「雑草軍団」「非エリート軍団」…そんな表現をされながら、強豪ひしめく高校サッカー界で、2023年、悲願の全国制覇を果たした高校がある――。岡山学芸館高校サッカー部。部員たちを「てっぺん」へと導いたのが、元ファジアーノ選手の高原良明監督だ。
専用グラウンドもなく、ほぼ未経験者を含む十数人の部員からスタート。そんな岡山学芸館高校サッカー部が、全国優勝を果たせた理由とは? 高原監督が、日本の部活動を応援する「ANYTEAM」を運営するauの村元伸弥さんと対談。優勝までの軌跡と、部活動の魅力や課題を話し合った。
空き地で練習、タバコ臭い生徒も
―― まずは、高原さんの就任時の状況を教えてください。
高原さん(以下敬称略):2003年にコーチとして初めて学校に行った時、部員は十数人。グラウンドで野球部が練習している中で、「サッカー部はどこで練習するんだろう?」というところから始まりました。
ほどなく、近くの空き地に案内されて、「サッカー部はここで練習しているんですよ」と言われたんです。雑草が生えていて、ちょっとだけ土の部分があるような場所に、ゴールが2つ置いてあるだけでした。
当然、部室も何もなくて。ボールや練習用のコーンは車で運び、暗くなったら車のライトをつけて練習。雨が降れば木の下で着替えるような環境で、「この時代にも、こういう部活動がまだあるのか」と衝撃を受けました。
生徒たちの中には、やんちゃな子も。練習を始めるときに、タバコの臭いが漂ってきて。問いただしたら「来る途中で吸ってきました」とか……。そんなスタートでした。
「ちわーす」「うす」は禁止。挨拶から始まった指導
村元さん(以下敬称略):サッカー強豪校ご出身の高原さんが経験した環境とは、かけ離れていたと思います。そこから、どんな指導を始めたのですか?
高原:「挨拶指導」から始めました。当時、生徒たちの挨拶や返事は「ちわーす」「うす」といった感じ。彼らに「『おはようございます』『はい』と言おう。『立ち止まって、目を見て挨拶しよう』」と、礼儀作法を学ばせました。
あとは、経験や知識が少ない生徒のため、私が実際の動きを見せていきました。すると、生徒たちがどんどん「教えてほしい」と、変わっていきましたね。
村元: “本物”のプレーを見せることって、すごく大事ですよね。高原さんとの出会いは、生徒たちにとって、「目標が芽生えた瞬間」だったのでしょう。現在の練習は、どんな工夫をされていますか?
トレーニングは、あえて「100分」に限る
高原:「100分トレーニング」で、限られた時間内に全力を出し切ることを重視しています。仕事もダラダラとやっていたら身が入らないですけど、人間はゴールが見えれば頑張れるんです。生徒たちも、自主的に「走って移動しようぜ」などと声がけするようになりました。熊本県立大津高校の平岡先生の指導法を学ばさせていただき、参考にしています。
競争心も大事にしています。実力の順番でカテゴリに分けて、月1回は「入れ替え戦」をします。「頑張る人には、いつでもチャンスは転がっている」というシステムです。
選ばれなかった100人の思いも持って戦え
村元:時間感覚や自主性など、社会で重要なことを養えるのは、部活動ならではですね。高原さんが考える、部活動の魅力はなんでしょう?
高原:勝った時の喜び、負けた時の悔しさ、協調性……。部活動には、教室では学べない魅力が詰まっています。「メンバーが深く理解し、応援し合う」。これも、部活動ならではでしょう。
例えば、選手権大会は30人登録制。うちでは登録者の発表時点で、約100人は絶対に出場できなくなります。当然、悔し涙を流す子も。「自分たちだって3年間頑張ってきた。俺たちの分まで活躍してほしい」。彼らが部活の「サッカーノート」に綴ってくれたメッセージを、試合前日、選手たちに読ませました。「選ばれなかった100人の思いも持って戦え」と。
登録されなかった生徒たちは、「あいつだったら俺たちも絶対に応援する」と、声がかれるほど声援をくれました。今回の優勝では、そんな応援がすごく力になりました。
生徒の成長を感じた、嬉しいエピソードも。試合中に、キャプテンが相手選手と接触して、ピッチのマイクが倒れてしまったことがあったんです。彼は、そのマイクをちゃんと起こしてから戻った。
後日、ある人から「私はあれを見たときに、岡山学芸館が勝つと思ったんですよ」と言われました。今までの指導が報われた、と実感した瞬間でした。
応援者たちが集う、支援の「ハブ」を目指して
―― 逆に、部活動で課題と感じていることはありますか?
高原:やはり資金不足です。遠征などには費用の問題がつきもので、スポンサー企業からサポートを受ける学校は増えています。
村元:auは学生スポーツの支援を続けているのですが、学校から「資金不足のため壊れた道具を使い続けている」などの課題が寄せられました。そこで、2022年10月に立ち上げたのが、学生スポーツ応援コミュニティサービス「ANYTEAM」です。
KDDI VISION 2030として「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会」をパーパスに掲げる当社だからこそ、社会課題の解決やワクワクするような提案をしていきたいと考えたんです。
「ANYTEAM」の機能は2つ。1つが応援したい部活チームへ応援メッセージの投稿ができたり、その投稿に対してファン同士で書き込みができたりする「ファンコミュニティ」です。
もう1つが、学校への金銭的な支援ができる「寄付」と、部活チームの課題解決に向けた企画の資金を募る「クラウドファンディング」。OB・OG、保護者やファンの応援の熱量を支援につなげる取り組みを推進しています。
まずはこの2本仕立てで学生スポーツの課題に向き合い、誰もがスポーツで夢を実現できる社会を目指します。応援者たちが集い、応援先に活力を届ける「ハブ」になればいいなと思っています。
高原:支援も応援もありがたいです。今回の優勝に際しては、本当に多くの方からの応援をいただき、今も励みにしています。
村元:「ANYTEAM」を通じて、もっと応援と支援を届けていきます。今後は、指導者のサポートや、生徒たちの状態を可視化するテクノロジーなどにも取り組みたいです。通信を活用して、教育環境などの「格差」をなくしていく。学生スポーツが抱える課題を皆で共有して、解決する仕組みを広げ、ひいては日本社会の成長につなげていければと。高原さんの目標はなんですか?
「スイミー」になった雑草軍団
高原:おこがましいですけれど、まずは「人生の中で、高校3年間は大きかった」と思ってもらえたらいいな、と。「教え子にワールドカップで活躍してほしい」という思いもあります。とはいえ、勘違いせず、今まで通り謙虚に努力を積み重ねていくだけです。
一部で表現されていた通り、僕らが「雑草軍団」なのは間違いありません。ただ、雑草軍団でも「日本のてっぺん」を取りました。ある意味、全国に勇気を与えることができたと思っています。やっぱりチームの力がすごかったんです。
『スイミー』という絵本がありますよね。小魚でも、1つにかたまって大きな姿に見せることで、大魚に負けない存在になれる。「和をもって個を制す、スイミーになれ」「1人1人が力を合わせれば、大きなことを成し遂げられるよ」と生徒たちに伝えています。
村元:私たちも「ANYTEAM」を通じて、全国の応援の力を1つに集約し、増幅させていきたいと思います。
***
auは、「おもしろいほうの未来へ。」をブランドスローガンとして、日本の学生スポーツの応援・支援を続けていきます。学生スポーツ応援コミュニティサービス「ANYTEAM」の詳細はこちら
(写真:川しまゆうこ)