaker. Science. 1999;284(5423):2177-81.

2.Zee PC, Manthena P. The brain's master circadian clock: implications and opportunities for therapy of sleep disorders. Sleep Med Rev. 2007;11(1):59-70.

3.Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, Alessi C, Bruni O, DonCarlos L, et al. National Sleep Foundation's updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015;1(4):233-43.

4.Lavie P. Ultrashort sleep-waking schedule. III. 'Gates' and 'forbidden zones' for sleep. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1986;63(5):414-25.

5.Parker JH, Van Lenten SA, Pina AA. Control Over Anxiety and Dispositional Coping Tendencies Are Associated With Presleep Arousal Among Children Referred for Anxiety Problems. Behav Sleep Med. 2017;15(4):318-29.

6.Task Force On Sudden Infant Death S. SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment. Pediatrics. 2016;138(5).