米歌手アリアナ・グランデは、この半年の間に2回も「アジアンフィッシング」で批判されている。
「アジアンフィッシング」とは、非アジア人がメイクなどによってアジア人のように見せる行為を指す。ジャーナリストのワナ・トンプソンが、白人が黒人文化から利益を得ていると指摘した際に用いた「ブラックフィッシング」から派生したもの。
アリアナは4月、自身が手がけたR.E.Mメイクアップラインが大手ビューティーショップで発売するのを記念し、Instagramに写真を投稿した。そこには、細長くほぼ一重に見える瞳と、普段とは違い色白な肌をした彼女が写っていた。
アリアナが自身とは異なる人種を真似て非難されるのはこれが初めてではない。彼女はこれまで、黒人やラテンアメリカ人の文化盗用で何度も非難されている。
しかし、アジア人の特徴を取り入れ「エキゾチック」なルックスを表現したアリアナのスタイルは、比較的新しいトレンドの一部だ。
アジア人や「人種が曖昧」なルックスがどのようにして欧米で「クール」になったのか
アジア発の美容テクニックや製品は数年前から海外で人気を博しているが、身体的にアジア人に似せるというトレンドが盛り上がりを見せ始めたのは、最近のことだ。
美容整形と人種多様性の接点について研究している、次期形成外科研修医のウェーバリー・へー氏は、「私たち形成外科分野のアジア・太平洋諸国系アメリカ人女性や支持者から成るチームは、2021年初めから欧米のソーシャルメディアインフルエンサーの間で『fox eye(キツネ目)』の人気が復活してきていることに気づきました」とハフポストUS版に述べた。
2018年から、つり上がった瞳をつくり出すメイクや美容整形術の「fox eye」という言葉のGoogle検索インテレストは、およそ2倍に増えている。また、眉を上げ、まぶたスペースを広げるための施術を指す「brow lift(ブローリフト)」や「brow surgery(ブロー手術)」というワードも同様だ。
細長い一重まぶたはアジア人だけの特徴ではないが、アジア人以外がこの特徴を取り入れることで、人種が曖昧な(人種の特定が難しいような)ルックスが生まれる。
ハフポストUS版が取材した複数の専門家は、欧米がアジアの美学に魅了された主な要因として、K-POPの世界的な人気上昇とソーシャルメディアの普及を挙げている。形成外科医のキンバリー・リー医師は「ポップカルチャーは、私たちが理想とする美の基準を進化させてきました」と話す。
また、ここ数年でアジア人の間でも、アジア人らしい見た目であることへの関心が高まっている、と指摘する。「以前は欧米人の顔が望ましいと考えられており、アジア人は顔を欧米人風にすることに関心がありました。しかし時代の変遷と共に、ほとんどの患者さんは自分の民族性を保ちつつ、ルックスを向上させたいと求めるようになりました」
アジアンフィッシングに基準はあるのか?
アジア人は全員同じではないーー。「アジア系アメリカ人」という包括的な言葉には、約50種類の異なる民族が含まれている。そのため、誰かが「アジア人」風を装っている場合、それを明確に定義するのは難しいかもしれない。
アリアナの擁護派にも一理ある。「アジア人に見える」方法は千差万別で、顔色を明るくしてアイラインを引いただけで、フロリダ育ちのイタリア系アメリカ人の彼女が東アジア人に見える、と考えるのは単純すぎるかもしれない。
どこからがアジアンフィッシングになるのかを示す客観的な基準はないが、文化盗用に対する世間の声を無視することは、長年アメリカで存在を抹消されてきたアジア人の問題を永続させることになる。
ファッション&ビューティー・ジャーナリストのメリッサ・マグセイセイ氏は、「アジア人の私たちに対し、目を真似ることが人種差別ではないと言うのは、長い間私たちがアジア人差別を勘違いだと思い込まされていたのと変わりません」と述べる。
アジアンフィッシングとアジア人へのヘイトクライムは共に増加傾向にある
多くのアジア系アメリカ人にとって、アメリカでアジア人への偏見や暴力がほぼ野放しにされているにも関わらず、アジア系のルックスが流行していることは理解に苦しむ。
ヘー氏によると、アメリカにおけるアジア人女性の「エキゾチック化」は、アジア人女性を売春婦や労働者とみなし、アメリカに入国することを禁止した1875年のページ法に遡るという。それから数世紀が経つが、アジア人女性を部外者として見る偏見は根強く残っている。
「歴史的に、私たちはある一部については称賛され、他の部分については無視され、批判され、偏見を受けてきました。...民族全体の中から自分に都合の良いものだけを選ぶことは、単に私たちを傷つけるだけでなく、私たちが全体として美しいと認識されていないという考えを長期化させるものです」とマグセイセイ氏は語る。
アジア人が人種差別や脅迫に苦しまない未来を想像するためには、アジア人の人間性が、深い文化的理解のない断片的なトレンドではなく、全面的に受け入れられなければならない。
リン氏は、「真似はしても、美に関する文化、遺産、伝統には興味がない人たちは常に存在します」と話す。「しかし、美の基準が多様化することで、より多くの人々が主流の『新しい』トレンドを理解し、共感してくれるよう願っています。アジア人が他の人たちが活躍するためのチケットではなく、もっと大きな絵の一部になるのを見たいです」
マグセイセイ氏はリン氏の指摘に共鳴した。「私たちは、都合のいい時だけでなく、いつでも全てが美しいのです」と述べた。
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。