アニメ版も発売…インド映画『バーフバリ』、なぜヒットした?買い付け担当者に聞く

「映画を観ている時は、日々のしんどいことや辛いことを忘れられる。そしてスッキリした気持ちで劇場を出る」
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声出しOKの「絶叫上映会」などを開催し、SNS上で熱狂的なファンを集めているインド映画『バーフバリ』シリーズ。

全国で100館に満たない小規模での公開だが、国内の興行収入は1億5000万円を突破(2018年5月時点)。ロングラン上映がつづく異例のヒットとなっている。6月1日には後編「王の凱旋」ノーカットの完全版が公開予定で、アニメ版の発売も決定した。

『バーフバリ』シリーズの配給を担うのは、社員数12人の株式会社ツインだ。買い付けを担当した代表取締役の加畑圭造氏は、作品を初めて観た瞬間から「イケる」と直感が働いたという。加畑氏に『バーフバリ』の魅力、そして映画バイヤーとしての仕事の面白さについて聞いた。

HuffPost Japan

——『バーフバリ』シリーズ、ここまでの反響を呼ぶと思いましたか?

正直、驚いています。絶叫上映や完全版の公開、漫画化などいろいろな広がりを見せていて、予想外ですね。S.S.ラージャマウリ監督も、完結編の公開から約4カ月後に初来日しました。

——2作目の完結編『王の凱旋』で人気に火がつきましたよね。

通常、興行収入は公開から週ごとに下がっていくんですが、『王の凱旋』は12月29日に公開して4週目でV字回復してるんです。

なぜこの現象が起きたかというと、当初はインド映画ファンがメインの客層になるかと思っていたんですが、蓋を開けたら『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のようなエクストリームなアクション映画を好きな人が気に入ってくれたんです。

そこからSNSを中心に口コミが広がって、RHYMESTERの宇多丸さんがレギュラーラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』で取り上げてくださり、絶賛してくれまして。アクション映画のファン以外にも広がり、糸井重里さんや品川庄司の品川祐さんなどもツイートしてくれて、映画ファン以外にも広がったというのがヒットの流れだと思います。

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——インド映画というとムンバイで製作されるボリウッドが有名ですが、『バーフバリ』は南インドで作られたテルグ語映画です。日本の映画市場ではマイナーなジャンルでもあります。

2013年にインド映画の『きっと、うまくいく』が大ヒットした直後、インド映画が日本で多く公開されたんですが、軒並み成績がイマイチでした。それもあって、2015年当時は、各配給会社がインド映画に対してどちらかというと否定的に見ていました。

その理由で買い付けは競合もあまりなく順調にいったんですが、劇場側から前向きな返答がもらえないこともあって、公開劇場を見つけるのには苦労しましたね。インド映画というと「あの踊るやつ?」とちょっと疑心暗鬼な反応が返ってきて、「ちょっと踊ってますけれども...」という感じで。(笑)

バーフバリ役のプラバース(左)、バラーラデーヴァ役のラーナー・ダッグバーティ(右)
バーフバリ役のプラバース(左)、バラーラデーヴァ役のラーナー・ダッグバーティ(右)
STR via Getty Images

——確かに、ちょっと踊ってますね。(笑)『バーフバリ』の買い付けはどのような流れで進められたのでしょうか?

第1部の『伝説誕生』は、2015年7月にインドとアメリカで公開されました。インド映画ながらもアメリカの映画チャートで7位にランクインした記事を読んで興味を持ち、すぐプロデューサーに連絡を取りました。

オンラインで作品のサンプルを送ってもらったところ、すぐに直感で「これはイケる」と感じまして。その後は、2015年9月にトロント映画祭でプロデューサーと初対面して、翌10月の釜山国際映画祭で契約に至りました。そこまではトントン拍子にいきました。

——「イケる」と思った理由は?

『娯楽を極めた映画だな』と思ったところですね。

誰でも、日常生活に辛いことってあるじゃないですか。でも、映画を観ている時は、日々のしんどいことや辛いことを忘れられる。そしてスッキリした気持ちで劇場を出る。

これが私が考える娯楽映画なんですが、『バーフバリ』にはそういう気持ちになる効果があると思っています。実際に、観客の皆さん観た後に「元気になった」「風邪が治った」とか言ってくれてね。(笑)

——わかります。『バーフバリ』を観ると、活力が湧いてくるというか...。

『バーフバリ』は単純明快で娯楽映画の原点のような作品ですよね。

昔は日本にも高倉健さんの任侠映画など大衆娯楽映画全盛期がありましたが、最近はそういう映画が日本から少なくなっていると思います。昔はもっとシンプルで、ハングリーだった。今はもっと複雑になってきていて、単純明快なエンターテインメント作品が少なくなってきているようにも感じます。

そんな映画がインドからパワーアップして突然やってきた、という気持ちになりました。また、今は、社会的に大衆娯楽映画の魅力を改めて振り返られる余裕が出てきたタイミングなのかもしれません。

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——ラージャマウリ監督も、日本でここまで人気が出ていることに驚いていました。

