子どもが入院中、24時間ほぼベタバリで親が付き添うよう病院から求められる「24時間付き添い」。
この慣行の実態に対する親の声を記事で紹介したところ、さらに多くの声が寄せられた。
そこから見えてきたのは、病院によって、付き添いへの対応が違うことだった。大まかに分けると以下の3つになる。
① 家族が24時間ベタバリで付き添うよう、半ば強要する「付き添い強要型」
②面会時間以外は原則帰宅させる「面会時間限定型」
③付き添いたい親は付き添っていいし、いつ来ても帰ってもいい「柔軟対応型」
①は非人間的な環境で長時間ベタバリで過ごさなければならず、親の負担が重すぎる。②は親の付き添いたいという思いが満たしきれないし、誰の目もないところで子どもが長時間過ごさなければならない場合もある。
では、③の「柔軟対応型」はどうだろう。ベタバリを強要されず外出もできるし、仕事も続けながら付き添えそうだ。この方式を20年以上取り入れているのが、大阪市立住吉市民病院(大阪市住之江区)だ。
由来や方策を知りたくて、舟本仁一院長と小児病棟の看護師長を務める、加登泉看護部副主幹に話を聞いた。
■付き添っても付き添わなくてもいい病院
舟本院長)当院では、付き添いは不要、してもしなくていいという方針をとっています。
加登副主幹)面会時間も制限せず、いつ来てもいいということにしているので、仕事を終えた深夜や未明に、寝顔だけ見にやってくる方もいます。病院で寝起きしながら子どもに付き添っているご家族もいます。
舟本院長)昔から、寝起きしながら付き添っている親は2~3割というところでしょうか。ここにはお風呂がないので、病院に付き添っているご家族は自宅や外で入浴や食事を済ませてもらいます。ベタバリを強制していないので、外出の時間は自由です。
付き添い不要の方針をとっているので、24時間の付き添いを親に求めるほかの総合病院から、親が付き添えない子どもが当院に移ってくることもあります。
■付き添いOKになったきっかけは「子どもの死」
舟本院長)当院はかつて、「付き添い禁止」でした。小児科病棟も例外ではなく、面会時間が終わったら帰っていただいていました。
1994年に基準看護が設けられ、それまで慣行として続けられていた、家族や民間業者による付き添い看護が禁止されたためです。公立病院なので付き添い禁止のルールを守って運用する必要がありました。
ですが、20年以上前に起きたある出来事がきっかけで、「付き添い禁止」ではなくなったのです。
休日急病診療所から当院に送られてきた急患の子どもがいました。入院が必要となり、お子さんのご家族は付き添いを希望されました。ですが「面会時間以外は付き添いできません」と説明し、その日は帰っていただきました。
ところがその日、お子さんが亡くなりました。看護師は決められた時間にその子の様子を観察し、問題はなかったのですが、亡くなりました。
大変な騒ぎになりました。当然、家族は非常にお怒りになり、死因を調べる病理解剖も「これ以上、子どもにかわいそうなことはしたくない」と言われました。
家族が付き添いたいという希望がかなわないまま、子どもが亡くなった。この一件への反省から、付き添いに関しては、家族が強く望むなら付き添いを許可し、付き添えないなら病院のスタッフがみるという、どちらも選べるやり方に、時間をかけて徐々に変わっていきました。
■付き添い不要は「貧困対策」
舟本院長)付き添いをしてもしなくてもいいとしているのは、「貧困対策」の側面もあります。
この地域は、貧困家庭の割合が全国のなかで高い大阪市の中でも、ひとり親、低賃金、非正規といった、何らかの困難を抱えている家族がとりわけ多い地域です。また、外来で入院ができないと訴えることを聞くことが本当に増えました。食べていけるだけの収入をどう確保し、生活を安定させるかがまずあり、親の状況が子どもの人生にも直結します。
先日、外来で、私が「お子さんは入院が必要です」と言ったら、いきなり泣き始めたお母さんがいました。
「今日、この子を受診させるのに、職場に事情を話して抜けてきた。これで精いっぱい。さらに入院と言われたらとんでもない」。そう言って泣くのです。
