連日報道されている「加計・森友学園問題」「防衛省日報問題」など文書管理について、そもそもどのくらいの人が知識を持っているでしょうか。
公文書ってどうあるべきものなの?1年未満で破棄していいって誰が決めるの?そんな、知っているようで知らない疑問を、株式会社データ・キーピング・サービス常務執行役員/アーカイブズ学修士 渡邊健さんに詳しく教えていただきました。
※このインタビューは、平成30年4月10日に実施したものです。
アーカイブズ学 : 有用な記録をいかに保存し、活用するかを学ぶ学問
Q : そもそも公文書、公文書管理法とは?
わかりやすく言うと「役所の人が作った文書」「役所の人が外部から取得した文書」のこと。
例えば、民間企業の人から提出された申請書とか、組織として受け付けたもの、組織として使う文書のことを公文書と言うんです。職員が自分だけの備忘録として書いたメモは含まれません。
その公文書をどう保存してどう活用するのか、というのを規定したのが公文書管理法です。
「役所の記録は国民のものだ、役所のものじゃない」という機運が高まった1999年に、役所の中にある文書は記録を国民が見たいと言ったら見せなきゃいけない法律として、情報公開法ができたんです。それ以前は役所のものでしたが、法律ができて見せなければいけなくなった。だけど、見せるのは役所の中にあるものだけ。ないものは見せられないよね、しょうがないよね、というのが、情報公開法ができてから公文書管理法ができるまでの間でした。
なので、情報開示請求をすると文書不存在がすごく多かった。そのため公文書管理法ができ、保存しなければいけないと法律で決められたので、ないじゃ済まされなくなった。それがこの法律ができた大きな意味です。
Q : 公文書の保存期間は誰がどう決めるの?
保存期間の基準は、公文書管理法のガイドライン(法律の下にあるもの)の中に、おおまかにはあるけども「各省庁で決めてください」ということになっている。
例えば、共通のガイドラインの中には「こういうものは1年未満でOK」などの類型が、いくつか書かれている。しかし、具体的に〇〇文書とか〇〇ファイルと書かれている訳ではないから、各省庁でどの類型に当てはまるか決めていけば良いことになっています。
行政文書の管理は、ファイル単位で管理するルールになっていて、それを全部管理簿につける。しかし、1年未満文書においては管理簿につけなくて良いことになっています。
管理簿というのはオープンにしなければいけなくて、管理簿に記載されれば、この省庁にはこんなファイルがあると知ることができるけど、そもそも1年未満文書はそこにも出てこないうちに廃棄されてしまうんですね。
Q : 昨今報道されている文書問題の実情とは?
「防衛省日報問題」というのは最初、保存期間1年未満だからないのは当たり前だ、と言ってたけど見つかった。行政機関側からしたら、あるのがおかしい、なんでとってあるんだ、となりかねないですね。それだけ防衛省の管理がずさんだということがわかります。
「加計学園」の時は、菅さんが怪文書だと言った文書が後から出てきて、文科省の職員が処分されました。あれは、なぜ個人的な文書を共有フォルダに入れてるんだ、なんで公文書扱いにしたんだ、ということだったんですね。
これがきっかけとなって年末にガイドラインが改正されたけど、個人フォルダに入れるべきものは共有フォルダに入れるんじゃない、と新しいガイドラインに書いてある。それは逆だろうと。
「共有フォルダに入れなければいけないものはきちっと共有フォルダに入れろ」と書け、というのが僕の意見なんですけどね。やっぱり発想が逆なんですよね。加計問題がきっかけでルールは変えられたんだけど、違う方向に行っている。これじゃむしろ、「安易に共有フォルダに入れたら公文書なっちゃうから個人フォルダにずっと入れておかないと」となるわけです。
「森友文書改ざん問題」は、あれだけ個人名を出して書くっていうのは意図的にやっているとしか思えなくて。普通、これ出たらヤバイだろうと思ったら書かない、書けとも言わないですよね。書いてあったら誰かしらが「やめとけ」と言うんじゃないかと。役所の常識はわからないから何とも言えないけど、僕からしたら、そこが驚きでした。だから、後から問題になった時に政治的な圧力があったのだ、責められるべきは財務省だけではない、と主張するくらいの勢いで書いたんじゃないかな~と思いました。
安倍さんにとっては、政治生命をかけるような案件ではないし、メリットもない。純粋に、関わってるわけないだろ!というのが本音で、絶対ないと確信があったんだと思います。だから「関わってたら辞める」なんて啖呵切ったんだと思う。それに対して、役所がさらに忖度するなんて計算もなかったと思いますよ。
他の誰かから政治的圧力がかかって、理財局は上手くやらなきゃいけない中で、だから「圧力があって行われたという記録」をわざと残したんじゃないかと思ったんです。だけど、佐川さんの証人喚問や口裏合わせのことなんかを聞くと、もしかしたら本当に財務省が忖度してしまったのかな、という思いがあって、誇り高き財務省がそんなことするのかな~というのが純粋に僕が持った感想です。
Q : 法律は改正される?改正で問題は解決できる?
