コロナ禍により、オンライン・コミュニケーションが増えている今。適切な言葉を選び、文章を組み立てる力が、これまで以上に重要です。
でも、自分の言葉や表現に自信のある人は少ないのでは。まずは、新聞の校閲者が用意した4つのクイズに挑戦してみてください。
■日本語クイズ
<第1問>
俄然やる気がわいてきた。
「俄然(がぜん)」の意味は?1.急に・突然
2.とても・断然
答え:1
「急に」「突然」が本来の意味。「俄然」の「俄」は「にわか」とも読みます。突然降る「にわか雨」の「にわか」と同じです。現代では音が似ている「断然(だんぜん)」の意味で使われることが増えています。
<第2問>
会議が煮詰まる。
「煮詰まる(につまる)」の意味は?1. 議論や考えなどが行きづまって、どうにもならなくなる
2. 議論や考えなどが出つくして、結論を出す段階になる
答え:2
会議が煮詰まったら、次に結果が出るのが本来の使い方。これも音のイメージからか、反対の「行きづまる」の意味で使う人がたくさんいます。
<第3問>
議席が過半数を超える。
「過半数(かはんすう)を超(こ)える」は本来の使い方である。
○か×か?
答え:×
「過半数」は「すでに半数を超えている」という意味。「過半数を超える」は、意味が重複しています。「半数を超えた」や「過半数に達した」などの表現がより適切。
<第4問>
あのチームの本拠地は東京ドームだ。
「本拠地(ほんきょち)」は本来の使い方である。
○か×か?
答え:×
「本拠」が本来の用法。「拠」と「地」は同じ意味なので、重複になります。とはいえ、最近は「本拠地」も一般化し、新聞などでも使うようになってきています。
***
みなさんは、何問正解できましたか? 言葉の使われ方は、時代によって少しずつ変化するもの。「あれ、どっちだろう?」と迷うこともあったのではないでしょうか。
■なぜダイヤは「改正」でなく「改定」と記すのか。校閲のこだわり
これらのクイズを提供してくれたのは、朝日新聞社校閲センターの中原光一さん。新聞記事は、①記者が原稿執筆、②編集者が全体調整、③校閲者が最終チェック、というプロセスを経て世に出されます。言葉のプロである校閲の仕事を、中原さんは次のように教えてくれました。
「校閲の仕事は、大きく分けて二段階あります。一つ目は、『マイナスをゼロにする』仕事。誤字脱字や事実関係の誤りを指摘する、基本的な業務です。二つ目が、『プラスを積み上げていく』仕事。『この文章で傷つく人がいないか』『このほうが読みやすいのでは』と検討・提案する。ここに、校閲の本当の意味があります」。
言葉へのこだわり、読み手への配慮は、細部にも。たとえば春や秋に、鉄道各社が新ダイヤを発表した時。朝日新聞ではダイヤ「改正」ではなく「改定」と表現します。それはなぜか。中原さんは入社時、理由にハッとさせられたといいます――。
「ダイヤが変わると、『特急が3本増えた』など、多くの場合、よいことがあります。その反面、『最寄り駅に急行が止まらなくなった』など、不利益を被る人もいますよね。だから、直して良くする意味が強い『改正』より、中立的な『改定』を使うのです。新聞は、多様な読者がいるので、この文章で傷つく人がいないか配慮しなくてはいけない。小さな言葉一つにも、気を配っています」(中原さん)。
二段階の細やかな校閲を経ることによって、新聞社は事実や思いを、より誤解なく読者に伝えられる。「人を傷つけない言葉選びや配慮が大事」という点は、昨今のオンライン・コミュニケーションにも通じるのではないでしょうか。
■プロが教える「文章力を上げる3つのコツ」
入社以来、言葉を追求してきた中原さんは、校閲にとどまらず、自ら記事を書くことも。さらに、大学等で文章講座の講師も務めています。オンライン・コミュニケーションが増えている今、相手を思いやった日本語選びや文章力をアップさせる方法とは? 3つのコツを教えてもらいました。
1. 大事なことは先に伝える
結論を先に書くということ。特にメールの表題は、新聞の見出しと同じ。中に書いてあることを20字くらいに要約するのがおすすめです。本文も箇条書きを使うなどの工夫を。
2. 一文は40字以内に
長文は百害あって一利なし。日本語は助詞や接続詞を使えば、一文を1000字でも続けられます。でも、句点(。)で切るだけで、断然読みやすくなります。
3.「思います」を多用しない
中原さんの経験上、「〇〇だと思います」という表現の約8割は言い切れるもの。事実なら、濁さず言い切りましょう。また、事実を述べる場合、なるべく具体的に書くこと。「昔」を「15年前」や「20歳の時」に書き換える。これだけでも、文章が生き生きとしてきます。
■朝日新聞デジタルの活用を
文章力アップには、よい文章に触れることも重要です。中原さんは、「どこでも読める朝日新聞デジタルを、気軽に活用してほしい」と話します。その強みの一つが、文章の質や事実関係の信頼性が担保されていること。紙面同様、複数の校閲者がほぼすべての原稿をチェックしています。
「様々な立場の人に配慮し、言葉を選んでいます。語句の使い方などは、ぜひ参考にしていただきたいです。事実関係も慎重にチェックしています。何か意見を述べる時、自信を持ってソースとして利用してください」(中原さん)。
■朝日新聞デジタルのおすすめポイント
ここで、朝日新聞デジタルのおすすめポイント、活用方法を中原さんに教えてもらいました。
1.紙面ならではの「偶然の出会い」
一度に幅広い情報に触れられる「紙面ビューアー」は、大きな魅力。科学や経済など、興味がないと思っている分野でも、読むと意外とハマることも。偶然の出会いが、新たな発見につながります。
2.デジタル独自の長文記事
オリジナルの長文記事を読めることは、朝日新聞デジタルの強み。字数の限られる紙面では実現できないことです。特に「A-stories」というシリーズは、よりすぐりの連載やルポルタージュをデジタル先行で掲載。オードリー・タンさんの教育論などを読むことができます。
3.全国各地の地域面を網羅
どこにいても、全国すべての「地域面」を見ることができる。これも、紙面にはない魅力です。「地域面には、その地の政治、経済、文化や事件が、ギュッと凝縮されている。ご当地の幕内弁当みたいに、バラエティ豊かな楽しみがあります」。
朝日新聞デジタルを試してみませんか?
文章表現、事実関係ともに、校閲のプロがチェックを重ねている朝日新聞デジタル。中原さんもおすすめの紙面ビューアーを活用したり、独自の記事や地域面を楽しんだり。使い方は、あなた次第です。ぜひ、朝日新聞デジタルを試してみませんか?
朝日新聞デジタルの詳細は、こちら
お話を聞いた人:中原光一(なかはら・こういち)さん
1998年朝日新聞社入社。東京校閲部、大阪校閲部、高松総局、大阪編集センター、教育総合本部などを経て、東京校閲センター次長。専門職である校閲記者採用ながら、取材執筆、整理編集、大学やカルチャーセンター講師など、マルチに活躍。