お母さんの頭の中には、子どもの入院=付き添う、というイメージがある。「当院は付き添えるときに付き添っていただければいいんです」と説明したら、ものすごく安心された。このように、入院の付き添いができないと訴える家族は、この地域でも確実に増えています。
もちろん、ご家族には「必ずしも付き添う必要はないけれども、お子さんにとっては付き添ってもらうのが一番いい」とは言います。
病気を治療している子どもや家族に対し、発育に応じて保障されるべきことを盛り込んだ「病院のこども憲章」にも、「病院におけるこどもたちは、いつでも親または親替わりの人が付きそう権利を有する」とある。誰かに付き添ってもらうのは、子どもの権利ですし、一緒にいたいと思うのは、体調が悪い時だけになおさらです。
それができないことに関して、申し訳ないという気持ちは当然家族にもある。一方で、仕事を失うことへの懸念もある。仕事を1日休む程度は大目に見てもらえても、1週間も休んだら辞めさせられるかもしれない。途端に生活できない事態に陥る。ほかのきょうだいがいれば、その子たちの世話もある。
こうした様々な背景を考慮せず、一律にベタバリの付き添いを求めれば、入院を避けようとする親が出てくる。
実際、「入院せずに、なんとか外来で治療してくれ」の一点張りの親もいます。その時は詳しいことは言わなくても、その後の会話で、外来を望んだのは、入院後の付き添いを避けたかったためと分かった例もありました。
それで割を食うのが、子どもなのです。仕事や収入に影響が及ぶのなら入院させたくないという親の考えが、結果的に子どもを重症化させてしまうかもしれない。
だからそういうことも配慮して、なるべく症状が軽いうちに入院してもらいます。その方が治りも早いし、早く帰れますから。
付き添えない家族もいるという現実に病院が向き合い、家族の事情に配慮する必要があると考えています。
■付き添い不要のケアのかたち
舟本院長)当院は2018年3月末、隣の住吉区にある大阪急性期・総合医療センターと統合します。
統合先の病院の小児病棟は、原則親が付き添うことになっていて、親が付き添えない子どものベッドは現在のところ、全38床中4床だけです。統合に向けた話し合いで「付き添いの自由度を上げて欲しい」とお願いしましたが、逆に、どのようにして病棟全体を付き添いなしでやっているのですかと聞かれました。
当院の職員は、付き添い不要が特殊なことだという感覚はありません。何か独自の工夫をしているという感覚もありません。
加登副主幹)入院された当日など、親しい人が誰もいないなかで当然泣かれますが、離れる前に「お母さんはこれからお仕事だけど、必ず迎えに来るからね」と、親からちゃんと説明して心の準備をしてもらいます。保育園と同じですね。
0~1歳は理解が難しいし、2~3歳で説明を受けた子でもなぜ行っちゃうの、と泣く場合も当然あります。でも説明を聞いた子は、そんなに長くは引きずりません。
とはいえ、激しく泣き続けたり、目を離すと管を抜いたり、逃げてしまう子もいます。この子は危ない、と看護師が思ったら、バギーやベッド、車いす、ベッドに載せて看護師が常時いる詰所に連れて行きます。
この子が好きなもの、安心できるものが何かを親から聞いておきます。アンパンマンのビデオが好きだとか、このおもちゃが好きとか。寝る時間も聞いておきます。聞いておくことで、いろんな手を使うことができるのです。
そういうもので気持ちを紛らわしたり、散歩をしたりして、親と離れた悲しい気持ちを遊ぶ気持ちに持っていくようにします。時間はかかりますが、子供たちは必ず心を許してくれます。
付き添いのいないお子さんは、なるべく詰所近くの部屋に集めます。一人が泣くと、他の子にも連鎖する場合もありますが、大きいお子さんがあやしてくれるなど、相乗効果もあります。
プライバシーの問題もあるかもしれませんが、ドアのガラス部分から何をしているかは見られるようになっています。着せる服を工夫して、動きを抑制する形のものに変えたりすることもあります。
30年くらい総合病院の小児科で働いてきましたが、この子は見ておかないと危ないね、とか、この子はこうしておいた方がいいとか、看護師の間でもだいたい意見が一致します。どの子を気にかけておくべきか、どうすればいいかは長年の経験で分かるのです。
