アレシボ天文台が崩壊、57年の歴史を振り返る。宇宙人にメッセージを送ったことも

かつては世界最大だった巨大電波望遠鏡。映画『007 ゴールデンアイ』や『コンタクト』の舞台にもなりました。
重さ約900トンの受信機がケーブルごと反射面に落下して損傷したアレシボ天文台(12月1日撮影) (Photo by RICARDO ARDUENGO/AFP via Getty Images)
重さ約900トンの受信機がケーブルごと反射面に落下して損傷したアレシボ天文台(12月1日撮影) (Photo by RICARDO ARDUENGO/AFP via Getty Images)
RICARDO ARDUENGO via Getty Images

米領プエルトリコにあるアレシボ天文台の電波望遠鏡が、12月1日に崩壊したと運営母体のアメリカ国立科学財団(NSF)が発表した

2016年に中国の「天眼」に抜かれるまで世界最大だった。天文学史に残る発見を数多く残し、宇宙人探査で活躍。『007 ゴールデンアイ』や『コンタクト』といった映画の舞台にもなったが、57年の歴史に幕を閉じた。

■直径305メートルの巨大電波望遠鏡だった

受信機が落下する前のアレシボ天文台。3本のタワーからケーブルが延びている(2003年撮影)
受信機が落下する前のアレシボ天文台。3本のタワーからケーブルが延びている(2003年撮影)
ASSOCIATED PRESS

WIREDナショナルジオグラフィックなどによると、アレシボ天文台があるのは、カリブ海に浮かぶプエルトリコ島。ジャングルに囲まれたカルスト地形の窪地を利用して巨大なパラボラアンテナが設置されている。

直径305メートルの球面反射面が宇宙からの電波を反射し、150メートル上空にある受信機でキャッチする仕組みだ。受信機は、3本のタワーから伸ばしたケーブルで釣り下げられていた。

NSFの発表によると12月1日、3本のタワーの上部が壊れ、重さ約900トンの受信機が反射面に落下した。天文台の学習センターもケーブルの落下で重大なダメージを受けたという。NSFの理事は「私たちはこの状況に悲しんでいますが、誰もけがをしなかったことに感謝しています」とコメントしている。

落下前のケーブルと受信機
落下前のケーブルと受信機
UniversalImagesGroup via Getty Images

アレシボ天文台は8月にケーブルが切れて反射面が長さ30メートルに渡って破損。11月にも、別のケーブルが切れる事故が起きていた。このままでは崩壊して作業員やスタッフの身を危険に晒すことになるが、安全に修理するのが不可能だとして、NSFは11月19日に電波望遠鏡を廃止して解体することを発表していた

天文台のスタッフは11月のケーブル事故以降は避難しており、限られた人員のみが中に入れるようになっていたという。

■太陽系外惑星を最初に発見、宇宙人へのメッセージも。映画にも登場

アレシボ天文台は1963年に完成。規則的な周期で電波を放射する天体「パルサー」の調査でよく知られている。

天文台の公式サイトによると、74年には、ジョゼフ・テイラーとラッセル・ハルスが、史上初の連星パルサーを発見。これにより、アインシュタインが一般相対性理論として指摘した「重力波」の存在が証明された。この業績で発見者2人はノーベル物理学賞を受賞している。92年にはパルサーの観測から、初の太陽系外惑星も発見されている。

アレシボ天文台は送信機も備えており、レーダーとして使用することで地球外文明の探査にも力を入れていた。1974年には、地球から2万5000光年離れたヘルクレス座の球状星団「M13」に向けて地球文明に関するメッセージを電波信号として送った

このアレシボ・メッセージには、太陽系の図や地球の人口、DNAの構造、簡単な人間の姿、アレシボ天文台の姿などが描かれていた。もし、送信先の「M13」の場所に宇宙人がいたとして、この信号を解析して返事をしても、地球に到達するのは5万年後という壮大なプロジェクトだった。

アレシボ天文台では92年から、地球外文明から人工的な信号が発信されていないか調査していた。99年には「SETI@home」を開始。インターネットを通して世界中のパソコンがアレシボ天文台のデータを解析して、地球外文明の証拠を探すプロジェクトが進められていた。

巨大なアンテナが見せる壮大な光景から、1995年のアクション映画『007 ゴールデンアイ』や、97年のSF映画『コンタクト』の舞台にもなっている。

アレシボメッセージ(右)と作者のフランク・ドレイク博士
アレシボメッセージ(右)と作者のフランク・ドレイク博士
The Washington Post via Getty Images
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