内閣府の中には、公文書管理について内閣総理大臣から諮問を受けて議論する【公文書管理委員会】というものが常設されています。
公文書管理法には、元々「5年経ったら見直しをしましょう」という付則があり、現在すでに施行されてから7年経っているので、改正に向けて様々な団体で議論し、僕もいくつかの項目で意見を書いたものを、そこで取り上げてもらいました。しかし、それを改正に向けて具体的に進めようという動きはありません。「意見は意見として承りました」というところで終わっているんです。
現在の公文書管理法には罰則がありません。
いま、与党は検討委員会なんかを作って、まず罰則の部分について議論するということになっていますね。維新も独自の改正案を出すという話をしているので、なんらかの改正に向けては動くでしょう。ただ、それはアリバイ作りだね。罰則って非常にわかりやすいでしょ?一応対策をとりましたと。
罰則以外には、総務省が中心でやっている、電子決裁化ですね。電子決裁にすれば履歴が残るから、改ざんがやりにくくなる。実は、森友の文書って電子決裁だったと報道されていますね。だから、旧バージョンが残ってたんですよ。そういうこともあるので、電子公文書化をすすめましょうと動いています。
しかし、こういう問題があった時に変わるのは、わかりやすいけれども効果の低いことが変えられるだけで、専門家の人たちが声を上げているようなことは無視される可能性が非常に高いです。
例えば、法律やその下にあるガイドラインを制定、改定する場合には、日本の行政手続きだと「パブリックコメン」という国民に広く意見を求めるプロセスを必ず取っていて、僕も「行政文書の管理に関するガイドライン」という公文書管理法の下にあるガイドラインに対して意見を提出しました。新しいガイドライン案では、日誌等も保存期間1年未満でOKとなっているんです。僕は「今これだけ日報が問題になっているのに、日誌=日報だと読み替えることなんて簡単なんだから、そんな項目を入れていてはダメだ」とパブリックコメントを出したんだけど、反映されませんでした。その他にも、特定秘密保護法などに関してもパブコメの意見表明をしていますが、なかなか噛み合いません。
まとめ
日本には、公文書管理全体を管理監督する独立した機関がないというのが非常に大きな問題だそうです
しかし、独立した機関が管理をするとなると「保存すべきもの・廃棄するもの」の選別は誰が判断できるでしょうか。
日本では、渡邊健さんのように文書管理を専門的に学んでいる人は極めて少ないのが現状です。独立した機関を実現させるには、まず文書管理における教育機関を整えることが不可欠です。
アメリカなどに比べ、日本が遅れをとっているのは何故でしょうか。
法律や機関の問題だけでなく、当事者意識の低いわたしたちにも問題があるのではないでしょうか。
ネットが普及し、簡単に情報をとれる今の時代、情報をとる側が正しい情報を見極めていく必要があります。普段から積極的に一次情報に触れようとするべきであり、その第一歩として、誰もが権利を持っている情報開示請求を活用していくべきだと感じさせられました。
記事:日本政策学校 渡邉萌捺
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