「アート×ビジネス」の美意識に基づく、21世紀型経営

「ビジネスがアートに学ぶことはたくさんある」
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アートにはマーケティングが介在しません。作家はアンケートやリサーチを行うことなく、あくまでも自分が描きたいものを表現します。

アートは失敗という概念が薄いのも特徴です。絵が売れなくても、その絵は失敗作とは呼ばれません。もし、他人から言われるがままに描いた絵が売れなかったとしたら、それは作家にとってもオーダーした側にとっても失敗だと言えるでしょう。しかし、自分の表現だけを追求した結果であれば、たとえ売れなくても失敗ではないのです。少なくとも、作家にとっては。

『Soup Stock Tokyo』を運営している株式会社スマイルズの創業者・遠山正道さんは、「ビジネスがアートに学ぶことはたくさんある」と語ります。『Soup Stock Tokyo』においても、スープは単なる売り物ではなく、共感の関係性を広げていくための軸として位置付けているそう。「作品だと思ってつくってきた」という言葉からは、アートコレクターとしても知られる遠山さんらしい美意識が感じられます。

アートは自分の内側に基準がある

株式会社スマイルズは『Soup Stock Tokyo』以外にも多彩な事業を展開しています。セレクトリサイクルショップ『PASS THE BATON』、ネクタイブランド『giraffe』、1日に1組だけ宿泊できる『檸檬ホテル』、GINZA SIXにオープンした海苔弁専門店『刷毛じょうゆ海苔弁山登り』などなど。

どの事業においてもマーケティングを行っていないどころか、ターゲットも定めていません。大衆という存在しない人たちを動かそうとするのは不遜な行為であり、自分たちの個性を活かせるという必然性と、「やりたい」という純粋な気持ちだけを原動力にしています。

この姿勢には、アートの考え方が息づいています。多くのビジネスは「成り立つかどうか」という外側に基準があり、言わば大人の都合です。対してアートは、「好きか嫌いか」という内側に基準があり、言わば子どもの都合。遠山さんは仕事に取り組んでいるときの心模様を、「恋をしているよう」と自己分析しています。

内側に基準があると、個人と仕事が重なり合う

純粋な行動原理で働いていると、個人のアイデア、センス、コミュニケーション、情熱、リスクがそのまま全て仕事と重なります。当事者意識を持とうと発破をかけずとも、スマイルズの社員はみな自分事で仕事に向き合っているそうです。

社員が自分事で仕事をしていると、経営層がハンコを押す機会が減ってくるとのこと。どうすればより良くなるかを各自で考えながら動くため、上司にお伺いを立てることが少なくなるのです。

自分事で仕事をしている具体例として、遠山さんは1つのモデルを挙げてくれました。例えば、会社でイベントを開催する際、登壇者に烏龍茶を出していたとしましょう。ある社員が実家に帰ったとき、近所の茶畑でルイボスティーを作っているのを見かけたとします。烏龍茶の代わりにルイボスティーにしたら喜んでもらえるかもしれないと思い、実行に移したとしたら、自分事で仕事に取り組めている証です。

登壇者がルイボスティーを気に入ってSNSで拡散すれば、ビジネスに発展する可能性もあります。ビジネスの端緒となるのはより良くしようという思いであり、より良くしようと思えるのは、日々の仕事を自分事として捉えているからです。

21世紀はアートの時代

20世紀は経済の時代でしたが、モノやサービスが供給過多になっている21世紀は文化・価値の時代、つまりアートの時代とも言い換えられます。『業種・業態・用途・内容物・価格』などの具体性に関しては経済の領域ですが、『おいしさ・素材・想い・おもてなし・感動』などの抽象性はアートの領域です。

これまではビジネスにアートの文脈を入れ込んでいた遠山さんですが、最近ではその逆、つまりアートにビジネスの文脈を入れ込みはじめています。アートとは関係のなさそうな場所に作品を置くことで、日常の中に非日常を感じさせる『The Chain Museum』はその先駆け。美術館の裏道、都会のど真ん中、風車の突端、レストラン、古いビル、役所、寺など、ふとした何気ない場所に作品を置くことで、「アートは難解で高尚なもの」という先入観のない状態で作品と向き合うことができます。

マネタイズはこれからだそうですが、賛同している仲間たちとまだ見ぬ景色に向かっていることにトキメキを感じていると遠山さんは言います。「気になる場所があったら行ってみたい。興味のあることは突き詰めたい。私たちの矢印はいつも前を向いているんです」と屈託のない表情で語る遠山さん。いつお会いしても若々しいのは、誰よりも仕事に恋をしているからなのでしょう。

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