付き添いが当たり前ではない病院で働いてきたからこそ、独自の観察力、アンテナのようなものを看護師も持っています。
親の気持ちもケアが必要だと思っています。仕事もきょうだいの世話もあるなか、入院の子どもの気持ちをどう受け止めるか。悩む親御さんは多いです。
患者といる間はこの子のお母さん、帰ったらきょうだいのお母さんになる。一緒にいられる1時間、2時間でも子どもと一緒にいて、愛着形成をしてもらいます。
■ベタバリを求める病院の背景
舟本院長)少なくない病院で、ベタバリの付き添いを求めている背景には、医療安全上の課題があります。
入院した子どもはストレスがたまりがちです。体に付いているチューブを引き抜いたり、ベッドから出ようとしたりする。たとえ看護師が巡回しても限度はあります。誰もいない間のリスクを考えると、親に「付き添って下さい」となる。
少しでも目を離してはいけないとなると、その分負担は親に行きます。極めて短時間の食事や入浴しか許されず、少し席を離れるくらいで、いつ帰ってくるんですかと聞くような事態になる。
事故が起きる確率をゼロに近づけたい病院の気持ちも分かる。当院は、スタッフが観察しながらこれまで大きな事故もなくやってきましたが、だからといってうちでやれるのだから、他の病院もできるでしょう、とは言いません。
ただ、家族を子どものそばにベタバリで付き添わせておけば安全、付き添いがないから危険とは言い切れないのです。
その一例がベッドからの子どもの転落です。
病院ではベッド柵のついたベッドを使っています。柵を下ろしている間、時たま子どもの転落事故が起きるのです。ある程度の高さがありますから、重大な事故になりかねません。
ベッドからの落下事故のほとんどは、家族が付き添っている時に起きます。病院関係者はそのリスクをいやという程経験していますので、ベッド柵を下げている間は子どもから目を離しません。
ですが、家族は入院の経験自体が少ないので、たとえ職員から「ベッド柵を下ろしているときは、絶対に子どもから目を離さないように」と注意されていたとしても、子どもに背を向けて何かをするなど、つい目を離すことがあります。そして親の方に動いた子どもが、ベッドから転げ落ちるのです。
■改善の方策は
舟本院長)付き添うか付き添わないか、そのときどきの家庭の事情によって選べるのが、やはりベストだと思います。当院では、看護師1人に対し子ども7人という、大人と変わらない基準看護でやっていますが、子どもを観察しながら起きうる事故を予想して事前に回避することで、大きな事故も起きずにきました。
一方で、現行の基準看護だけで、子どもの安全を確実に守るのは限界がある。だから家族に付き添ってもらう必要がある、というほかの病院現場の考え方が間違っているとは思いません。
問題なのは、「付き添いは原則お断りしています」と表向き言っておきながら、付き添いはあたかも親の希望であるかのような体裁をとって、その実、親に付き添いを半ば強要し、睡眠や入浴、食事も満足にできないようなベタバリの付き添い生活を余儀なくさせている病院があるという点です。
こうした法律の網の目をくぐり抜けるような「親の希望による付き添い」を続けている限り、この問題を正面からは扱いにくい。付き添いの負担を減らすような環境の改善も進まない。でも、病院が向きあわないと、議論は始まらないし、解決にはつながらないと思います。
考えられる解決策は、マンパワーの改善です。看護師にせよ、保育士にせよ、いかに人を増やすか、です。付き添いに関して家族の自由度を上げるのなら、それに見合った人件費が保障されないと、改善はなかなか進まないと思います。
子どもには付き添いが欠かせないと思うのなら、付き添うことを前提にした議論があってもいいし、それなら病院の中の付き添いの環境を改善しよう、という話もできる。
ただ、様々な背景でどうしても付き添えない親もいる。「付き添わなくていい」という余裕を、病院側ももって欲しい。当院のように、特別なことなどしなくても回っている病院があるのだ、ということは、もっと知られていいと思っています。
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