『バーフバリ』は、インド国外ではインド人移民の方に人気だと聞いています。インド人ではない人がたくさん観ているという意味では、日本が飛び抜けているみたいですね。やっぱり一定多数の日本人が求めていたものと『バーフバリ』が一致したのではないか、と思います。

——一点気になっているのが、劇場数です。『バーフバリ』の興行収入は1億5000万円(2018年5月末時点)を超えていますし、絶叫上映の熱狂っぷりを見ていると、「もっと上映館数を増やせるのでは...」と思うのですが...。

『王の凱旋』の劇場数は累計で90館程度で、完全版は全国73館で上映する予定です。

『バーフバリ』はテレビスポットも新聞広告も打たず、どちらかというとSNSの口コミで広げていった映画で、あまり宣伝費をかけていません。館数は少なく見えるかもしれませんが、宣伝の規模を考えれば、我々としては妥当だと思ってます。

そもそも、興行収入と館数はあまり関係ないんですよ。逆に館数を増やすと経費がかかるので、独立系配給会社はできるだけ経費をかけずに興行収入を上げようとしているんです。

公開している劇場の数は少ないけれど、「満席感」というものを作り出して更なる評判を生んでいくという手法もあります。「劇場が満席になっている」状態をキープしていくことで、口コミを促すことができるんです。

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——確かに、「満席」と聞くと観に行きたくなりますね...。絶叫上映は、もともと公開前からやるつもりだったのでしょうか?

いえ、実は「絶叫上映」自体をあまり知りませんでした。V8の絶叫上映会企画チームの方が試写会に観に来ていて、「これは絶叫向きですよ」と声をかけてくれたんです。

その時は「そういうものがあるのか」という認識だったんですが、聞くと、当時多くの配給会社は絶叫上映企画に対してあまり乗り気でなかったようです。けれど、これはおもしろそうだからやってみようと。V8の方々と協力する形でチャレンジしてみたんですが、思ったよりもすごく反響がありました。

——今後、配給会社が「絶叫上映」向きの作品を見極めて宣伝手法を考えていく、という未来もあると思いますか?

あると思いますよ。作品によって向き不向きがあるので、どれもこれも「絶叫」というわけにはいかないと思いますが...。映画のキーワードでもある「娯楽」というところに立ち返ると、不特定多数の知らない人と盛り上がって一緒に映画を楽しむというのは、ある意味では娯楽の原点を表しているのではないかと思います。

『バーフバリ 伝説誕生』&『王の凱旋』オールナイト絶叫上映会の様子
『バーフバリ 伝説誕生』&『王の凱旋』オールナイト絶叫上映会の様子
HuffPost Japan

——『バーフバリ』の他にも、韓国の『新感染 ファイナル・エクスプレス』などの話題作を配給しています。買い付けはすべて加畑さんがされているのですか?

ツインの社員数は全部で12人ですが、マーケティングや劇場への営業担当などメンバーの意見を集約しながら、買い付け業務自体は私が中心になってやってます。

——加畑さんはずっと映画畑に?

そうですね。ツインに入社したのは2010年で、1984年から2000年まではポニーキャニオン、2001年から2009年まではユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンにいました。

ポニーキャニオン時代は、主に香港映画の買い付けを担当していました。ユニバーサル・ピクチャーズ時代は韓流ブームで、『ブラザーフット』(2004年公開)や『四月の雪』(2005年公開)などを担当しました。

——ベテランのバイヤーですね...。

あまり考えなかったですが、もう30年以上やっていますね。

映画祭は、宝探しに行くような感じでワクワクするので、すごく好きなんです。あとは、『バーフバリ』をきっかけにインド神話に興味を持ってくれた人がいるように、映画を介してその国の文化に興味を持ってもらったり、草の根の文化交流が活性化できれば、公開に携わった者としては嬉しいですね。

——外国映画と一口に言ってもたくさんありますが、ツインではどのような作品を紹介していきたいと思っていますか?

今、日本の映画市場は邦画とアメリカのメジャー大作が主流です。それとはちょっと違った「サムシング・ディファレント」な作品を発掘していきたいと思っています。

邦画とアメリカのメジャー作品以外では、世界の映画祭で賞を獲るようなアート映画が比較的公開されやすい傾向にあります。でも、欧米以外の現地の人が実際に楽しんでいる娯楽映画は、日本でなかなか紹介されません。私たちはそういう作品の中から日本の市場に合うものを探してきて、積極的に配給したいと思っています。

弊社配給作品では、例えば中国映画だと『人魚姫』、去年は韓国映画の『新感染 ファイナル・エクスプレス』などですね。

——確かに、アメリカ以外の外国映画だと、一癖あるようなおしゃれな作品が多い気がします。

カンヌ映画祭等で上映される作品はアート映画ですよね。アート映画は娯楽映画と対極にあるもので、映画を観て、「この作品にはどんな意味があるのか」「社会的な問題は何か」と考えさせられるものが多い。

もちろん、そういった映画の楽しみ方もあると思います。でも、「映画を観ている時はただ楽しみたい」という人だってたくさんいるはずです。

それを叶えられるのが娯楽映画だと思っていますし、我々はそういう映画を扱っていきたい。この思いで辿り着いたものが、『バーフバリ』だったというわけです。

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【作品情報】

6月1日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

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