【資産形成】老後に必要なお金がわかる?1万通りの経済シナリオを基に「未来のわたし」を守る新型ファンド

「忙しくてお金の勉強ができない」といった声を受け、1万通りの経済シナリオを基に作成した新型ターゲット・イヤーファンド「未来のわたし」。経済的に満足度の高い退職後の暮らしに導く狙いがある。

金融教育や老後の資産形成という言葉が、多くの人にとって身近になりつつある現代。関連情報を発信する書籍やSNSなどが増えている一方で、個人の自助努力で勉強を進めることに難しさを感じている人も多いのではないだろうか。

資産運用会社のアセットマネジメントOneとティー・ロウ・プライス・ジャパンは、日本における「リタイアメントビジネス」の進化、発展に共に取組むことを発表した。

両社協働の第1弾として、多くの人が現役引退後に可能な限りゆとりある生活を過ごせる未来を目指す新型ターゲット・イヤーファンド『未来のわたし』シリーズを発表。現在、運用実績を積み上げているという。3月下旬に開催された記者発表会で、その背景や詳細などを聞いた。

資産運用、大切なのはわかっているけれど...

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現在、日本では少額投資非課税制度(NISA)に続き、確定拠出年金(DC)制度や個人型確定拠出年金(iDeCo)制度の改革が進められており、掛金の増額やDC加入者のための情報の見える化などが議論されている。

一方で、加入者が自身の公的年金や確定給付企業年金(DB)、DC、預貯金や借入を含む金融資産全体を把握することが難しい加入者も多く、年金制度や資産形成に対する理解は依然として十分とは言えないのが現状だ。

アセットマネジメントOneは、こうした課題の解決、加入者のライフプランに寄り添った運用商品の提供などの一連の取り組みを「リタイアメントビジネス」と称し、米国の老後資産形成において業界をリードするグローバル資産運用会社ティー・ロウ・プライスと協働して、プロダクトの提供に努めると発表した。

アセットマネジメントOne 取締役社長の杉原規之さんは「多くの個人が十分な資産形成や金融教育に取り組めていない可能性を踏まえ、今回の協働取り組みが、日本の資産運用業界全体に好循環をもたらす上で、1つの起点になれば幸いです」とコメントした。

アセットマネジメントOne 代表取締役社長杉原規之さん(左)と、ティー・ロウ・プライス・ジャパン 代表取締役社長兼最高経営責任者本田直之さん(右)
アセットマネジメントOne 代表取締役社長杉原規之さん(左)と、ティー・ロウ・プライス・ジャパン 代表取締役社長兼最高経営責任者本田直之さん(右)
アセットマネジメント One

両社協働の第1弾として設定された新型ターゲット・イヤーファンド「未来のわたし」シリーズは、ティー・ロウ・プライスが日本向けに独自開発したグライドパスに基づき設計されていることが大きな特徴だ。

グライドパスとは、資産形成の核となる株式投資比率を10~20代の投資初期段階から数十年後の年金受給時に向けて段階的に引き下げ、より価格変動性が低いと考えられる債券などの投資比率を高めていくことで、年齢に応じた最適な資産配分調整を行う仕組みだ。

ティー・ロウ・プライス・ジャパン代表取締役社長兼最高経営責任者の本田直之さんは「過去数十年のデフレなどの理由で『貯蓄から投資へ』と言われる時代になり、昨今は資産形成としての投資行動が加速しています。しかし、実情は一般的にイメージされるほどの勢いでは進んでおらず、『投資しないリスク』の考慮不足によって資産形成をより充実したものにする機会を損失した人が多いことも実情です」とコメント。

続けて「とはいえ、忙しさから勉強時間を確保できなかったり、遠い未来のことまで深く考えることは難しかったりと、個人の自助努力で資産形成を始めることの難しさもあります。『未来のわたし』では、各年齢層において、現在から未来に渡る状況を考慮して丁寧に形成したグライドパスを通じて、ターゲットとして設定した年齢まで金融資産を長期的に分散したポートフォリオに導いてまいります」と話し、本ファンドに託す思いを示した。

1万通りの経済シナリオを元に、退職後のウェルビーングを守る

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本ファンドのグライドパス設計の皮切りとなったのは、アセットマネジメントOneが立ち上げた組織「未来をはぐくむ研究所」の調査結果だという。金融経済教育の啓発・普及を目的とする同組織は、商品とは切り離した中立的且つ客観的な立場で金融や資産形成に関する調査や分析、情報提供などを実施している。

未来をはぐくむ研究所 所長の伊藤雅子さんは「日本の企業型DC加入者とiDeCo加入者(計5000人)を対象に実施した『職域における資産形成・経済教育等に関する調査』では、ティー・ロウ・プライス社からご提供いただいたアメリカ本国におけるデータを用いて、日米比較できる設問を一部取り入れました」と開発背景を説明。資産形成や金融教育においてリードしており、ターゲット・デート・ファンド(TDF)の普及率が90%を超えるアメリカと日本の現状を比較することで、日本独自のグライドパスを作るための手がかりを明らかにしたという。

伊藤さんは、調査結果の中から特筆すべき点として、DC運営管理機関や会社が提供する教育ツール・コンテンツの大きな差について話した。アメリカでは資産形成の設定や管理の方法、家計管理、証券口座や銀行預金を一括管理できるサービスなど、パーソナライズされた選択肢が充実しているのに対し、日本では教育ビデオや資料を中心とした手段にとどまっていることがわかったという。また、アメリカでは回答者の34%が、こうした制度を「非常に役に立つ」と積極的に肯定していることも明らかになった。情報収集においても、アメリカでは運営管理機関の情報を活用している人が多い一方で、日本はSNSやメディアを用いた自助努力の占める割合が大きい現状にも言及した。

ティー・ロウ・プライス・ジャパン 機関投資家ビジネス統括責任者の宮島靖郎さんも、商品提供サイドが個人の資産形成をサポートすることで、老後の金融ウェルビーイングまで導くことの重要性を語った。

宮島さんは「アメリカでの研究を通じて、働いていたときの手取り額に対して、退職後収入が大きく減ると幸福感が減ることがわかっています。退職後の実質生活費を計算するには、若いうちから退職する65歳までの総収入を計算する必要があり、自分の給料から引き落とされている金額を予見する必要もあります。しかし、退職までに予想がつかないことがたくさん起こるのが人生なので、その正確な着地点を想像することはあまり現実的ではありません」とコメントした。

さらに「人生100年時代と言われている中で、今後80年にわたる加入者の経済シナリオを1万通りのシミュレーションを通じて鮮明にし、どのようなシナリオでも頑強な効用満足度を最大化させるグライドパスを特定することを目指しました」と説明。本グライドパスを用いた本ファンドを実装する段階に近づいていることを受けて、大きな期待感を抱いていると語った。

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